ミシンに見る日本製の競争力と日本人の価格交渉力

NHK「エキサイト・アジア」は、「アジア各国で奮闘するビジネスマンのドキュメント・マガジン」と称して、日本人が頑張っている様々なアジアビジネスシーンを見せてくれるので注目の番組である。

5月18日(土)の「第4回」はバングラデシュで日本のミシンを売り込む営業マンのシビアな交渉を採り上げていた。今や中国を追い抜いて「世界の縫製工場」の舞台となったバングラデシュで、圧倒的なシェアを持つ日本のミシンメーカー、JUKI。その駐在責任者が日々取り組む交渉最前線をカメラが追う。

彼らは代理店網を使い、バングラデシュ市場開拓を進めている。新工場をどんどん増設する縫製業者からすると、性能がよく品質も高い(つまり壊れにくい)日本製の業務用ミシンは「バンバン稼ぐ」にあたって頼りになる道具だ。したがって結構引き合いがあるのだ。

しかし他の日本製品と同様、価格的には割高感がある。そのため買い手(縫製業者)は代理店に思い切り値下げさせようと圧力を掛けるが、メーカーは代理店にはあまり価格交渉の幅を持たせていない(持たせるとすぐに値下げするからだろう)。そのため代理店からのヘルプ要請が入り、JUKIバングラデシュの責任者が呼ばれる(ダッカ市内は渋滞がひどく、本来20分程度の距離に時には1時間半も掛るという。かなり効率は悪そう)。

代理店同席の場で、買い手との間でシビアな価格交渉が始まる。買い手は安さで売り上げを伸ばす中国や台湾のメーカーから出た具体的な提示価格を口にし、何とかJUKIに同じまたはそれ以下の価格を提示させようとする。しかしJUKIの責任者は最初から安値は提示しない。かなり強気の値段をまず提示する。買い手は「お宅も作っているのは中国じゃないか。同じくらい安くなるだろう」と迫る。しかしJUKIの責任者は「我々は日本で研究開発している。品質もいいし保証もしっかりある。これは日本製品だ」と主張し、最後に「でも折角呼んでいただいたので、ベストの価格を提示する」と、少し妥協する。

この交渉場面をそのまま放送しているのは(中国メーカーに筒抜けにならないかと)少し心配にもなるが、非常に臨場感があって面白かった。JUKIの責任者はブロークンな英語ながら極めて「背筋の張った」主張をしており、頼もしく感じた。

時には中国メーカーとの価格の開きが大き過ぎるとして失注することもあるようだが、プレミアム価格は概ね受け入れられており、シェアはナンバー1だという。このJJUKIミシンのように2割程度のプレミアムであれば、日本製も中国製と互角以上に戦えるということだ。
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総合商社を「グローバル企業」と呼ぶ幻想

友人のコンサルタントに相談された。ある業界の集まりで「真のグローバル企業になるには」といったテーマで講演するらしいのだが、ヒントをもらえないかと。少し話しているうちに、彼が「この業界は総合商社ほどグローバル化しているわけじゃないからなぁ」とかつぶやくので、つい吹き出してしまった。この著名経済人でさえそうした「美しき誤解」をするのか、と呆れてしまった次第である。

(ちなみに小生は出身大学の関係で友人にも先輩・後輩にも商社マンが多く、個人的には一時期商社志望だったことすらあるほど総合商社には関心がある。大手の数社に対し、比較的最近もお世話になったり、時折お付き合いもさせていただいたりしている。したがってこの後の考察と表現が多少シビアに聞えても、それは悪意ではなくむしろ「愛情表現」だと捉えて欲しい)。

総合商社の活動の舞台はなるほどグローバルで、日本人が他に1人も住んでいないような地の果てまでもネットワークを拡げている。特に資源ビジネスで勇躍したこの20年余り、その駐在・出張先地域の拡がり具合は大したものである。へたをするとCIAやKGBよりも、砂漠や山岳などの僻地に出掛けているかも知れない。

しかしながら小生の基準では、彼らの組織体質は徹底的にドメスティックで、その価値観や行動基準はこれっぽっちもグローバル企業のレベルには近づいていない。それが最も現れているのが、役員や管理職に占める非「日本人男性」の割合の低さである。つまり組織における多様性が非常に低いのである。

このことは世の中でいうグローバル企業の代表であるロイヤル・ダッチ・シェル、ロシュ、ダノン、IBMあたりと比べると明白である。こうしたグローバル企業では、本社国籍によるのか企業カラーは結構明確だが、その国の出身者かどうか、または性別や宗教などと、組織構成員が出世できるかどうかとは全く関係がない。完全な実力主義である。しかも真に優秀な人材であれば、企業全体最適の観点からグローバル幹部候補生として、多様な文化環境でのリーダーシップ・ポジションを幾つも経験させる。

これは、今のニッポンの総合商社が実施しているような、今の首脳陣の直属の部下だったことで芋づる式に引き上げられて、いいポジションに着き、ヒエラルキーを上がっていく、極めて属人的なシステム(「背番号制」といえば、分かる人には分かるだろう)とは別世界である。

真のグローバル企業とは、その企業のアイデンンティティや価値観は大切にしながらも、その事業に必要な人材やパートナーを世界じゅうから集められ、編集し最適配置できる存在であるはずである。その意味で、ニッポン人男性最優先の「総合商社」という存在はグローバル企業からかなり遠い位置にあるように小生は感じるのだが、如何だろうか。

