「総合診療医 ドクターG」に学ぶ総合型コンサルの姿

症例の目につく現象だけに引きずられず、事実との突き合わせで矛盾ない原因を突き止め、衆知を集めて正しい診断を下すべく、分析と議論をリードする。それが総合診療医に求められるファシリテーションの技能であり、総合型のベテラン経営コンサルタントの技でもある。


NHKに「総合診療医 ドクターG」という、小生お気に入りの番組がある。毎回、総合診療医のベテランが1人、研修医が3人、芸能人ゲストが2人ほどスタジオに招かれ、ビデオでの症例を観て、原因を推理・究明する。司会の2人(お笑いかな?)が仕切る訳ではなく、それはむしろベテランの総合診療医の役目。彼/彼女は既に原因を知っているが自らは答を言わず、ファシリテーションしながら板書し、研修医とゲストに推理させる。その過程を楽しむ番組である。

このファシリテーションの様子が実にコンサル現場で小生がやっていることに近く、親近感を覚えるのである。当然ながら、番組内では総合診療医だけが本当の答(=真因)を予め知ってファシリテーションしているわけだが、実際の診療現場では関係者と一緒になって真因を究明していくのである。

この番組では、症例に関するビデオは基本的に2回ある。発症状況と直接の症状を説明するのが1回目、その前後の原因となった行動やその直後の様子などを見せるのが2回目。

最初のビデオで直接の症状を見せられた研修医たちは、症状が当てはまる可能性の高い病名を答える(コンサル現場でも初期仮説を幾つか挙げる)。研修医の多くはこの時点では表面的な捉え方しかできず、幾つかの症状は当てはまるが、幾つかの矛盾点を軽視している(経験の少ないコンサルだと、思い込みでとんでもない診断をするものだ)。その初期診断の矛盾点や研修医が見逃した重要なポイントをゲストが指摘することも多い(クライアントメンバーが、意外と正しい気づきをすることがある)。

次のビデオでは、最初のビデオで開示されなかった情報(例えば他の症状や、ちょっと前の行動など)が映され、具体的な症状に関する情報が増え、そこから矛盾する病因が排除され、可能性の高い病因が絞り込まれる。最初のビデオ直後には自信のなかった研修医たちも、この2回目のビデオ直後の診断ではかなり自信ありげに答える。しかしベテラン総合診療医が幾つか矛盾を指摘すると、途端にミスに気づき、小声で「…違うかも知れませんね」と答える(この事実に対する素直さを将来も維持して欲しいものだ)。

この過程が、実際のコンサルのプロジェクトで仮説が検証されていくプロセスに実によく似ている。インタビューやその他の調査を続けているうちに出てくる新しい事実発見に伴い、思い込みが次々と覆されて、仮説自体がどんどん差し替えられて修正されていく、エキサイティングだが目まぐるしい工程である。

やがて当初の思い込みとは全く違った主要因と因果関係に思い至り、最後には意外な病名が告げられる。事実との一致・矛盾を適切に指摘しながら参加者の思い込みを解きほぐし、気づきを促し、その結論への収束過程を導くのが、総合診療医のベテランによるファシリテーションである。これはまさにコンサル現場において、小生らベテランに求められるファシリテータの姿であり、その期待に応えたいと思っている。
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電子書籍は全く想定外の「異物」として成長中

この土曜日に、電子書籍に関するミニセミナーがあり、もともと興味を持っている分野なので、出掛けていった。参加者が極端に少なくて驚いたのだが、講師の人と綿密に意見交換できたので、却って充実できた。得られた知識もそれまで漠然と思っていたこととはかなり異なり、非常に新鮮だった。

講師はこの半年ほど電子書籍の出版に特化したコンサルティングを実施してきた方で、電子書籍市場の現状に詳しい。その人が断言するには、日本の電子書籍市場は米国のそれとは全く異なっていて、電子書籍用プラットフォーム(Kindle, Leader, Kobo)上での販売は完全にコケており、汎用プラットフォームであるiPadやAndroid Tablet上での販売も苦戦しているとのことである。売れているのはスマホ(iPhoneやAndroidスマホ)をプラットフォームとする場合であり、従来の携帯文化の延長に過ぎない模様だ(とはいえdl数は飛躍的に伸びてはいる)。

コンテンツに関しては、写真集や小説のようなじっくり味わうようなジャンルは総スカンのようだ。それに300円以上の電子書籍もダメ。だから大手出版社のコンテンツは総崩れだという。

ではどんなコンテンツが売れているのか。ズバリ、自己啓発、ビジネス関連、マネー、恋愛、アダルトものだという。最後の2つはガラパゴス携帯の時代には大半を占めたそうなので、その延長上なのだろう。上位3ジャンルはあまり「濃い」ものではなく、「へー、そうなんだ」程度のお役立ち感が重要で、大半が1タイトル100円というものらしい。

主な読者層は圧倒的に20~40代の男性サラリーマン(これは予想通り)。朝夕の通勤途上、ランチ時や夜の飲みネタ探し、あるいは帰宅してから何かの合間に、自分のスマホで読む。言い換えれば、スキマ時間の暇つぶしに軽く流し読みするというスタイルなのだろう。

では女性読者はいないのか。講師の方によると、女性は無料コンテンツしかダウンロードしないらしい。唯一の例外(有料dl)はボーイズラブもの、アダルトものだという(どうやって調べたのかは聞かなかったが…)。小生が知っているタブレット端末所有者の大半は40~50代のIT好きな管理職クラスだが、彼らは絶対数からいえば少数派であり、しかもまだタブレット端末での読書が主流ではないので、納得できる分析結果だった。


講師の方はこうした分析を示した上で、今の電子書籍に関しユニークで面白い見かたを示した。これはブログで公開すべきでないと思うので伏せるが、非常に的確なものだと感じたし、大いに参考になった。

それにしてもユニークなケータイ文化を持つ日本における電子書籍は、当初関わった人たち(電機メーカー、ITベンダー、出版・印刷業)の思惑とは全く違う、想定外の「異物」として育ち始めているようだ。

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ハイテクと渋滞の国が主導するカーナビの進化

4月25日(木)に放送されたNHK「らいじんぐ産~追跡!にっぽん産業史」の「カーナビ“車の頭脳”へ走り続ける!」はカーナビゲーションシステム(カーナビ)の歴史を辿るものだった。感激したのは、まずカーナビは日本人が発明したこと。そしてその発想は「自動運転」という壮大な夢への第一歩だったこと。

カーナビは昭和56年、ホンダが開発した。「自動運転」実現のための計画案の上で「コース誘導」という要素がカーナビの出発点。透明フィルムに印刷された地図を手差し挿入し、出発地点を指定するものだった。いかにもアナログである。戦車で使われていたジャイロ技術を使い、自分が進んでいる方向を把握できるようにし、車の進むタイヤの回転から出される距離に応じてポイントの光が移動し、自分がどこにいるかを示してくれる。

問題は、知らない土地で現在地が分からなくなってしまった時におもむろに開始しても使えないということ。三菱電機の技術者が軍事技術GPSを導入し、どこにいても自分の位置が分かるようにした現在のカーナビの原型を作った。トンネルなどGPSの電波を受信できない場所では電子コンパスで補う方式だった。そのカーナビが装備された車の価格は何と530万円!今なら1000万円程度に相当するかも知れない。「道は星に聞け」という宣伝コピーは絶妙なものだった。

その後GPS機能は当たり前になり、さらにルート検索の進展も面白い。経路コスト計算法は、途中の交通でどれだけ時間が掛かるかを計算し、複数ルートの中から最も「経路コスト」が小さいものを選ぶもの。これは実際に走って計測したそうだ。次には地図でルートを表示するだけではドライバーの負担が大きいため、映像で曲がる交差点の様子を示したり、音声で指示したりする方式にどんどん改良されていった。「音声案内つきカーナビ」は画期的で、これによってカーナビの普及に弾みがついたという。

本当の最短ルートを実現する試みはその後も進化し、待ち時間を含む交差点を曲がるのに実際どれだけ時間が掛かるのかを考慮に入れるようになった。これは平均的な時間を割り出すため、一つひとつの実際の交差点で何度も実測したそうだ。道幅や信号タイプにより、交差点は3万通りにパターン化されるようになったとのこと。気が遠くなるほどの地道な作業である。

番組の最後では、カーナビが渋滞解消や事故防止に貢献するかも知れない姿を伝えていた。道路の混雑状況を伝えるVICSは幹線道路にしかない。そこで通信機能を持つカーナビから個々の車の走行状況を収集する会員サービスがある。その膨大なデータをVICSからのデータと合わせて分析して、渋滞情報として把握し、会員にフィードバックするのである。また、カーナビが把握している周囲の交通状況を解釈して、運転手が安全に運転できるようにサポートする(一種のAI)システムも紹介されていた。

こうした技術は10年近く前から知っているが、随分洗練され、実用化が進んだと感じる。自動運転が実用化される日もそう遠くないのではないか。ハイテクと渋滞の国・ニッポンには、カーナビで常に主導権を執る十分条件が備わっていると思う。

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「丸亀製麺」の合理性が“常識破り”と捉えられる不可解

4月25日(木)放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)は「急成長の秘密は“常識破り経営”にあり!」と題して、讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」を採り上げていた。同チェーンを展開するトリドールの代表取締役社長、粟田貴也氏(この社長、実によく喋る)のユニークな経営哲学を紹介していて面白かった。

同社は他にも焼き鳥ファミリーダイニング「とりどーる」、焼きそば専門店「長田本庄軒」など、グループ全体で国内784店舗(4/25時点)を運営している。元々焼き鳥居酒屋チェーンだった(社名の由来は鳥人形らしい)というのはこの番組で初めて知った。トリドール全体での年間出店数は約120店舗(3日に1店!)という怒涛の攻勢。もちろんその多くは「丸亀製麺」だろう。売上はこの5年で3倍に成長。2012年度は売上高730億円、80億円の過去最高益を達成する見込みだという絶好調企業だ。

「丸亀製麺」は釜あげうどん一杯280円、サイドメニューなどと組み合わせても500円以下の“ワンコイン”の安さ、そしてコシのしっかりした麺が人気で、急成長している。この番組ではその秘密を「非常識な非効率経営にあり」と謳っているが、小生に言わせれば全くの誤解。同社は非常に合理的であり、その合理性の範囲で十分効率的なのだと思う。

番組の指摘する「非効率」は、飲食チェーンの“常識”、セントラル・キッチン方式でないこと。全ての店舗に製麺機が置かれ、各店で粉から麺を毎朝作っている。ダシも店内で昆布やカツオブシなどを使ってイチからとる。サイドメニューの天ぷらやかき揚げも、生野菜を切るところから始まる。おにぎりも機械ではなく店員が手で握る。だから丸亀では開店1時間半前には、仕込みが始まる。その分、店員も多い。

しかし粟田社長が説明したように、店でやるからこそ美味しさを実現でき、演出すらできる。うどんをセントラル・キッチン方式で製麺したらどうなるか。寝かせなければいけない時間帯に輸送することになり、温度・湿度管理は狂い、「丸亀製麺」のウリである麺の出来にばらつきが生じかねない。ダシも作りたてで提供するからこそ、香りと品質を担保できる。生野菜をセントラル・キッチンで切って各店に配送したりしては乾燥してしまう。ましてや天ぷらやかき揚げを揚げるのを店でやらなければ、ベチョベチョに湿気てしまう。

セントラル・キッチン方式でなくとも同チェーンは十分効率的だ。なんといっても大量の店舗展開と人気のお陰で、食材などの仕入れは圧倒的に割安にできる。店舗設計も標準化し、建材や設備の調達も割安なはず。メニュー自体は極端に少なくはないが、うどんとトッピングの組み合わせに過ぎず、それにサイドメニューを加えるという構成は変わらないので、オペレーションは実にシンプルだ。しかもセルフ方式なので、配膳や片付けに人手はほとんど要らない。これを効率的でないという番組プロデューサーの目はどうかしていると思う。

むしろ感心したのは、「丸亀製麺」のシニア活用術と独自のパート活用戦略である。中高年の従業員・パートが大半で、その分だけお客に対する声掛けや気配りが自然とできる。うどんという食材にマッチした、柔らかい雰囲気が店舗に作られているようだ。そして全国に1万6千人いるパート従業員のやる気を引き出すため、パートを店長に抜擢する制度を去年からスタート、今後5年で全店長をパートに切り替える方針だという。

でも肝心な店舗での温かい雰囲気を支えるのは、シニアを中心とする(パートを含む)従業員の「ここで働くのは楽しい」という気持ちだろう。若者を限界まで競争させるためにブラック化した某大手小売企業とは全く違う、サービス企業のあるべき姿だ。「丸亀製麺」の経営はユニークかも知れないが、非常に合理的である。これが“常識破り”と捉えられるのは、それだけ世間の目が、効率一辺倒や業界の常識に目を奪われて本質を見失ってしまったからではないか。

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対日非難を続ける韓国の思惑と苦境

挑発行動が激しさを増す北朝鮮をけん制するための日本からの呼び掛けにも関わらず、5月に予定されていた韓日中首脳会談は延期された。加えて、尖閣諸島問題で日本避難を続ける中国と歩調を合わせるように、日本の閣僚の靖国神社参拝に対し、韓国が再び声高に非難の声を上げている。「日本は近隣諸国の感情を逆なでしている」と。

もちろん他国の法事を非難する資格などどんな国にもない故、中韓のこの主張はまともに取り合う必要すらないが、そもそも韓国におけるこの類(もう一つ「慰安婦問題」があり、そちらのほうが日本にとって実は致命的である)の対日非難には2つの狙いがある。

一つは、日本の信用を落とすことで、欧米亜の消費者に対し日本製の代わりに韓国製品を売り込む、純粋な外交方策としてのネガティブ・キャンペーンである。これは国家戦略としての冷静な行動であり、感情論ではない。日本と仲良くするよりも日本叩きに走ったほうが韓国にとって得なのだ。

もう一つは国内向けの政治的キャンペーンである。中国と同様、対日非難をすることで韓国国内世論を誘導し、政府への共感を増やすという積極的側面と、それ以上に、へたに日本に対し妥協をする姿勢を見せると政敵から「彼らは親日的だ」と非難されかねないという受動的側面の両方から、強硬な対日非難を続けるほうが政治的リスクが少ないからである。

どちらもキャンペーンの音頭を執るのは大統領周辺の首脳であり、打算的な行動なので、(ネト右の人たちがやるように)感情的になって反論したり怒ったりしても仕方ない。むしろそうした行動に出ることで却って韓国が損をするように、国際的に発信し立ち振る舞うことが日本政府には求められている。

それにしても、どうして韓国内で、北朝鮮の挑発という、本来なら日韓連携に動きやすいはずのタイミングで強硬な反日感情が露出するのかを理解すべきだ。これは韓国経済が今とんでもない苦境に追いやられており、その主因が日本だと考えられているからである。

アジア金融危機後のIMFによるショック療法、そしてリーマンショック後の経済回復策として、同国は極端な輸出主導経済を目指し、そのために財閥への資本集中と大胆な規制緩和を進めてきた。その結果、大幅かつ長期間にわたる円高・ウォン安に助けられ、電機・自動車を中心に日本メーカーに追いつき追い越すような成長を続けたことは記憶に新しい。

その過程では社会的には中間層が没落し、極端な格差社会にもなっており、その割に社会保障制度が貧弱なため、社会不安は増大している。そんな中でアベノミクス効果による「円安・ウォン高」が急速に進行したため、輸出産業が軒並み不調に陥っているのだ。そのせいで韓国の株価は急落し(外人投資家が資金を引き揚げ、東証に移したため)、逆資産効果により国内消費も低迷している。ちょうど日本と逆の状況なのである。

これを受け、韓国の週刊誌やTV番組では連日、「アベノミクスという日本の陰謀」や「円安空爆」といった過激な報道が続いているらしい。株で損をした富裕層はもちろん怒り心頭だが、大衆も「大企業ばかりが潤っているのも癪だったが、その恩恵が庶民に及ぶ前に大企業が儲からなくなれば、景気はもっと悪化し、自分たちはますます貧乏になる」と戦々恐々なのだ。

もともとこの数年間の「円高・ウォン安」が非合理的な水準で長く続き過ぎたものであり、「下駄を履いた」韓国企業が実力以上に、世界の市場で日本企業から商売を奪ってきたのが実態である。しかしこの円安はきっとこのあとオーバーシュートし、「円安・ウォン高」は歴史的水準に到達するに違いない。韓国の苦境はこれからが本番である。

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中国からの「撤退ブーム」が教えるもの

「脱中国」の動きが盛んだ。きっかけは反日デモと暴動だが、より本質的には、中国が手軽に儲かる生産地ではなくなってきたからである。それは労働者の権利を無視することで成り立っていたビジネスの構造が変質したということでもある。


中国に進出していた中小メーカーの撤退が密かな「ブーム」の様相を呈している。ついこの間まで中国進出を煽っていたコンサルティング会社が主催する「撤退セミナー」が日系企業向けに盛況らしい(同業ながら何とも商魂たくましいと感心する)。

かくいう小生も以前は中国進出をお手伝いすることもあったが、2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件とその後の反日感情のあり様、中国政府のえげつないやり口(レアアース禁輸など)を見て、「もう中国は日本企業にとって安全な場所ではない」と痛感し、それ以降は東南アジアを代替案として薦めるようにしてきた。

今現在、中国からの撤退を検討している中小企業の多くはメーカーである。彼らが真剣に「脱・中国」を考えるようになったきっかけは間違いなく昨年の尖閣諸島国有化に伴う反日デモ・暴動であり、日系保険会社の「暴動特約」の新規引き受け見合わせ方針や最近の大気汚染なども彼らの不安や嫌気を後押ししている。しかし本質的理由は中国で利益を上げにくくなってきたからだ。

元々中国に進出してきた中小企業メーカーの大半は、安い人件費に惹かれて日本から工場を移設してきた。ところが中国での人件費が高騰を続けた結果、採算ぎりぎりになっているケースが多い。当初認められた税金などの優遇措置は既になくなり、しかも2008年の労働契約法の施行で、一定の条件を満たすと事実上の終身雇用が義務付けられるなど、労働者の権利が大幅に認められるようになった。

春節で帰省したまま帰らない労働者を補うために募集を掛けるのに、さらに給与条件を上げないと集まらない。そしてその条件は数日もせずにほぼ全員に知れ渡るので、玉突き的に他の従業員の給与を上げざるを得ない。

中小メーカーは「これ以上人件費を上げたら利益がなくなる」と考え、大手日系メーカーからの発注量が減っていることをこれ幸いに少しずつ縮小モードに入っていたところに、反日デモの嵐が襲ったのである。一挙に嫌気が差したのも当然であろう。

しかし冷静に考えると、要は彼ら、日系中小メーカーが当てにしていたのは「労働者の権利が無視されていた」状態の中国であり(これで「共産主義」と謳っていたのだから、悪いジョークだ)、それが労働契約法の施行や労組活動、それに労働者同士のコミュニケーション手段の向上などによって労働者が権利意識に目覚めため、利益が上がらなくなったということである。元々歪んだ事業構造だったというと、彼らに酷だろうか。

中国からの撤退は思ったほど簡単ではないとも聞く。撤退時の労働者に対する経済補償金は高騰を続けているし、合弁パートナーには手放す株式の対価を買い叩かれる。「退くも地獄、留まるも地獄」の様相を呈しているようだ。

彼らが今、目指しているのは東南アジアである。確かに中国に比べ東南アジアの新興国ではまだ人件費は安いが、法律やインフラの整備はかなり遅れている。その肝心の人件費はどんどん上昇中である。そしてタイをはじめ各国政府は、人口ボーナスが続くうちに中間層を膨らませるために賃金上昇を促す方向に政策の舵を切ったと考えてよい。