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3本目の矢の中核、「企業支援」策に実効性はあるか

安倍総理自身によって先日発表された、「成長戦略」の第2弾の4項目の一つ、「企業支援」について考えてみたい。挙がっていた項目は2つ。1.「企業実証特例制度」(企業の先端的な実証実験に規制緩和を認める)、2.今後3年間を「集中投資促進期間」と位置づけること(企業の設備投資総額を年間70兆円規模とする目標)。

1つ目は具体的には不明だが、好意的な見方をすれば、例えば開発した医療機器を認証される期間を短縮するよう特例的扱いをするなど、有効な分野は幾つかあるかも知れない。こうした「規制緩和」は日本ではかなり有効である。2つ目は目標設定だけであり、その目標を達成するための具体的政策が全くなく、希望的ゴールだけが示されたわけで、話にもならない。官僚の作文としても出来が悪い。

範囲を拡げて考えよう。成立したばかりの安倍政権の中小企業対策費は1,811億円。うち経産省が1,071億円を数える。内訳は、小規模事業等への支援や事業再生、資金繰りなど(「中小企業金融円滑法」が3/末で期限切れを迎えたことを受けての実質的“モラトリアム”延長)がかなりの割合を占めそうだが、ものづくりや海外展開などの新たな挑戦への支援といった前向きなものも登場している。例えば中小企業が新たな製品を大企業などに提案する際に試作を提出しないと話が進まないことが多いが、試作製作に補助を出すなどするようだ。また、地域商業の機能強化による地域経済の活性化などもテーマに挙がっており、地域特産物を紹介したり、それを縁に地域連携などをしたりするケースを想定しているようだ。

狙いは悪くないが、根本的な問題が幾つかあり、実現性・実効性には大いに疑問がある。

まず中小企業の事業再生には再生計画を立てる必要があるのだが、そもそも中小企業の親方に事業計画策定の能力がないため、金融機関の職員や“事業再生コンサルタント”と称する人たちが代行しているケースが大半だ。その中身は“財務リストラ”ばかりで、肝心の“事業リストラ”(既存事業をいかに儲かるように変えるか、どんな新規事業を進めることで新たな収益の柱を育てるのか)はあまりに難しくて、放棄されている場合が大半である(と、某信金の人から聞いた)。これでは延命はできるが、本当に再生できるはずがない。

これは「新たな挑戦への支援」のケースでも共通する問題で、中小企業の親方は「こんな製品を作りたい」という思いはあるかも知れないが、それがどういうターゲットに対しどういう価値をアピールすると売れるのか(マーケティング)、どんな商流・物流なら関係者が利益を上げることができるのか(バリューチェーン)といった事業の設計をやったことがない。

支援者の人材も非常に限られている。大半の金融機関の職員も、地方自治体の職員もやったことがない。実は中小企業向けの“〇〇コンサルタント”と称する人たちの大半も、これはできない。ごく一部の自治体職員や、地方に住むコーディネータたちが試行錯誤的に挑戦中で、少しずつ成功例も出てきているようだが、全体からするとあまりに稀である。

本来、この世界は戦略コンサルティングの世界であり、本当のプロじゃないと有効な支援は難しい。それなのに金額的には報酬が圧倒的に小さいのである(小生も縁があればアドバイスすることがあるが、中小企業向けを本業にするのは金額的に難しい)。大企業・中堅企業向けに活躍している有能な戦略コンサルタントが、この世界に流れることは“モノ好き”な例外なのである。

例えば、先ほど挙げたポスト「中小企業金融円滑法」の措置として、外部専門家等の経営支援を受けて経営改善計画を策定する場合には費用の2/3、上限200万円までの補助が出るのだが、中小企業自身が自腹で思い切ったカネを出そうとしないのである。自治体や金融機関に大半を負担してもらおうという依存心の高い企業が生き残り、さらに発展することはなかろう。

結果として、わずかな金額に群がってくるのは「コンサルタントもどき」の連中か、融資した金を回収することに躍起になっている金融機関の関係会社であるコンサル会社(そこの職員というのは金融機関のサラリーマンの出向)だけである。前者の多くは大企業を引退した元サラリーマンたちで、年金に上乗せする小遣い稼ぎを狙って登録していると小生は聞いている。経営資源のない中小企業向けの戦略コンサルティングはある意味、大企業向けより難しい。こうした「楽して中間管理職を長くやってきた」素人たちにできる仕事ではない。

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スマートアグリは日本の農業に光明をもたらすか

NHKの「クローズアップ現代」で「農業革命“スマートアグリ”」(5/20放送分)を観た。非常に興味深い内容だった。ITを使っての農業管理や植物工場を指す言葉だが、正直今までは大したインパクトがあるものとは思っていなかった。ところがこの番組で紹介されたオランダの取り組みを見て、認識を新たにした。

オランダの国土は日本の1/10、九州程度の面積。農地面積は日本の半分。農家人口は日本の1/20(たった15万人!)。それでいながら世界第2位(2010年で773億ドル)の農産物輸出国(日本は51位で、たった32億ドル)。この数字を見る限り、「狭い日本では…」という言い訳が情けなく聞こえる。