こうした状況を考えると、安い労働力だけを求めてさ迷う中小メーカーの行く末が思いやられる。いずれどんな新興国でも労働者は権利意識に目覚め、賃金は上がる。当面はカンボジア、バングラデシュ、ミャンマーを目指すのだろうが、その先はどうするのだろう。流民のごとくどんどん僻地に移るつもりなのだろうか。

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「迅速な意思決定」にも色々ある

経営コンサルティングという仕事をしていると、色々なタイプの会社における意思決定のやり方や速度感の違いを目の当たりにすることが多い。一般に言われる、「日本の大企業は慎重で意思決定が遅い」は概ね当たっているとは思うが、その実際は会社によって相当異なる。

大半の日本の大企業が「意思決定が遅い」のは、決定権を持つ人が複数いて、彼らが責任を回避しようとするのを部下が説き伏せるという構図になることが多いからである。本来なら「試しにやってみようか、これくらいのリスクなら」という勇気を誰かが持てば進む話でも、各意思決定者がそうした勇気を発揮せず、「こうした面はどうだ、前例はあるのか」などと重箱の隅をつつくことで意思決定は先送りされる。

ビジネスの世界だから、全てが明らかになっていたらとっくに競争者が先にやっている。不透明なリスクを抱えながらも、そのリスクをうまくマネッジすることで、それに見合ったリターンを得ることができる。本来メリットが大きいビジネス機会なのに、リスクを極小化することに時間を掛け過ぎるため、リターンもどんどん小さくなってしまい、ある時点を過ぎると却って「出遅れリスク」が急速に増大する。そのことを理解していないサラリーマン管理職・役員が日本の大企業には多過ぎる。

その点、大企業といえどもオーナー企業の経営者やその意図を汲んだマネジャー達はそうしたリスクをとる感覚が備わっているために意思決定が速い。同じく大企業になってもベンチャー感覚が失われていない新興企業の場合も、そうした「リスク‐リターン」とスピードとの関係をよく理解しているので、意思決定が速い。彼らは筋の悪い話なら即座に断る。筋のよい話なら、「まず部分的にやってみる。それでうまくいけば前に進むし、ダメなら止めればいい」と考えて、とりあえず前に進もうとする。単に意思決定を先送りすることはまずしない。

もう一つ、大企業でサラリーマン的文化でありながら意思決定が速いケースも存在する。仮に意思決定に間違いがあっても、それに伴う損失の尻拭いを取引先に押し付けることで、自分たちのリスクを回避しようとするため、素速く(多少いい加減でも)判断できるのである。これは特に小売企業に多いようだが、実にタチが悪い。

最近も知人から、ある小売グループ傘下の企業のシステム構築に伴う問題含みの話を小耳に挟んだ。グループ企業のシステムを統合したり再構築したりすることで、システム関連コストを大幅に引き下げるプロジェクトが、その知人の大手システム会社を軸に進行中だ。そこで、中核業務システムをホストコンピュータ・ベースからERPパッケージ・ベースに替えることを検討するように、という指示がその小売りのシステム責任者の役員から出ていたが、ある小規模なシステム開発会社が突如指名されてそのERPシステムの構築を請け負う話になってしまったそうだ。不思議なのは、そのシステム開発会社はそんな広範囲で大規模なシステムを構築した経験がなく、かなりのリスクを見込んでコスト見積りも相当な上積みをしていると見られている。

穿った見方かも知れないが、件の役員はその小規模なシステム開発会社を指名することで、バックマージンを要求しているのかも知れない。そしてシステム構築に失敗しそうになったら、知人の大手システム会社に尻拭いをさせればいいと考えているのではないか。知人は今、戦々恐々としている。

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インフラ更新に欠かせない「コンセッション」が動き出す

4月21日のNHK「Biz+ サンデー」の特集で「コンセッション」を採り上げていた。空港などの公共インフラ運営を民間が行う仕組みであり、メガバンクや海外の投資ファンドも注目している様子が紹介されていた。

Wikipediaによると、コンセッション方式(Concession)とは、ある特定の地理的範囲や事業範囲において、事業者が免許や契約によって独占的な営業権を与えられたうえで行われる事業の方式を指す、となっている。

数年前、ベトナムの都市高速鉄道のプロジェクトに参加した際に研究したのだが、世界のインフラ公共投資は政府主導の投資とPPP(Public-Private Partnership)による投資に大きく2分され、新興国でも先進国でもPPPの割合が増えている。そのPPPの代表がコンセッション方式である。PPP契約の導入目的は、①予算制約の回避、②技術的な効率性の向上(民間部門のスキルを活用し、設計、建設、管理の段階を統合することによる)、③サービスの質の向上である。現実問題としては①ゆえに検討されることが大半だろう。

日本も財政状況が先進国中最悪にあり、今後迎えるインフラの更新ニーズに対し、税金と公債発行だけでまともにファイナンスできるケースは、10年のスパンで考えれば限られてくる。この2~3年は「国土強靭化」という比較的目新しいスローガンで公共事業を進めるにせよ、いずれ息切れすることは目に見えている。そこで今後は、コンセッション方式による(つまり民間資金の導入によって)インフラ更新/整備ができるようにしたいという思惑が、規制緩和を後押しする政府にはある。

そうした政府のセコい思惑はさておき、現実問題としてコンセッション方式の導入が進めば、日本が抱える幾つかの問題が一石二鳥的解決の方向に向かう。その問題とはカネの回りどころであり、公共インフラの老朽化である。少子高齢化に突入した国内での投資機会が限られると多くの優良民間企業が考えるために、民間金融機関は融資が伸びず、国債購入に偏った運営をしている。今後日銀が大量にマネー流量を増やすと、溢れたマネーが歪んだ不動産バブルなどに結びつく可能性が高い。しかし公共インフラ整備に民間資金が回るようになれば、マネー流量がよい方向に向かう可能性がある。

そして日本国内でのインフラ更新・運営に民間の知恵が活かされることで、お役所主導による箱モノづくりばかりが目的化する従来方式より社会的投資効率も上がる可能性は高い。いかに無駄を省きながら利用者の利便性を上げ、利用度合いを上げて収益向上をもたらすか、ここに民間の知恵が使われる方向にインセンティブが働くからだ。少なくとも「成長戦略」のための規制緩和としては正しい方向、と好意的に見たい。

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ロングテール向け超ミニメーカーのための新「3種の神器」

台数が桁違いに小さいため大手メーカーが無視するような「ロングテール製品」にフォーカスする超ミニメーカーが勃興する兆しがある。彼らの武器は新「3種の神器」である。


総計1万個に満たない数しか出ないような消費者向け製品は大手メーカーにとっては勘定が合わず、企画段階で却下される。しかし多少高価でも「自分だけの商品」や独特のデザインを欲しがる、コアなユーザー向けの「ロングテール製品」(ネット販売を前提にしたニッチ商品群)の領域が世の中では着実に拡がっている。

こういうのはファッション品が先行したのだが、今や家電や自動車部品などの大量生産モデルの典型製品でさえ、1個~数10個単位で製造し販売するケースが出てきた。造り手は数人~10数人という超ミニメーカーが主流であり、「1人家電メーカー」さえ登場している。その最大の武器が、価格が1~2桁下がった3D-CADソフトと3Dプリンターである。特に後者には最近注目が集まっている。

これらを活用することで、従来なら数週間かかったような試作工程が、速ければ2~3日で済んでしまう。3Dプリンターのデータを送ればすぐ試作用部品を作ってくれる工房があり、翌日には届く。それで設計が固まった試作品をもとに量産工程に移ることで、開発・設計コストは大幅に抑制できる。

従来の「型」による生産方式では難しかった中空(ちゅうくう)構造など、複雑な構造もお手の物である。プラスチックなどで均一に出来上がるタイプのものであれば、3Dプリンターさえ手元にあれば1個ずつ製品を「生産」できる。究極の多品種少量生産である。とはいえ多くの場合、3Dプリンターでの制作に向いているのは最終完成品より部品である。プリント「生産」したパーツを使って、電子回路などを組み込んで製品を組み立てるのが、今の「ロングテール製品」の生産方式の典型パターンである。

最近では、本人の映像を幾つかの角度から撮影することで1人1個のオリジナルフィギュアを作る、新たな商売も出てきた。この調子では、芸能人やアスリーツの写真を撮影して勝手にフィギュアを製造販売する業者も出てくるだろう(かなり売れそう!?)。今の3Dプリンターで生産できて売れ筋になるものはスマホカバーなどに限られているが、3Dプリンターの性能は急速に向上するだろうから、今後どんな製品が出てくるかは楽しみである。

それに加えてCNCマシン(CNCマシニングセンタ。要は3D自動彫刻機)というのも既にあり、筐体などの金属加工製品なら、出来上がり品質とコスト競争力はこちらのほうが高いことが多いようだ。中古品を買うか、CNCマシンを所有している工房に委託すれば、それほど固定費を掛けなくとも済む。

こうした設計・生産工程での変革ツール「3D-CADソフト+3Dプリンター(またはCNCマシン)」に加え、資金調達における「クラウドファンディング」、販売における「ネット通販」が揃うと、「ロングテール製品」を狙う超ミニメーカーのための新「3種の神器」と言えようか。

クラウドファンディングのよいところは、資金調達の可否で需要の有無に関する一次スクリーニングができることである。そして一旦資金調達に成功すると、「投資家」がその生産者のサポータとして、購買者になったり紹介者になったりすることである。

またネット通販のための選択肢は今後ますます拡充されよう。最近では従来難しかったオンライン店舗の開設が実に簡単・安価にできるサービスも現れているし、マーケットプレイスに出品することも簡単だ。

超ミニメーカー勃興の条件は揃ってきたといえるのではないか。

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コンサル業界の宿痾(しゅくあ)

つい最近、昔の同僚と食事した際に、色々な情報交換をさせてもらった。その人は外資系の大手コンサルティング会社を幾つか経由したのち、今のファームに移っても相変わらず活躍され、非常に多忙な様子である。間違いなく優秀なコンサルタントだし、人格的にも立派な方として(年齢的には若いが)尊敬している。