画面にはいきなり巨大な農業用ハウス(7km×2km)が登場し、度肝を抜かれる。こんなのがあちらこちらに姿を現しているのだという。北ホラント州には高付加価値のトマトやパプリカを栽培する企業10社が集まった巨大農業地帯が拡がっており、オランダには他にもこうした場所が5か所あるらしい。そしてこの「アグリポート」の一つの農業経営者の1人の仕事振りを見せてくれるのだが、ハウスの温度や湿度など、500項目以上のデータをオフィスのPCでリモート管理するのが大半だという。

滅多に行かないというハウスを案内してくれると、日本の平均的なハウスのおよそ2倍、6m以上の高さがある。トマトを縦に高く伸ばすことができるため、面積当たりの収穫量は日本の3倍になるという(「目から鱗」である)。土の代わりに使われているのは人工繊維。そこに養分を加えた水を1日60回、自動で与える。苗の下のビニールの管からは二酸化炭素も自動で散布。光合成が最も活発化する外気の2倍以上の濃度にコントロールされている。さらに栽培に使用する水はすべてこの機械で殺菌し、徹底した品質管理が行われている。

まさに「植物工場」であり、これは工業なのである。投資額も半端ではない。この経営者はこれまでハウスの整備に100億円以上かけてきたという。3年前、オランダでは農業を産業として捉え、当時の農業省を経済省に統合、農業技術の研究を支援している。EUには農業大国のスペイン、ポルトガルが入り、彼らに負けない競争力をつけないと生き残れないと覚悟が定まったのである。そのための付加価値の高い野菜へのフォーカス、ハウスの大規模化、そしてIT活用によるスマートアグリなのである。

番組後半では日本の一部の企業や農家による、スマートアグリの独自取り組みが報じられていた。若きIT企業経営者と、やる気のあるトマト農家の例である。オランダの例に比べるとレベルや規模は随分見劣りするが、「スマートアグリ後進国」のニッポンでは先端的取り組みなのである。「規制擁護派」の農協に頼り切ったサラリーマン農家にはとても期待できない、光明を感じさせるものだ。

今まで巨大な国内市場に頼り切り競争を避けてきた日本の農業も、高齢化が行きつくところまで進んでいるし、TPP加盟も既存加盟国の承認待ちまで来た。このまま何もしないで海外の安い農産物が押し寄せる時期が来れば、かなりの農家・農村が「死に絶える」しかない。政府・農水省は使えない能書きを垂れていないで、思い切った農業規制撤廃と競争政策、そしてIT活用を促進してこそ、日本の農業にも死地を突破する気概のある勢力が生まれよう。オランダの、危機感に根差した戦略性と実行力を見習うべきだ。

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安倍政権の成長戦略「農業の活性化」に中身はあるのか?

安倍政権の「成長戦略」の第2弾が総理自身によって先日発表された。項目は4つ、
① 「農業の活性化」(農業・農村の所得倍増、農産物の輸出倍増など)
② 「企業支援」(「企業実証特例制度」の検討、今後3年間を「集中投資促進期間」とする、など)
③ 「教育改革」(今後3年間で外国人教員倍増、グローバル教育に熱心な大学への交付金配分など)
④ 「クールジャパン戦略」(放送コンテンツの海外展開への支援など)
である。数は少なくないが、民主党政権もしくはその前の自民党政権の時代から云われていたものの焼き直しばかりと感じる。しかも目標を掲げるだけや「検討します」レベルのものばかりで、明確な戦略に基づき具体的かつ実際的な政策の裏付けがあるものは非常に少ない(というか、あるのか?)。

特に①「農業の活性化」はひどい。多分、農林水産省内でコンセンサスが取れた旧政策テーマについて官僚が改めて書き直したに過ぎない。そもそもロジックすらおかしくて、2~300億円程度の国産農産物輸出が倍増したところで農家全体の所得倍増へのインパクはほとんどない(もちろん、一部の農家が所得倍増するケースぐらいあるだろうが…)。これと「6次産業化」以外には農家の所得倍増に意味があるものは見当たらない。

それに輸出倍増の前提としてそもそも国際競争力を付けるためには、今の価格・コストをせめて半減(できれば1/3程度に)しなければ、国際市場の土俵にすら乗らない。その価格・コスト半減の必要条件は競争の導入と規模拡大・効率大幅改善であり、具体的には減反政策の取り止めによる農地集約と、民間企業の参入への規制解除である。この方向に踏み出せば、例えばITを使っての農業「革命」も可能である。

しかしこの「価格半減」にも「民間企業の参入」にもJAが強烈に抵抗する。なぜなら彼らの収入は農産物売上に比例する手数料なので、同じ数量なら価格が半減すると、彼らの収入も半減するからである。ましてや民間企業に自由に参入されたら自分たちの商売が浸食されるので、なるべく邪魔をするのが本能なのである。したがって色々な側面でJAと密接な協力関係にある農林水産省がJAの嫌がることを推進するのは、よほどの圧力がないと難しい。その圧力を掛けるべき立場の政治家、特に自民党政権は、一大政治勢力であるJAに「選挙で落とすぞ」と脅されれば、他愛もなく腰砕けになろう。これは民主党政権でも同じだった。