その会話の中で、コンサル業界の相変わらずの問題がトピックの一つとして出てきた。一つは「下請け頼り」であり、もう一つは英語とコンサル能力の問題である。

ご多分に漏れず、その人のいるファームもブランド力による営業力があって、時には社内で誰もできないような案件をたまたま取れてしまうことがある。そうなると実際のデリバリー(コンサルティングの実施)の大部分を外注に依存せざるを得ない。PMの力量が十分あれば問題ないが、往々にして経験の浅いPMしか残っていない。

小生自身は年齢の関係でそれほど機会があるわけではないが(40代以下のPMはベテランのコンサルタントを使いたがらないため)、独立個人コンサルタントの多くはこうしたコンサル会社の下請けに入らざるを得ないのが実際の世界である。SI業界でもこの「下請け構造」はよく指摘されるが、現実にPMは大手のほうが優秀なことが多いので、ちょっと事情が違うようだ。

コンサル業界の話に戻る。年収的には比べ物にならないが、実力的には逆転している(個人コンサルタント>大手コンサル会社のPM/サブリーダー)ケースも往々にしてあるという(先日Insight Now!のミーティングで聞いた限りでは、そのほうが圧倒的に多い模様)。つまり経験が浅く少々頼りない大手コンサル会社のPMを外注の個人コンサルタントが安い日当で支える構造だという。これがクライアントにとって望ましい状況でないのは明らかだろう。

もう一つはもっとプリミティブ(初歩的)である。大手コンサル会社が外資系の場合、英語スキルが出世の重要な要素である。マネジャーからシニアマネジャー、さらにはパートナーになる過程において外人幹部との会話ができるかどうかは、大きな鍵となる。その能力もクライアントが外資系や海外ロールアウトの案件では役に立つので重要であることは否定しない(かくいう小生もそのスキルは売り物の一部である)。

しかし現実には、必ずしも英語スキルとコンサル能力は両立しない。残念ながら多くの外資系コンサル会社のPM(マネジャー/シニアマネジャークラス)には、英会話能力は優れているが、コンサルとしては「使えない」連中が少なくないという。この問題は、件の「昔の同僚」も口にしていたので(彼が言うからには)、事実なのだろう。

この2つの問題は往々にして同時に現れる。つまり経験が少なく(英語はできるが)能力的にも問題のあるPMに、経験も能力も豊富な個人コンサルタントがいいように使われている構造だ。時にはそのアンバランスがプロジェクトの迷走を招く。クライアントにとっては迷惑な話であるが(ただし目利きができないクライアントにも大いに責任がある)、コンサル業界の宿痾の一つだろう。

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米国の保守派のジレンマ

コネティカット州ニュータウンの小学校での銃乱射事件を受け、米国での銃規制を巡る動きが目まぐるしい。銃購入者の身元調査を強化する銃規制強化法案が先日上院で否決された。規制推進派のオバマ米大統領は、拒否票を投じた上院議員らを非難した。そのうえで「この取り組みは終わらない。これは1回戦にすぎない」と語り、引き続き銃規制強化を目指す考えを強調した。

今回の法案は国民の支持も高く、内容も妥当と考えられていた。採決を求める直前のオバマ氏の演説には法案が通るだろうという確信さえ感じられた。それだけにオバマ政権と規制推進派の人々にはショックだったのではないか。全米ライフル協会(NRA)の底力を観た思いがする。しかし大きな社会的流れは銃規制を強める方向に動いているように感じる。

米国の政治イシューは日本のそれとはかなり異なる。伝統的価値観に基づく「保守対リベラル」という分かりやすい構図が成り立つ大きなイシューが幾つかある。代表的なものが銃、中絶、同性結婚、不法移民である。いずれも保守派(主に共和党支持層)とリベラル派(主に民主党支持層)の開きは年々大きくなっている感じがする。

大多数の国民は「まっいいか」的にリベラルなほうに少しずつ移りつつあるのに、保守派の一部がより頑なになって極端な反対論を叫ぶ。後者の一部は追い詰められて過激行動に出るケースがあり、それが余計に大多数の市民の反感を買い、両者の溝が拡がるという構図である。米国の報道番組やサイトではこうした観点での分析が多くなされている。

銃規制については冒頭に述べたように、規制反対派(これも田舎の保守層には根強い支持がある)がせっせと手紙を書き、NRAに雇われたロビイストが首都ワシントンで活発にロビー活動を行い、「そもそも連邦政府が、憲法で保障された、銃を保持する国民の権利に介入すべきではない」と議員に働き掛ける。過激派の連中は規制推進派の議員宅に脅しの電話(「月夜の晩ばかりじゃないぞ」という類)を掛けまくる、という感じである。毎年のように銃乱射事件による大量殺人事件が起きても、である。

中絶や同性結婚に対する規制は逆に保守派が仕掛ける。連邦レベルでは中絶は認められた医療行為なのだが、田舎の州では現実的に医院を開業・運営維持できないようにとんでもない条件を課すなどの動きが近年あからさまになっている。保守派の動向を左右するまでになってきたティーパーティ(草の根保守運動)の主流派の論理では、「中絶は人殺しである。たとえ強姦されたとしても神様の思し召しだから中絶すべきではない」といった調子である。さらに酷いのは中絶を行う医師に対する脅しや嫌がらせ、中には過激保守派による殺害も時折起きる(これも一種のテロであるが実行側の論理では「人殺しを殺すだけだ」となる)。

しかしこういった過激保守派の動きや一部保守派の過激な発言は、保守派の牙城・共和党を利している訳ではない。むしろ逆である。(日本で人気が高い)オバマ氏の支持率は既に低落傾向にあるが、民主党対共和党で見ると、民主党支持率が(一時の対オバマ失望による低迷から)復活、漸増傾向にある。

もともと白人・男性優位である米国社会の伝統的な価値観を呈した共和党は地方に強く都市部に弱いのだが、女性の社会的進出が進み、世代交代が進み、有色人種(特にヒスパニック系)人口が増えるにつれ、民主党有利の流れは止まらないと云われてきた。それが過激保守派の暴力行動やティーパーティらの非現実的な論調により、女性・若者・有色人種の共和党離れを加速しつつあるのが、今の米国社会の様相のようだ。共和党の悩みはますます深刻化しているようだ。

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富士通、再々のリストラに思う

富士通は12日、4月に予定されていた従業員の定期昇給を9カ月間凍結することを労働組合と合意したと発表した。同社は半導体やパソコンの不振で(半導体はともかく、パソコンが売れなくなることぐらい読めなかったのだろうか…)、2013年3月期の純損益が950億円の赤字になる見通しで、先日リストラを発表していた。

凍結の対象は一般の従業員約2万人と、一部の関連会社従業員で、残業代などの時間外手当も一部削る。役員や管理職は4~12月の月額報酬の削減を決めており、カット幅は役員で10~50%、管理職は3~7%。管理職ではない一般従業員にも痛みを求める。人件費を削ることで業績回復を目指す(!)と報じられている。

先月の28日には、構造改革(リストラ)計画の詳細を発表している。半導体部門(子会社の富士通セミコンダクターグループ)は約2000人、欧州子会社(パソコン・サーバー製造販売の富士通テクノロジーソリューションズ)で1500人を削減。50歳以上の幹部社員を対象に早期退職優遇制度を適用し、300人を削減する。割増退職金を支払い、再就職も支援する。それに4~12月まで役員報酬を10~50%減額。管理職の報酬は3~7%カットするとされていたのが、今回確定したわけだ。

いつか見た風景である。超大手ITベンダーとして、NECと同社は同様の業績悪化にずっと悩んでいる。2009年にも、そして昨年もリストラを実施している。そのときの「今回限りです」という約束は守られなかったわけである。

両社のようなSI企業にとって、度重なる業績不振と人員削減・報酬カットは悪循環をもたらす可能性が高い。社員のモチベーションが下がって頑張りが利かなくなるということと、顧客が「頼りになる優秀な人がいなくなってしまう」「経営改善を手伝うという企業が業績不振では悪い冗談だな」といって離れてしまうので、ダブルパンチなのである。

両社に最も必要なのは管理職と一般従業員の人件費削減ではない。正しい戦略を策定・実行できないのであるから、経営上層部の総取り換えだろう。その上で、意思決定のスピードをせめて競合に近い程度まで上げるために、経営陣は少数精鋭にし、組織のフラット化と権限委譲を大胆に推し進めることではないか。

両社に限らず、日本の大手SI会社には「紺屋の白袴」の話が多過ぎる。顧客企業に提案しているような「ITを効果的に使った最先端の経営」を自ら行って欲しい。そのためには戦略性ある大胆な割り切り、スピードと徹底(小生はFST=Focus, Speed & Thoroughnessと呼ぶ)を体現できる組織になるべきで、是非「まず動いて、試してみる」企業文化を作って欲しい。

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国産スギ材、有効活用の道

4月14日の「夢の扉+」の放送は、「常識を覆すスギの巨大建造物!新技術開発で驚異の強度を実現!“日本の宝”国産スギ材を有効活用し、日本の林業を救え!」というタイトルで、宮崎県木材利用技術センター所長、飯村豊さんを採り上げていた。

戦後の造林政策で盛んに植えられたスギ(それが花粉症という社会問題を引き起こしていることも周知の通り)。しかし近年、安価な輸入材に押しやられ需要は減る一方。それで放置されたスギ林が全国の山を荒廃させている。

「スギはやわらかいから大型建造物には向かない」。そんな業界の常識を覆し、国産のスギ材を使って直径120メートルの巨大ドームを完成させた男たちがいる。それが宮崎県木材利用技術センターの、飯村所長率いる研究者たちだ。

かつて商社に勤め、輸入木材の拡販をしていた飯村さんだが、ニッポンの林業の惨状を目の当たりにし、「何より、日本の林業を立て直すことが必要だ」と、国産材普及のため立ち上がった。『スギは“日本の宝”。スギ材を活用して、日本をもっと元気にしたい!』『弱みを強みに変えていく。それが私の使命です』と。いわば一種の罪滅ぼしの気持ちだろう。

“やわらかくて折れやすい”というスギの弱点は、発想を変えれば、“しなやかで粘り強く、変形が容易”という強みにもなり得る。飯村さんたちは、徹底的な分析と、スギの特性を生かした新たな技術開発で、驚きの強度と耐久性を証明し、数々の木造巨大建造物を生み出した。それが先の、読売巨人軍がキャンプに使用している球場の巨大ドームである。

その次のターゲットは何とガードレール。鉄製が主流のガードレールをスギ材で作る…。衝突の衝撃を吸収してくれるスギは、確かにガードレールに向いているのかも知れない。しかし柔らかいスギは、果たして国が定める安全基準に適合するのか?彼らの挑戦を応援したい。

以前、本ブログでも無花粉スギの開発者の話を取り上げたが、全国で放置されている従来スギを早く伐採して無花粉スギに植え替えてもらうには、その用途開発が欠かせない。飯村さんらの努力は、林業だけでなく花粉症をなくすためにも重要なのだ。

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日台漁業協定の締結から思いつくもの

尖閣諸島周辺での漁業協定に日台両政府が今月10日に署名した。ご同慶の至りである。

趣旨は、1.台湾が求める周辺海域での漁船の操業を認める、2.尖閣を含む日本領海への立ち入りは認めない、という2点であり、実利を求める台湾と、尖閣諸島の実効支配を維持したい日本の双方の顔を立てる「大人の解決」である。

何よりこれで中台が連携して日本の尖閣領有に異議申し立てをする、という最悪の事態が確実に避けられた訳である。日本嫌いの韓国なら前のめりで応じる話に対し、台湾はやんわりと距離を置いてくれたわけである。

本来互いに親近感を持ち、中国に対立する利害を持つ日台両国が対立していることが不自然ではあった。しかし領土問題という微妙なイシュ-に関してはいかに親日的な台湾といえど、へたな妥協は政治的にできなかったはずだ。

そこを見越して楔を打ち込もうとした中国の思惑に乗らずに済んだことは、日台両国政府の苦心が生んだ勝利である。沖縄の漁民が不平を漏らしているのは理解できるが、ここは大きな気持ちで容認して欲しいものだ。

これを機会に、苦脳する日本企業の対中ビジネスにおいては、日本企業が理不尽な扱いをされないように、台湾人が仲立ちをする機会を増やしては如何だろう。うまくいくときには利益を独占したくなるのはなるほど人情だが、日本人と中国人が直接相対するより、台湾人を介在させたほうが何かとうまく行くのだ。少なくとも小生はクライアント企業にそうしたやり方をお薦めすることが多い。

中国人は(経営者も従業員も)お人好しの日本人が御することができる連中ではない。台湾人は中国語を使える上に、気質が日本人と全く違って、中国人の攻撃性を受け流すことがうまい。しかも中国人の考える策略を先回りして読むことも得意である(大陸出身者との長い付き合いで学んだのだろう)。しかも(日本人以上に)日本人に対し好意的に対処してくれる。この人たちを使わない手はない。

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東南アジア進出熱に「浮かされる」中小メーカーのリスク


海外進出が自己目的化していないか?営業先の開拓やロジスティクスなどの問題は考えてあるだろうか?



長く続いた「超円高」をはじめとする「六重苦」の結果、国内になんとかしがみついていた中小メーカーが、この数年の間に雪崩を打つようにアジア新興国に進出を進めている。一時は中国に集中していたのが、その矛先が昨年からは一挙に東南アジアへシフトしているのは周知の通りだ。お陰で東南アジアの工業団地の開発・運営業者(総合商社など)は商売繁盛だそうだ。

しかし当然ながら、工業団地に入ることはスタートに過ぎず、事業の成功とは別問題だ。東南アジア進出を決断した中小企業(および融資元の金融機関)の一部に聞いた限りでは、彼らの海外進出計画には往々にして大きな疑問点が残る。その代表的な例として、(1)営業先の開拓、(2)延びるロジスティックスという2つを挙げよう。

海外に生産設備を新たに立上げようというのだから、よほど需要の引きが強いのだろうと想像しがちだが、実は必ずしも需要先を確保して進出しているわけではない。「親会社(=最終製品のメーカー。資本関係はないことが大半)の工場が先に出ていってしまい、国内に留まっていても仕事が回ってこないので、(需要先を確保できていなくとも)海外に出るしかない」というコメントが意外と多いのだ。半ば開き直りとも取れる決断である。先行して海外進出した旧「親会社」は、現地で別のサプライヤーを既に確保している可能性が高い。日本で長年取引をしていたからといって、現地でも仕事をくれるとは限らないのである。

もう一つはロジスティクスの問題だ。現地で生産する部品などの納入先がすべて現地近くにある場合は問題ではない。しかし日本から海外拠点に完全に生産をシフトした上で、日本にいる顧客への納入がかなりの割合で残っている場合には、相当なリスクを抱えることになる。一挙に兵站が延びてその途上に抱える在庫が増え、しかもリードタイムも同様に延びるため需要変動に対応するのが難しくなる。

これらは今度の「東南アジア進出セミナー」でも典型的なリスク例として解説するつもりだ。
https://www.insightnow.jp/applications/id/269

さて為替相場は急に円安に変わってしまったが、中小企業の海外進出熱はそう簡単には冷めないだろう。「親会社が海外シフトしてしまった」今、待っていても仕事を確保できるわけではないからだ。しかし中小企業経営者に考えて欲しいのは、自らの強みを活かせる事業モデルをまず考えて、その戦略に合う場合に東南アジア新興国への進出をその実現手段として検討することだ。決して盲目的に「まず海外進出する」ことではない。

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牛丼「三つ巴の消耗戦」、再び

吉野家が10日、牛丼の「並盛」を今月18日から100円下げて280円にすると発表した。「並盛」を250円の安売りで先行していた、競合のすき家や松屋を追いかける格好である。吉野家の「並盛」が280円になるのは、BSE問題で牛丼の販売を止めた2004年以来、9年ぶりだという。

この対抗値下げは戦略的に考えて行われたものか、それとも単に追い込まれて打った「苦し紛れの手」なのか。答は後者である感が強い。同社の安部社長のコメントがそれを裏書きする。「従来の価格では、満足できる売上数に届かなかった。客が求める価値のうち、今は『価格』が最も大きい要素だ」と。要は「競合が安売りしていて、そちらに客を取られているから、対抗上こちらも値下げせざるを得なかった」ということだ。

ここで考えるべきは、この値下げによって売上は多少回復するだろうが、利益は増えるのか、それとも減るのか、である。確かに牛丼は価格弾力性の比較的高い商品ではある。しかし、これほど度々値下げキャンペーンを繰り返し、しかも競合店の多くが先行して値下げしている場合、売上向上効果は飛び抜けて高くはない。仮に高めの20%Upとしよう。

牛丼の粗利率がすごくよいとして、仮に50%としよう。つまり元の価格380円に対し粗利が190円あるということだ。しかし価格を380円から280円に下げると、原価190円は変わらないので粗利は一挙に90円に縮小する。すると数量が1.2倍となっても、結局粗利は大幅に失われる(56%に縮小する)。もちろんコスト削減の努力は進めるだろうし、来客に対しサブメニューを勧めることで少しは取り戻すだろうが、44%の粗利を取り返すことは到底無理だ。つまりこの価格政策には戦略が欠如している可能性が高いということだ。

以前にも牛丼業界は、値下げ競争で3社とも売上が拡大しながら収益が悪化した経験があったはずだ。当初は期間限定キャンペーンだったはずが、チキンレースの様相を呈してしまい、互いに止められなくなったと記憶している。またその消耗戦が始まるのである。

しかも前回は円高過程にあったお陰でコストダウンが効いたはずだが、今回はエネルギーコストが上がっている最中である上に円安方向に動いているため原料価格も相当上がってくるだろう。3社とも体力を相当すり減らすことになるのは間違いない。特に牛丼が売上に占める比率が圧倒的に高い吉野家の分が悪い。

さてここで注目すべきは牛丼業界内だけではなく、同じようにランチ向けの財布の中身を争うファストフード業界での動きである。具体的にはマクドナルドに注目したい。原田社長の就任以来初の赤字決算を経験しながらも、同社は「安売りバーガーからの決別」「定番商品による収益確保」を宣言している。多分、同じ材料を使いながら目先を変えたキャンペーン商品は出してくるだろうが、もう「100円バーガー」の愚(同社のブランド価値の極端な低下)は犯さないのではないか。

半年後、1年後の結果が楽しみだが、小生はマクドナルドの収益アップと吉野家の極端な収益ダウンを予想している。

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営業改革を考える (6) 報酬・インセンティブ設計/変更には用心せよ

(Insight Now!記事の転載)
【概要または前振り】営業改革の一環として報酬やインセンティブのベースとなる評価制度を「是正」するなら、反発を覚悟する必要がある。それでもやるのであれば…


営業改革の要素としての報酬やインセンティブには功罪半ばする部分がある。無視することは危険だが、営業マンの行動を変える手段としてこれらに依存し過ぎることもやはり危険である。

過去、あまりに個人成績、しかも結果系(典型的には売上)に偏った評価基準を維持してきた企業が、チーム成績、そしてプロセス指標(提案件数など)および顧客満足にもバランスをとるように基準を変更することは、社業の健全かつ長期的な発展のためには自然かつ妥当なことが多い。

しかし気をつけなければいけないのは、その「是正」の動きには絶対といってよいほど反発が生じることである。過去の評価・報酬制度のメリットを最も享受してきた人たち、典型的にはベテラン営業マンたちの反発であり、それを恐れる幹部の懸念である。「身入りが減るとベテラン営業マンが辞める。誰が責任を取るんだ」という声が巻き起こることはほぼ間違いない。