「6次産業化」については農業関係者の間で損する人、すなわち反対する人は少ないだろう。しかしできているケース自体が少ないのである。そもそも加工業者や食品メーカーもしくは大手飲食業者が思いつく、付加価値を上げる方法は既に試しているのである。彼らができずに(またはやらずに)農家に残されている商品分野やビジネスモデルは当然限られている。それは大量生産・消費に向かない加工法や商品分野であって、農協ルートにも乗せられないニッチマーケットだろう(例えば規格外農産物を地元レストランや弁当屋に直接売るネットワークを作る、など)。

こうして考えてくると、そもそも日本の政治・行政が前向きな意味で「農業の活性化」を何かまともにできるとは思えない。彼らができるのは唯一、減反政策や参入規制など、やる気のある民間の手足を縛っている既存の政策を止めることだけである。本当は農水省を廃止して経産省と統合するのが一番有効なのかも知れないが、さすがに実際的ではないだろう。せめて「特区制度」を突破口にする形で構わないので、減反政策と参入規制を廃止してみて、そこで成長モデルを作って欲しい。

②「企業支援」以下は、機会があれば別途論じてみたい。

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コマツの強さは「ビジネスモデル+現場力」

5/16(木)の「日経プラス10」にコマツの坂根相談役が出演、色々な質問に答えられていた。坂根氏は小生の最も尊敬する経営者の一人であり、その経営に魅力を感じて株主になっていたこともあるくらいである。

建機の売れ行きが景気の先行指標になるというお定まりの「前振り」があった後、実は経済成長地域もまた明白に示すという面白いグラフを坂根氏が示した。それによるとバブル経済の頃、建機の販売額で見て、日本市場の世界に占める割合はほぼ4割を占めたというのには驚いた(そりゃコマツや日立建機が大企業になったはずですよ…)。しかしそれ以降、日米欧の先進国地域は右肩下がりに下がり続けており、2010年には新興国が7割(その半分が中国!)を占めるまでになった。直近では米国・日本が少し持ち直してきており(各々2割、1割にまで回復。その分だけ中国が縮んで今や1割)、まさに「景気のよい地域」を如実に表している。

キャスターの質問に答える中で幾つか興味深いエピソードも開陳された。有名なKOMTRAX(建機の位置とエンジンの動きをセンサーとGPS通信で常に監視するサービス)の発端は今のような稼働状況をモニタリングする目的ではなく、建機の盗難防止策だったこと(当時、盗難した建機を使ってATMを破壊し現金を奪い去る事件が多発していた)、それを当時サービス部長だった坂根氏が指揮して考案したこと。以前にも聞いた気がするが、やはり面白い。

そのうちコマツはこれが盗難防止だけでなく稼働状況モニタリングサービスとして付加価値があることに気づく。そのため当初はその機能をオプションとして売り物にしていたが、必ずしも採用率は高くなかった模様。やがて社長となった坂根氏は、この機能を標準装備とする決断を下す。1000万円の本体価格で20万円ほどのコストをメーカーが負担するわけだから、それだけ利益が削られる。それでもこの機能は「ユーザーのためではなく、自分たちのためだ」と社内を説得したそうだ。

社長だからこそできる英断であり、お陰で競合有力メーカーに相当先行できた。その後の中国とその他新興国市場での非価格競争力の源泉になって同社が躍進したことで、坂根氏の炯眼が証明された。つまり建機オーナーには「この地区にあるこの建機はこの時間帯は遊んでいますよ。この地区にもっていけばフル稼働させられますよ」と持ち掛けることで、価格の安い中国製でなくコマツ製を選んでもらえるのだ。盗難されても追跡できるので、盗難予防効果もある。新興国にはピッタリだ。

もちろん、この機能を標準装備するからにはコストダウン努力は凄まじいものがあったに違いないし、市場に対し説得するための営業努力も多大であったろう(株主総会でも説明を受けた気がする)。それを坂根氏は「現場力の勝利」と呼ぶ。知恵を使ったビジネスモデルの力と現場力の組み合わせ、それがニッポン企業の躍進には欠かせないことをコマツの例が教えてくれる。

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MSは自らの首を絞めている

小生の仕事用(ノート)とプライベート用(ラップトップ)のPCは、どちらもウィンドウズVistaがOSである。それなりにパフォーマンス・レベルの高いはずの機種とメモリを載せている。しかしながら、このところめっきり速度が遅くなっていると感じている。セキュリティソフトのせいとかアプリのせいとかを疑っていたが、どうもそれ以前の問題であるように思えてきた。立上げやシャットダウンに無闇に時間が掛かるのである。

特にシャットダウン操作をした直後に追加の用を思い出して再立ち上げした際に痛感するのが、この「鈍くささ」である。へたをすると3~4分ほど掛かる。あまりに時間が掛かるので、トイレに行って戻ってきてもまだ立上げが完了していないことすらある。それに加え、立上げた直後だと操作そのもののスピードが非常に遅い。テキストを打ち込んで、それが画面に反映するのに数秒掛かってしまったり、漢字変換が反応するのにやはり数秒掛かってしまったりするので、非常に戸惑ってしまう。

特に先週から今週に掛けて、少々異常な忙しさなので、余計にこの遅さはいらだちをもたらす。タブレット端末だったら、こんなに待たずに済むのに、とつい思ってしまう。実際のところ作業も結構するので、タブレット端末だと却って不便かも知れないと、買い換えには踏ん切りがつかないまま来ているが、もし今のPCのどちらかが壊れて買い換えを余儀なくされたら、PCではなくタブレット端末にするかも知れないとよく考える。

世間でPCの売れ行きが悪く、ビジネスパーソンにはタブレット端末がそこそこ普及し始めているのは、軽くて扱いが楽というのももちろんあろうが、小生のようにPCの立ち上がりや動作の遅さにいらだって、PCに見切りをつける人も結構いるのでは、と思う。

これだけPCのハードウェア能力が向上しながら、操作速度が遅いという不満が解消されたことがないのは、CPUとメモリの能力が上がった分の大半をOSとミドルウェアが消費してしまうからだろう。画面がより綺麗になったり操作に音声がついたりすることに、我々ユーザーは大して有難味を感じない。速度が何割か速くなるほうが、ずっと有難い。ましてやOSが変わる度に操作が変わってしまい、それまでできたことができなくなる経験を繰り返すたびに、MS(マイクロソフト)に対し呪いの言葉を投げつけるのである。

PCのハードメーカーが製品の能力向上に凄い努力を払っているのに、MSが「OSを進化させる」とか称して余計なことをするために、その努力を台無しにしている構図である。PCの売れ行き、ひいてはウィンドウズの売れ行きが悪くなっているのは、ひとえにMSが進化の方向を間違っているからだ、と思うのは小生だけではないはずだ。

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「懐かしのベンチャー交流会」もどきに参加して

この月曜に、Global Techno Innovation Cafe (GTIC)なる団体の催しに(誘われたので、のこのこと)出掛けた。
https://ja-jp.facebook.com/GTICafe

今週はある大手企業向けの提案をしなければいけないので随分忙しく、無謀な寄り道だと思いながらも、主催者の秋山さん(ベンチャーキャピタリスト)に会いたくて、出掛けた次第である。

そもそも会の趣旨すら分かっていない状態で向かったので、受付して戴いた案内書に「英文レジュメの書き方」だとか「Linkedinでの自己紹介の仕方」だとか書いてあるのを見て、「場違いなところに来た」というのを明白に悟った次第である。しかし参加費(4000円だったか、安くない金額)を払ったので、元を取らないまま変える訳にはいかない。腹を括って(そんな大げさな!)吸収しようという気になって臨んだ。参加者の大半はこれからベンチャーを立ち上げるか、最初の転職を考える20~30代。はっきり言って、小生は浮いていたと思う。

最初のスピーカは翻訳者の方で、英文でのレジュメの書き方などを実例(秋山さんのもの)に即して添削したのを解説していた。申し訳ないけど知っていることばかりなので、少々つらかった。最後に余計な口出し(「それ、ちょっと違うんじゃないの?」)さえしてしまい、反省。

続いてのコーナーは日本で働いているガイジンさん3人(それぞれ香港、リトアニア、ウズベキスタン出身)のパネラーに秋山さんが質問をぶつける「ここが変だよ、ニッポン人」的なコーナー。これは楽しめた。結構、日本人でも混乱しやすいニッポンの礼儀を場合分けしながら、秋山さんが解説。これもついつい黙っておれずに、質問や異論を差し挟んでしまったが、まぁ許していただこう。

最後は懇親会。数人と結構盛り上がって色んな話をしたが、意外とベンチャー企業に出資したりするVCやサービス提供する企業の人もいることが分かって、最近あまり行っていなかったが、元々は小生が結構好きな異業種交流会の趣であった。しかも懐かしのベンチャー交流会的な雰囲気満載だった。こんなところから新たなビジネスの種が生まれると面白いなぁと感じた夜だった。

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水産庁や漁協はマーケティングに注力せよ

NHK Eテレの「東北発☆未来塾」という番組は、学生に東北の復興を考えてもらう形をとって、色々な業界のリーダーによる数回ずつのちょっとしたゼミナールを行うものである。5月11日(土)の朝のテーマは「漁業のチカラ 魚離れってホント?」。出演しているのは水産庁職員で「水産の復興を考える会」代表の上田勝彦氏、通称「ウエカツさん」。

大きな被害を受けた三陸のワカメ。いま、生育は順調だが、消費は伸び悩む。実は漁業の不調は震災前からの課題なのである。「復興の1年目は、みんなが応援したが、2年目は熱が冷めて値段が下がっている。漁業を支えるのは消費者。食べてもらえないものは取る意味もない」というウエカツさんは、魚の消費を増やすにはどうしたらいいのかを横浜で考えようと、学生を連れていき、横浜の「愛と勇気とサンマ実行委員会」のイベントで魚を焼いて配る。さらには魚を取って食べられる水族館を訪ねる。

その場でウエカツ流簡単魚料理として魚の酒蒸しを披露する。匂いにつられ、子どもたちが寄って来て、おいしそうに頬ばる。ウエカツさんは「魚離れって本当?大人が勝手にラベルを貼っているだけなんじゃないか」と吠える。その通り。子どもたちが「魚が嫌い」と言っているわけではない。おいしけりゃ彼らは食べる。現に子供は寿司が大好きだ。確かにこうしたイベントで魚に触れあったり、釣った魚をさばく場面を見せてあげたりするのもいいが、本質的ではない。