そうした反発におののいて是正の動きを取り止めたことが過去にあれば、「制度変更の動きはどうせ腰砕けになるさ」と見越して、反発の動きは余計にあからさまになるだろう。そして実際に再び腰砕けになったら、つまり是正検討とその中止を安易に繰り返したら、どうなるのか。経営や諸制度への信頼度、会社が今後行う改革プロジェクトへの信頼度が地に堕ちるのである。

ちょっと「脅し」じみたかも知れないが(小生の趣味ではないですヨ)、それだけこの要素の扱いは厄介だとお伝えしたいのである。腹を据えて取り組まないといけないし、安易に取り止めるくらいなら初めから言い出さないほうがましなくらいなのである。

しかしながら現行の営業マンの評価・報酬制度があまりに個人/結果/売上、そして金銭に偏ったものであれば、それがもたらす歪みは中期的には無視できないものとなろう。営業マン同志が足の引っ張り合いをするところまでは行かなくとも、少なくともベテランや中堅が若手を育てる土壌ではなくなり、着実に若手の定着率の悪化をもたらす。これは経営的にはボディーブローのように効いてくる。

そして金銭的報酬・インセンティブの厄介なところは、上昇場面では士気向上効果は逓減する癖に、少しでも下降する場面になると途端に不満を掻き立てることにある。しかもそれまでの報酬額の蓄積とは無関係に、である。これは国内外の有力研究機関での研究でも証明されている。ずっと金銭的報酬が上がり続けない限り(これは殆んどの職場で非現実的な話だろう)、いつか不満をもたらすということである。

単純な絶対正解というものはないが、対処できなくなるほど問題が厄介になる前に、営業マンの評価・報酬制度には少しずつ是正の手を入れておくほうが賢明だといえそうだ。

その際の改革の方向も熟考すべきだ。多くのケースで望ましいのは、個人成果に対する金銭的な報酬・インセンティブだけに依存せずに、チームやブランドへの貢献に対する賞賛(社内、顧客、家族などから)、仕事レベルの向上(権限拡大など)、社会的意義への貢献といった要素を適切にとり交ぜることではないかと思う。つまり「チーム貢献」「精神的な報酬」の比重を上げていくのである。

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営業改革を考える (5) ベストプラクティスは往々にして社内にあり

(Insight Now!記事の転載)
【概要または前振り】営業プロセスのお手本をよそに求めようとするよりも、まずは社内に存在するベストプラクティスを探し出すほうが現実的であることが多い。


営業改革の要素のうち営業プロセスの改革については、目的別に典型パターンが幾つかある。最も定番で実現性が高いのは、若手の底上げを目的に、社内のベストプラクティスを探し出し、若手が参考にできるように噛み砕いて標準化することである。これは初めて企業経営に携わった時に自らの組織に実践適用したこともあり、小生としての「業務改革の原点」的なアプローチでもある。

客観的には営業プロセス改革が不可欠と考えられる状況であっても、なかなか踏ん切りがつかないというのはよくある(必要性の認識が揃うのに時間がかかる、ベテランの協力が得られるかが心配、等々)。しかし、そうしたハードルを超えていざ営業プロセスの改革に踏み込もうとしたところで、「青い鳥がどこかにいるんじゃないか」という少々安易な心理が台頭することがままある。

例えば「どうせならライバル企業のやり方を研究してみては」という、(往々にして営業とは無関係の役員からの)「思いつき」じみた要請である。しかしそれに経営トップまでが賛成すると、やらざるを得ない。実際のところ、(競合の本拠地市場に進出するという特殊な状況だったゆえに)小生からこのアプローチを提案したこともある。確かにこれは面倒くさいが、やってやれないことはない。ただし苦労して調べた結果、「ウチと同じようなことをしている」と判明するだけかも知れないので、闇雲にお薦めはしない。

もっと癖球なのは、「SFAシステムを導入すればベストプラクティスも一緒に導入できる」というITベンダーの受け売りである。これは前々回に解説したように、失敗しやすいパターンゆえ用心すべきだ。SFAツールには様々な便利機能があるが、貴方の会社にとってのベストプラクティスがパッケージされていることは滅多にない。どういうプロセスにすべきか自ら考えてツールに組み込み、ステップごとに要請される「すべき事」に対応してツールを使いこなすのが、SFAツールとの正しい向き合い方である。

小生は「他の会社の工夫の事例なんか知らなくてよい」と言っているわけではない。むしろ類似業界での事例などを参考にすることは大いにお薦めしたい。警告したいのは、よそのやり方をコピーすればいいじゃないかという安易な発想は、徒労や迷走に終わりやすいということである。

改めて申し上げるが、多くの会社にとってのベストプラクティスは往々にして社内に存在する。賢い営業マンがどんな行動をとって高打率を上げているか、きちんとヒアリングと行動観察をすることで可視化できるはずである。

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「アジア市場」を狙うならターゲットを見定めよ

同じアジア新興国市場といっても千差万別。一括りにしてしまうと、または「消費者市場」と「生産地」を混同すると、とんでもなく無駄な苦労を強いられよう。



先の記事でも言及した「アジアの風 ~小さな挑戦者たち」(BSジャパン)で以前紹介された、ライフリングという会社を例として挙げよう。同社の消臭製品シリーズ「ブリーズブロンズ」は驚異といっていい優れモノである。

主な製品はタオル、紳士用靴下や肌着、ベッドシーツなど。汗の臭いや体臭を短時間で分解、圧倒的な消臭機能を備える。しかも洗えばずっと効果が持続する。製造工程のせいでどうしてもコスト高なのでかなり高めの価格設定だが、介護業界では評価が高く、最近はネット上でも評判になっているようだ。

製品の評価・評判はもちろん、開発背景についても面白いのでネット上で調べていただきたいのだが、問題はここから。上記の番組において、今後の展開について同社社長は「アジア市場に進出したい。ついてはベトナムと中国だ」という。

中国はアジア最大の消費市場なので頷けるし、高価格でも高機能であれば購入をためらわない富裕層が、沿岸部の一部都市(上海など)には先進国並みにいる。ターゲットとして考慮するに値するだろう。

しかしベトナムを狙いたいという理由は少々ズレているように感じる。経済成長が目覚ましいことに加え、繊維産業が盛んなため、現地での製造の可能性も考えてのことだという。またまた「消費者市場」と「生産地」の混同である。

はっきり言って、日本人でも「ちょっと高いかな」と一旦は考える、こんな高価な製品はまだまだベトナム市場では早過ぎる(もちろん、少しでも低コスト生産をするためにベトナムで製造するというのは「有り」だ)。

アドバイスを求められた現地コンサルタントの方(日本人)も懸命に考えたのだろう、「バイクに乗るときに使うマスクをターゲットにしてはどうか。消臭性のあるものは喜ばれるはず」と提案する。確かにベトナムは国民1人1台以上のバイク天国。特に女性は皆、分厚いマスクをして乗っている(しかしこの理由、彼が指摘するような「排気ガスを避けるため」というより、実は日焼けを避けるためという理由のほうが強いらしい)。

確かに消臭性のあるマスクは興味を引くだろうが、そのために数倍の価格を払うとは考えにくい。普通のマスクを2つ所有し、交互に洗って使っていれば済むのだから…。

それより、この高機能・高価格を受け容れてくれる富裕層がいる、中国沿岸部と台湾・香港・シンガポール辺りにマーケティングの焦点を合わせたほうがずっと実際的だろう。

「同じアジア市場」と漠然と進出しては無駄な苦労を強いられることになるので、ターゲットを正しく見定めることが第一歩である。

ちなみに弊社では、「東南アジア市場進出」に係る戦略とリスクをテーマにしたセミナーを来る4/19(金)に開催する。詳細は下記URLにて。
http://www.pathfinders.co.jp/seminar/

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素材の劣化を止める魔法の「液体ガラス」

4月5日放送の「未来シアター」(日テレ系)が採り上げた一人は塩田政利氏。素材の劣化を止める魔法の「液体ガラス」の開発者である。

現代社会を支えるコンクリートは50年程度しか持たない。かつてコンクリート事業の会社に勤めていた塩田氏も、その意外に短い寿命に驚いた。世界を巡って方法を模索。思いついた「液体ガラスによるコーティング」をメーカーに掛け合うが、相手にしてもらえない。ならば自分で作ろうと考えたという。そして10年かけてついに開発し、ニッコーという会社を設立。

普通のコンクリートはコインで削れてしまうが、この液体ガラスを塗ると浸透・乾燥して膜となり、ほぼ傷がつかないほど強度が増す。和紙などに塗布した場合、ガラスならではの耐水性が加わる。ガラスは石英などの鉱物からなる固体であり、液体であるためには1400度以上もの高温を必要とするはずだが、特殊な技術で常温での液体化に成功したのである。実に不思議だ。その効果が認められ注文が殺到し、今や様々な公共事業で使われるようになった。

コンクリートの次は、木材の耐久性を上げることに塩田氏は没頭した。研究することさらに3年、今度は木材を強くするガラスコーティング技術が完成する。耐火性抜群なのである。番組で実証したのは、ガラスコーティングされた塀が何度ガソリンをかけても火が消えてしまう様子である。煤けた表面を削れば、元の姿のまま。この技術により木造建築すら永遠のものにできるかも知れない。

さらに木材の、ささくれやトゲが出る欠点もガラスコーティングによって解決できる。観光名所や幼稚園など、子供が駆け回る場所では安心材料だろう。

この技術はきっと今後の公共インフラにとって必須になろう。50年ごとにコンクリート設備を作り直すなんていうのは、冷静に考えてみるととんでもなく非生産的である。多少コストが上乗せされようと、ガラスコーティングは長い目で見れば圧倒的にコスト抑制になる。ましてや木材建設物が火事の心配から逃れることができるというのは素晴らしい。日本だけでなく、これからインフラ建設が膨れ上がる世界じゅうで求められるのは間違いない。ニッポンの技術が世界を救う!と誇らしい限りである。