要は、「魚離れ」したのはお母さんたちであり、ファミレスを含む街のレストランなのだと思う。「魚料理は難しそう」「魚をさばくのは大変そう」などと尻込みしている人が大半だから、食卓に上る機会がどんどん減っているに過ぎないと思われる。ならば漁業の復調のためには料理する人たちに、魚を素材とする料理をどんどん作ってもらうべきだろうと思う。

むしろ、必要なのは魚料理のマーケティングだ。例えばABCクッキングや東京ガスの料理教室などに魚を素材として無償提供して、花嫁修業の女性たちや引退したオッさんたちに魚料理のレシピを一杯覚えてもらうことだ。大消費地の自治体を通じて地元の料理サークルに同じようにアピールするのもよい。また、クックパッドや楽天レシピなどのレシピサイトに(比較的簡単に作れて美味しい)魚料理のレシピをどんどん載せ、並行して食品スーパーなどに魚料理のキャンペーンを持ち掛けるべきだ。ファミレスに新しい魚料理メニューを積極的に提案すべきだ。同時に、テレビの料理番組にも提案して、魚料理を扱ってもらえばよい。調味料メーカーともタイアップして、アピールの場を増やせばよい。

水産庁や各地の漁協の職員がすべきことは、そうしたマーケティング活動である。特殊なイベントより地味な日々の売り込みこそ重要である。ましてや漁業権の調整や政治家への陳情、漁協関係者同士で酒を酌み交わすことが主たる仕事と勘違いしてはいけないと思う。

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ニッポンの建設技術は世界に誇るべき優れモノ

5月6日(月)の「未来世紀ジパング」は、「解体!改修!耐震&免震!世界に羽ばたくニッポンの建設技術」と題して、日本の土木・建築技術の凄さを伝えてくれた。

最初に映ったのはグランドプリンスホテル赤坂(通称「赤プリ」)。昨年解体工事に入ったが、140メートルの高さを持つビルが毎日少しずつ縮んでいく。これは、大成建設が考案した“テコレップシステム”と呼ばれる解体工法。粉塵や騒音をほとんど出さず、上から下にビルが縮まるように小さくなるという日本独自の技術だ。100m以上の高度ならコスト抑制効果が高いという。

次は今や新名所、東京駅丸の内駅舎。(東京大空襲で焼失して以来)67年振りに3階部分が復活した。5年もの歳月を要した工事は、外装や内装を修復するだけではなかった。 駅舎を支えてきた1万本の「松の杭」を(基礎部分に鉄筋を打ちこむことで)除去し、新たに地下2階(駐車場になっている)を作るという難工事が鹿島の手で行われた。

姫路城の50年振りの大規模修復工事も同じ鹿島。素屋根という足場をかぶせて実施されている(以前、爆笑問題が現場突撃をしていた)。ここは歴史的建造物特有の厳しい条件として、地面には釘1本打てないとの事。土木シートの上に砂利を置いてコンクリートを打ち、基礎を作っており、素屋根はその上に建てられている。

シンガポールは建設ラッシュ。そこではイギリス植民地時代に建てられた歴史的建造物の改修も相次ぎ、日本企業の独壇場になっている。ビクトリアシアター・ホールは佐藤工業(受注額71億円)、シティホールと最高裁判所は竹中工務店(同260億円)、キャピトル・ディベロップメントは清水建設(同200億円)が受注。1933年に建設されたキャピトル・ビルは政府から保存・修復に関する詳細な指示があり、韓国企業などは「リスキー過ぎる」と入札時に降りたそうだ。壁や柱を保存することはもちろん、なんと中の鉄筋や鉄骨も保存せよとのことだ。「鳩の巣」と呼ばれる天井裏は床の厚みがわずか6センチしかなく、1人乗るだけでも危険だという。こうした困難に立ち向かうのがニッポンの技術者の凄いところである。

もう一つの地震大国・インドネシアでもニッポンの技術が喜ばれている。スマトラ島のパダン市ではJICAが地震被害後の復興に手を貸している。耐震基準が高い小中学校を、日本の建設技術で次々に建設していたのだ。これは八千代エンジニヤリングが協力しているようだが、現地の建設基準より遥かに安心な、太く丈夫な柱と鉄筋を使っている。またブリジストンの免震技術を気に入ったホテルが新しいビル建設に導入し、ラウンジでは免震設備部分を透明のカバーにして見せるようにしていた。同国の大きなビルの新設に今後、これが標準的に導入されると素晴らしい。

最後は「耐震」「免震」に加え「アクティブ免震」(大林組)でどれほど揺れないかを比べるため、スタジオではそれぞれに鉛筆を立ててデモをしていた。「アクティブ免震」だと本当に鉛筆が倒れないのが視認できたが、いやはや凄い技術である。是非、国内で価格の叩き合いなんかしていないで、世界で稼いで来て欲しいものだ。

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日越ソフト開発協力の真の課題は何か

本日、5月7日(火)、JISA-VINASA 日越ソフトウェアビジネス協力セミナーという催しに参加した。(社)情報サービス産業協会の主催する、ベトナムのシステム開発会社を招いての紹介セミナー&交流会である。ベトナムでのオフショア開発に興味のある日本のSI/システム開発会社に対し、「ウチと組みませんか」と秋波を送るのが目的だったようだ。

ベトナムにベースを置く各社が自社の特長や得意領域をプレゼンするのがメイン・イベントで、その後はパネル・ディスカッションとショートプレゼン、そして名刺交換&懇親会と続いた。プレゼンとショートプレゼンの中身の大半が、いかに自社が日本企業からのオフショア開発に実績があり、サービス品質が高い(CMMIレベル〇を取得!など)のに単価が安く、しかも日本語と日本文化を理解しているかをアピールするものだった(最初は興味深く聞いていたが、各社とも同じようなことを強調するため、途中からは飽きてしまった)。

パネル・ディスカッションにおいても、日本のシステム開発会社から見て、中国と比べてベトナムへのオフショア開発での課題としては「日本語を流ちょうに使える人が少ないこと」が真っ先に上がっていた。実際、ベトナムの学生の間では英語学習熱はすごいものがあるが、日本語学習者は2ケタほど少ないだろう。それに対しベトナム側から、「とても日本語ができる人は(希少価値があり)日本企業に引っ張られてしまう」ので、オフショア開発会社としては「そこそこ日本語ができる程度にまで教育する」「極端に頭脳優秀な人材だと定着しない」という反応だったのは、本音でもあり面白かった。

聞いているうちに思ったのは、日本のSI/システム開発会社側が日本語にこだわるから選択肢が少なくなるのであって、日本のユーザー企業にとってのコスト削減が不十分になってしまうのではないか。ユーザー企業が日本語で要求定義を出すのは仕方ないが、それを基に日本のSI/システム開発会社が英語で仕様を書いて設計すれば、そのオフショア先は世界中に拡がる。中国かベトナムかというレベルではなくなる。

もう一つ思ったのは、本日プレゼンしたベトナムの各社ではサービス品質を向上させるため努力を惜しまずに精進していることである。数社は発注企業に開発の進捗状況をモニタリングさせるサービスまで実施している。日本のシステム開発会社でそこまでやっているところが何割あるだろう。

結局、窓口となる日本のSI/システム開発会社の英語能力のなさや管理能力の凡庸さが日本のシステム開発のコスト高につながっており、日本でのIT活用の遅れの原因の一つになっているのかも知れないと思うと、暗澹たるものを感じた。

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人型ロボットは製造業をどう変えていくのか

4月28日(日)のNHK「Biz+ サンデー」の特集は、「導入進む人型ロボット」。日米の製造業現場などで導入が始まった人型ロボット最前線の動きを追っていた。

番組ではまず、金銭処理機大手のグローリー(株)の工場の様子を映す。同社の工場ではセル方式のフロアと流れ作業のフロアの両方で人型ロボットが使われている。人間の作業員に混じって人型ロボットが甲斐甲斐しく同じ作業をしている様子が映し出されていた。部品の単純な組み付けだけでなく、ゴムベルトの巻き付けやテープ剥がし、基板の補充などの複雑かつ微妙な動きも器用にこなすのがよく分かった。やはり動画で観ると実感が湧く。

部品や基板の置いてある位置が多少バラバラでもちゃんとピックアップできるのは、画像センサーによって正しく認識されるから。全ての動きは個別にプログラミングすることで制御されており、組み立てる機器が違えば違う動きを正確に繰り返す。大量生産に向いた専用ロボットと違い、多品種少量生産に向く。人間だと1カ月に1回の頻度の動きは忘れてしまい、マニュアルを参照しながらでないと間違ってしまうが、ロボットなら大丈夫だ。

熟練した作業員に比べれば1.4程度時間が掛かるというが、休憩も取らずに作業し続けることができるので、一日をみればほぼ人間1人分の仕事をこなすという。この川田工業製ロボットの導入費用は本体だけで1台約740万円。安くはないが、2年もせずに回収できる費用なのだろう。

続けて、味の素の研究所において、安川電機製の人型ロボットが黙々と同じ実験を繰り返す様子が放映された。人間だったら飽きてきて作業にブレも生じるところだろう。これで実験の品質が上がり、研究開発の効率が上がるという。導入費用にはなんと数千万円掛かったという。

そのあとに産業総合技術研究所の研究部門長・比留川博久氏が登場。画像処理の技術が格段に進歩した訳ではないという。むしろ人と同じ環境で使えるように(つまり特別な製造ラインにせずともよいように)工夫したことで一挙に導入が進んでいると指摘していた。今後当面は、比較的軽く単価(付加価値)の高い物を対象に導入が進み、それ以降、相対的に付加価値の低いモノへの適用が順次進むだろうと、現実的な見通しを語っていた。

面白いのはその直後に米国での動きとして、rethink robotics社の人型ロボットが注目されており、雑貨など付加価値の低いモノのメーカーでも導入検討が進んでいる様子が伝えられたこと。日本製のように複雑な動きを幾つも組み合わせるのではなく、単純作業を繰り返す機能限定タイプである。そのため価格はなんと1台22,000ドル。しかも制御のためのプログラミングは全く不要で、動作をまさに「手取り」で教える方式。誰でも使える。

これだけ簡単かつ低価格であれば、町工場でも使える。中国に仕事を奪われ続けてきた米国の工場の逆襲の武器になるだけのインパクトは十分である。rethink robotics社は米国市場だけでなく世界への進出も計画しているとのこと。日本製の常識的なアプローチを一挙に抜き去る可能性を秘めている。さすが自由発想の国、USAである。