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営業改革を考える (4) 営業改革の前提は狙いの共有化

(Insight Now!記事の転載)
【概要または前振り】営業改革を本気で成功させようと思ったら、「戦略的狙い」をしっかり考えて社内で共有化しておく必要がある。


この記事シリーズの中で既に何度か強調しているが、営業改革を本気で成功させようと思ったら、「戦略的狙い」をしっかり考えて社内で共有化しておく必要がある。

例えば医療機関をターゲットとしている首都圏の医療システムのベンダー企業だったら、「競合に先んじて顧客の事情を理解し、より適切な提案をできるようにするため、重点ターゲットの医療法人を5つに絞り込み、分厚いサービスを提供してリピート率を倍増する」という具合である。

そしてその「戦略的狙い」に基づいて営業スタイルや重点、プロセス、体制が変わると言う具合に「思想統一」することで、一貫性をもって徹底されるようになることは前々回お話しした通りである。

先の医療システムのベンダーならば、5つの医療法人に専属の営業チームが密着対応し、それぞれの医療法人ごとの重点課題とその対応体制等を明確化すべく、営業プロセスを標準化し、ステップごとに上司との間に決められたチェックポイントで正しい情報をやりとりできたかが確認される。結果目標だけでなくそのプロセス目標をクリアしたかが営業員、そしてチーム長の評価につながる。と、こんな具合だ。

実際にはこうした「戦略的狙い」が明示化・共有化されずに曖昧なまま、営業改革が推進されようとすることが世の中には多い。するとどうなるか。

生産部門や物流部門の改革と違って、現場が目の前になく、モノを物理的に扱うわけでもない営業の改革の場合、改革のイメージが共有化されにくい。しかも営業の人間には世間慣れしてしたたかな人が、特に幹部に多い(別段、けなしているわけではないので誤解しないで下さいね)。そうした人々に対し、本質的な目的から説いて納得を得ることなしに、「とにかくやり方を変えてくれ」「こうしてくれ」といきなり要請しても、反発されるか、表立って反対されなくとも実質的に無視されるのが落ちである。

これはある大手メーカーで聞いた話である。経営企画担当の役員がそうしたやり方で営業部門の幹部に対し改革の検討を要請した。全く質問も出ずにミーティングがほとんど終わり掛けた間際、営業担当の役員が一言、「で、それで結果が出なかった場合、誰が責任を取るのですか?」と質問した。経営企画担当役員がはっきりと答えられずにいると、件の営業役員は「ではそれがはっきりしたら改めてご説明いただけますかな?」と締めて、その改革の動きは実質的に頓挫してしまったそうだ。要は、「経営としての狙いと覚悟を明確化しないまま、ワシらに難しい役割を押し付けようったって、そうはいかんぞ」という言外の拒絶に遭った格好である。

かといって、「営業力強化」とか「業務効率化」など、とってつけたような建前だけのスローガンを何度連呼したところで納得してくれるはずもない。経営トップ自身の言葉で、腹を括っていることが伝わらないと、営業幹部としてもへたに話に乗れない。あとで梯子を外されるのは誰でも嫌なのである。

営業改革を始めるにも成功に導くにも、「何のために営業改革が必要だと経営が考えているのか」という「戦略的狙い」を、腹を割って共有化することが不可欠である。このことは何度繰り返しても足らないくらい重要なポイントである。

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営業改革を考える (3) SFAはなぜ失敗するのか?

(Insight Now!記事の転載)
【概要または前振り】SFA実践経験の殆んどない企業の場合、表面的な演出効果に囚われ、肝心な「戦略的狙い」とそのための仕組み作りを忘れてしまうことがある。


ちょっと刺激的なタイトルなので、特にITベンダーからの異論が多々あろう。いわく「ウチのSFAは高く評価されている」「顧客の多くは成果を上げている」と。確かに世の中のSFA(ITによる営業効率化)関連のセミナーやIT関連の記事には成功例が目白押しである。それらの例にケチをつけるほどの蛮勇は小生にはない。

しかしそうした成功事例には随分前からSFAの実践に取り組んでいる企業・業界が多い。既にベースとなる考え方や仕組みが社内でちゃんと出来上がっており(そのレベルに至る過程においては彼らも散々試行錯誤しただろうが)、プロセス運営上の様々なノウハウが蓄えられている。そこに新しい技術に基づく端末やソフトウェアが導入されて進化するのであるから、成功するのはある意味当然である。

問題は、そうしたSFA実践経験の殆んどない企業が、ベンダーに提案されるままにSFAソフトとタブレットなどの最新端末を導入しようとすると何が起きるか、ということである。表面的な演出効果に囚われ、狙った「営業の底上げ、効率化」といった成果を全く生まないばかりか、営業マンの思考停止とアリバイ作りにしか役立っていなかった例すら幾つか耳にする。

確かに営業資料をわんさとバッグに抱えずとも関連資料・データを取り出せ、しかもすぐに見せることができるのは素晴らしい進歩である。しかし肝心なのは、綺麗なカラー画面で説明がスムーズにできることより、顧客の意向や嗜好をいかに聞き出すか、そしてそれを正しく理解し社内の関係者に正しく伝えるか、である。そのためのプロセスが組み立てられているのか、そのための手段が準備されているか、である。多くのSFA導入プロジェクトではそこが取り残されているのである。

あるITベンダー企業自身が自社の営業プロセス改革の中で図らずも気づいたのは、数年前に導入したSFAシステムが単なる「受注計上システム」化していた事実である。本来の、営業プロセスの途中で上司に相談・報告するための仕組みとして使っている者はごく少数で、大半の人間が受注処理の際にだけ(仕方なしに)使っていたのである。そのために億を超える投資と毎年数千万円の保守費というのが割高過ぎることはもちろん、社内で使いこなして顧客向けに提案するためのノウハウを貯めようといった「当初の狙い」はどこかに吹き飛んでしまったようだ。

要は、「戦略的狙い」を忘れてしまって「手段」としてのIT導入に夢中になってしまうと、投資対効果が低いプロジェクトに多くの関係者が没頭することになり、しかも現場に手間と混乱を引き起こしかねないということである。これは営業改革に限ることではないが、避けたい事態である。

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世界一のサービスマンの極意に触れる

4月1日放送の「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK総合)の主役は宮崎辰氏。東京・恵比寿の三ツ星フレンチレストランで、サービス部門の責任者のひとり「メートル・ドテル」を務める。本場フランスではシェフと肩を並べる高度な技能を求められる専門職であり、世界大会では日本人初の世界一となった。

レストランのいわば「司令塔」として、極上の時間を演出していく。幸せなひとときを過ごそうという客が、大きな期待をかけてやってくる。最高級の料理や飲み物、雰囲気を提供することで、100%の満足は実現できて当然。あらゆる手だてを駆使して極上の空間を演出し、想像以上の感動を与えてお客の満足を追求していく。

気配りの具合が凄い。お客のちょっとした表情や仕草(しぐさ)から、お客がこれから何を求めようとしているのかを先回りして見極め、接客のベストのタイミングを判断している。

たとえば、お客がメニューを読む目線の位置に注目して、注文を取りにいくタイミングを読む。お客の食べるペースや会話の盛り上がり具合などを考慮して、次の料理を作り出すベストのタイミングをシェフに伝える。当然、それぞれの料理を作るのに掛かる時間も頭の中に入っているということだ。しかも、こうした気遣いを同時に、何組ものお客を相手にやってのける。

そんな彼でも毎回パーフェクトとはいかないようだ。時には客の不満を買うこともあるという。営業終了後の深夜に事務所で一人で反省を繰り返す姿にこそ、努力家の姿を観る。

彼の目指すは、一方通行ではなくお客と互いに「心を開き合う」こと。自然な笑顔と会話でお客の話題を引き出し、どんな人なのかを理解しながら、自分のことも少しずつ話し、自分のことも少しずつ理解してもらう。そのような関係を育んだお客との間には、彼が理想とするリラックスしたサービスが実現するという。サービスの極意である。本当の接客のプロであり、我々のような専門職にとっても非常に参考になった。

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廃材リサイクルで高級品を作る!

4月2日放送の「ガイアの夜明け」は「ゴミから高級品を作る! ~リサイクル最新手法~」と題して、「アップサイクル」の最前線を伝えてくれた。ゴミとして捨てられる廃材に、付加価値を付けて高級品に生まれ変わらせることである。

最初は「TAOS(タオズ)」というブランド。海外から古着を仕入れ、それを仕立て直して販売している。古着のリメイク過程で発生する細かい端切れを使って洋服やバッグを作ったところ、女性客に大当たり。独自のブランドまで立ち上げてしまった。

名古屋の「MODECO(モデコ)」はアップサイクル専門ブランド。代表の水野浩之さん(28歳)は、元々は音楽家志望だったのを断念。父親が経営する商社で「産業廃棄物」を活用する事業を興した。彼はこれまで300種類以上もの廃材からアップサイクル商品を生み出してきた。例えば名古屋市消防局から廃棄された"消防服"を加工して作ったバックは1個2万3000円、廃棄されたシートベルトから作ったバックは1個1万5750円、と決して格安ではない。しかし今やモデコの商品は大手百貨店などで引っ張りだこで、売り上げも急伸している。実際に買っている人のコメントは、「共感する、デザインが可愛い」などと非常にポジティブである。

最後は人生の再生物語。奈良に住む永島さん夫婦は「工房 エンジェルのために」を営む。ここでは住宅などの解体現場から出た廃材を無償で譲り受け、それで家具を製造する。元手をかけずに作った家具が、安いものでも2万円から、高いものでは100万円近くで売れていく。出来上がる作品は当然ながら全部微妙に違い、味わいがある。全く違う色をした木を桜の花の形を埋め込むように組み合わせて、家具にする。出来上がりも見事。実際、欲しいと思った。

阪神大震災で被災した永島さん夫婦は仕事を失い、「新天地でやり直そう」と奈良県に居を移した。妻の庸さんは技術専門学校で家具造りを学び、夫の力也さんはアルバイト先の解体現場で出た廃材を持ち帰った(最初は単に木が高かったからだという)。家具を作ってフリーマケットで売ると、「カワイイ」と評判になり売り切れた。やがて自宅に工房を開き、地道にファンを増やしてきたのだ。

番組の最後では、夫婦は思い立って石巻まで出掛け、がれき化した「廃材」を譲り受ける。今や「廃材」となった家や家具の持ち主に想いを寄せながら、このあと家具にしていくという。とてもいい話だ。日本は元々エコ社会。もっともっとリサイクルの余地はあると思えた。

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営業改革を考える (2) 改革は一貫した「思想」に基づいて

(Insight Now!記事の転載)
【概要または前振り】営業改革において「つまみ食い」はよい結果をもたらさない。肝心なことは、関連する諸要素が同じ「改革の思想」で一貫していることである。


営業改革には幾つかの要素がある。典型的には営業プロセス、体制、研修、管理・指導、評価・褒賞制度などである。肝心なことは、これらの要素が同じ「思想」に根差して一貫していることである(前回「営業改革は科学的であるべき」と言った直後に「思想」では戸惑われるかも知れないが、ピンとくる言葉として使わせていただきたい)。

しかし実際の企業現場では、それぞれの要素がほとんど関連なく設計されていて、担当者間の意思疎通もなく、改革実施タイミングもバラバラ、結果として大した効果を生まずに中止、ということは少なくないようだ。

実際、先日お話を伺った建築関連企業でも、色々な試みをやっては中止していることが判明した。小生が挙げた幾つかの営業改革策の例に対し、「ああそれに似たようなこと、うちでもやりましたが、あまり効果が出ないままなので止めました」という反応が幾つか続いた。それぞれの実施タイミングを確認すると案の定、バラバラだった。つまり、思いついて何か特定の制度やプロセスを変えてみるのだが、部分最適なので効果が出ないまま、やがて元の木阿弥に戻ってしまうということを繰り返していたのだ。

大事なのは、どういう「戦略的狙い」(そもそもなぜ改革が必要なのか、どの顧客グループを重点的に攻略するのか、その際の提案価値の重点は何か、など)に基づいて営業のあり方をどう変えたいと思っているのか、という「改革の思想」をしっかりと組織内で共有して、それにマッチするように営業プロセスや管理のやり方など、関連する要素全般を同じ方向で見直す必要があるということなのである。

例えば国内自動車ディーラー業界では、以前は「一匹狼」的な営業マンが個々に地域住民を片っ端から戸別訪問することで自家用車販売の実績を上げてきた。しかし自家用車の保有率が高まった現在、焦点はむしろ買い替え需要である。しかも昼間の留守宅が多くなったため、ディーラーのショウルームに消費者が足を運ぶように仕向けるように営業プロセスは大きく変わった。そして、そこでの商談において消費者の意向をいかに汲み取るか、営業マンはその後のフォローでいかに話を詰めるかに、プロセスの重点は完全に移っている。そのためにショウルームのスタッフやサービス員と営業マンの連携が重要であり、彼らの評価ポイントもそこにある。彼らに対する教育研修もそうした観点で設計されているはずだ。

営業の仕組みを変えるというのは、こうした一貫性を保って全体を移行させてこそ効果が出るものである。営業プロセスだけ、研修内容だけ、報酬・褒賞制度だけ変えるなどといった「つまみ食い」的な修正では、決してよい結果はもたらされない。

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営業改革を考える (1) 営業は科学だ!そして営業改革もまた

(以下、Insight Now!へ投稿したコラム記事の「営業改革シリーズ」をしばらく転載する。Insight Now!から色々なビジネスサイトやニュースサイトにも既に転載されているケースが多いが、内容は同じ)
【概要または前振り】営業が科学であるがゆえ、営業改革もまた科学的であるべき。「仮説を描き、事実データに基づいて検証する」態度が不可欠である。それでこそ頑固な「経験主義」の信者に対して説得できる。


このところ営業改革の仕事で声が掛かることが再び増えてきたので、その関連テーマで幾つか書かせていただきたい(ビジョナリー分野は2つまでなので、小生は「営業/マーケティング」のビジョナリーに登録できていないが、本来はこれも専門領域)。

最初に申し上げておきたいのは、「営業は科学だ」ということである。このとき対比される概念は「経験主義」とか「精神論」といったものであるが、さすがに昨今、「KKD(経験、勘、度胸)が一番重要ですよ」と声高に云う人は少ない。しかし実際に営業の現場がやっていることは十年一日のKKDの世界、という企業はまだまだ少なくない。

「営業は科学だ」と聞いて、ビーカーとフラスコをイメージしないで欲しい。「仮説と検証の繰り返しで進歩する」と申し上げたいのである。例えば新しい客をどう喜ばせて次の受注につなげるか、個々の営業マン(「女性の営業職もいるぞ」というお叱りはごもっともだが、云い易いのでご勘弁を…)は必ず仮説を頭の中で描く。優秀な営業マンの場合、その仮説の精度が高いうえに、検証サイクルが速く適切である。そしてその営業プロセスには無駄が少ない。

営業に疎い人ほど、営業のベテランがぽろっと漏らす「やっぱり営業は経験ですよ」という言葉に妙に納得してしまいがちだが、実際のところは、科学的アプローチで工夫している優秀な営業マンには、どれほど長い経験があるベテランでもあっさりと成績を逆転されてしまう。そんな例を随分観てきた。

そんな科学的な営業のやり方に改革しようとしたら、その改革アプローチもまた科学的であるべきだ。すなわち、「仮説を描き、事実データに基づいて検証する」態度が不可欠である。改革プロジェクトでは、一つひとつの状況や誰かのコメントを、「事実」に基づいた客観的なものなのか、個人的な経験や認識に基づいた「意見」なのかを峻別する態度が常に求められる。そして「事実」ベースであれば説得力も強い。

例えば、オフィスで攻略作戦を考えている営業マンに向かって、ベテラン営業上がりの上司が「理屈より行動だ」といった精神論的な考えで、外出するように闇雲に仕向けるケースがいまだによくある。しかし作戦なしに行き当たりばったりで訪問するアプローチでは、実は成果は高がしれている。それは我々にとっては常識である。

しかしその常識は、異なるアプローチを比較したことがない「経験主義」の信者には往々にして通用しない。同じ営業マンが一定期間、そうした「行き当たりばったり訪問」アプローチで上げる成果と、「準備に時間を掛けて計画的に訪問」というアプローチで上げる成果とを比べて、「実証」するまでは納得してくれない。それほど「経験主義」というのは、営業現場では根深い「信仰」なのである。

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「発送電分離」は「ニッポン復活」につながるか

「発送電分離」が閣議決定された。しかも「機能分離」でなく「法的分離型」が方針として明示された(1.会計上の分離 2.機能分離 3.法的分離=別会社 4.所有の分離=資本関係のない独立の組織設立という4つのうち、実現可能かつ妥当なオプションである)。色々批判は多いようだが、この事態を5年前に予想できた人が何人いたろうか。それほど大きな前進である。

今後の時系列イベントは次の通り。まず、各地域の電力会社の垣根を越えて電力を融通する「広域系統運用機関」を15年に設立することを、今国会の法改正に盛り込む。続く14年の改正では、現在は大手電力会社が地域独占している家庭向けの電力販売を16年から自由化し、新規参入を認める。さらに改革の仕上げとなる15年の改正では、発送電分離の実施と料金規制完全撤廃を打ち出す、という段取りである。

電力業界での競争を進めるには(誰もが公平に送電網を使える)「発送電分離」が不可欠である。しかし当然ながら、既得権を失う電力会社はロビー活動により阻止を目論み、その意向を受けた一部の自民党議員は抵抗姿勢を崩さなかった(何といっても、「既得権の権化」電力会社の政治力は間違いなく日本一であり、多くの政治家が彼らの不興を買って落選の憂き目を見た経緯がある)。

電力会社の政治力の源泉は圧倒的な資金力にあり、それはガチガチに守られた規制による「実質ゼロ競争」状態がもたらす高収益の構造から来るものである。それが多くの有力政治家を飼い慣らす資金でもあり、「電力総連」(とその家族、取引先を含む)の投票総数の多さは、「選挙に落ちたいのか」と与野党の代議士を脅すに十分である。この構図は数十年間固定化され、強化されてきたのである。

確かに懸念はある。何といっても「既得権者の味方」、自民党政権である。実際、政府が自民党に提示した「15年の国会に提出する」とした改革案も、「提出を目指す」と努力目標に後退させられている。いつ「この話は無かったことにしよう」と先祖帰りするのか、ある意味スリリングといってもよい。発送電分離に向けた改正法案提出は2年後になるため、その間に「骨抜き」が進む恐れもあると多くのマスメディアでは懸念が表明されている(マスメディアでこうした懸念が公に表明されること自体が大きな変化である。電力会社が絶対的な広告スポンサーでなくなったからだろう)。

ただ、政治家の行動をウォッチしその情報をSNSで一般市民と共有する市民団体が急膨張している、という情勢変化は確実にある。おかしな動きをした政治家が糾弾される方向に、世の中は動きつつある。そう簡単に電力業界の族議員が横やりを押し通せるわけではないと期待したい。

では、なぜ電力改革がそんなに重要なのか。日本の生活・製造・サービスといった全般に割高なコストの元凶の一つが、割高なエネルギーのコストだからである(他の有力な元凶は、既得権を保護するための様々な経済規制、そしてITなどの有力な効率化に率先して取り組まない官民の保守的態度だろう)。それほどエネルギー・コストというのは全ての社会・経済活動の主要な原価なのである。

言い換えれば、通信業界や鉄道業界と同様に、電力業界の構造が根本的に変革されることで、「発送電分離」→電力業界での競争促進→エネルギー・コストの大幅な低減、といった方向に進めば、ニッポンの大きな弱点である高コスト体質が改善に向かい、ニッポン復活のシナリオが見えてくるのである。もし安倍政権がこのテーマを正しい方向に導けるのであれば、その時初めて小生もこの政権に対する評価をポジテイブに改めたい。

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