終盤に番組のキャスターが「人間の仕事を奪うことにならないのですか」と視聴者の懸念を代弁して質問していた。比留川氏曰く、「日本の製造業で最もロボット導入率が高いのが、トヨタに代表される自動車メーカー。彼らの競争力は高く、産業のすそ野を考えると雇用への貢献度も最高水準。ロボット導入と雇用とは両立する」と。これは米国でrethink robotics社のロボット導入を検討している工場経営者たちのコメントとも一致する。長期的には分からないが、少なくとも短中期的には製造業を国内に残すための有効な手段として、中堅・中規模メーカーでも検討が進むのではないか。

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値上げは知恵の勝負

4月30日の「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)は「人気外食チェーン  価格攻防の裏側」と題し、国内外食産業の価格設定を巡る攻防を描いていた。国内の消費ムードが改善しつつある一方、円安により輸入食材が値上りしているからである。そこで番組は、"価格を上げての勝負"に出た「あきんどスシロー」(回転すしチェーン国内トップ)と、"高級化路線"に舵を切った「ロイヤルホスト」(ファミリーレストラン)の戦いを追う。

「105円均一」で業界トップとなった「あきんどスシロー」が、この春から189円(税抜き180円)という高価格商品を本格投入する。あわび、うに、中トロなどの高級食材を調達し、回転すしの常識を変えようという試みだ。豊崎賢一社長は「安ければ何でもいい時代から、もう少しお金を出してもいい物を食べたい、この『もう少し』の範囲がどこなのかを探るのが狙い」と語る。

189円寿司のラインナップが社長の一声で13品できた。調達責任者が全国を駆け回り、値段の約半分の原価でほぼ仕入れることができた。しかしアワビだけは国内で調達先が見つからない。そこで豊崎社長自らアワビ養殖世界一の地、韓国に飛び、数百店舗の仕入量を材料に価格交渉、決着する。

高級路線1号店は、ららぽーと柏の葉店。しかし直前に社長が試食するが、アワビはおいしくなかった。真横に切るのではボリューム感が出ないのだ。すぐに厨房に入り、指示を出す。「アワビは斜めに切って、ボリューム感を出せ。(捨てられそうになっていた)肝をつけろ」と。さすが元すし職人。

オープン初日。客の入りもよく、189円の高級ネタも順調に捌ける。しかし当初はアワビだけ動きが悪かった。急遽、豊崎社長自ら、皿に盛ったアワビ寿司を幾つも抱えて店内を売り歩く。途端に注文が出る。さすが商売人。オープン初日の売り上げは約120万円と大成功。

もう一つは『ロイヤルホスト』。本格レストランを目指しコックを大事にする点で、ファミレスの中では元々異色の存在である。しかしデフレ基調の中、他チェーンと同様の低価格競争に巻き込まれ、97年から2011年までの間、売上減少を続けていた。

2年前に社長になった矢崎氏は、江頭匡一氏の創業の原点に立ち返るべく、厨房機器を一新しコックが腕を振るう環境を整え、メニューを変えて高級化路線に転じた。そのお陰で16年振りの売上増を果たした。店内の客さんに聞くと、「手が込んでいる」「味が高級な感じ」と好評である。

高級化路線をさらに推し進めるため、看板メニューのステーキ肉を、本場米国でも人気のアンガス牛にする事となった。担当者の2人は社長に想定価格1,980円を提示したもの、あと200円の値下げを求められる。彼らは模索し、塊のアンガス肉の端の部分を活かすため、「アンガス牛のステーキ丼」を開発。無駄をなくすことでトータルコストを下げることができる。

アンガス牛ステーキのテスト販売が始まった「ロイヤルホスト 桜新町店」。価格は単品で1,780円(税抜き)との設定になったが、セットでは2,000円を超す。「アンガス牛のステーキ丼」も1,480円。割安なランチメニューが並ぶ中でもそれぞれ4枚と8杯と、売れ行きは好調。特に後者は(利益率が高そうだが)嬉しい誤算となった模様。

日本は今、間違いなく長年のデフレから抜け出しつつある。牛丼業界のように無益な消耗戦を繰り返すのではなく、価格戦略を真剣に考え直すべき機会である。言い換えれば、このタイミングでできなければ原価上昇により確実に利益は吹っ飛んでしまう、分水嶺に来ているのだと認識すべきである。

もちろん単に価格を上げるのでは、売上を減らすことで利益をかえって減らすだけに終わる。価格以上に価値を上げることで需要者に値上げを納得してもらえるようにメニュー等を組み替える必要がある。それは知恵の勝負なのだ。

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秀吉の刀狩りにみる、「渋る相手の説得」術

4月30日(火)放送の「知恵泉」(NHK Eテレ)は「新規プロジェクト必勝法 第5回」として、豊臣秀吉の「刀狩り」を採り上げた。農民から武器を取り上げ安定した統治を行おうという狙いだが、農民がおいそれと応じるはずがない。渋る農民をいかに納得させたのか。「人たらし」秀吉ならではの秘策を辿る、実に濃い30分だった。

豊臣秀吉の刀狩りは、農民を農作業に専念させる「兵農分離」を目的とした、平和な社会を目指す極めて重要な施策だった。しかし中世社会においては「自分の身は自分で守る」もの。「7人の侍」に見るように盗賊や近隣争いは日常茶飯事、時には領主に対しても一揆で対抗した(だからこそ施政者側としては農民から武器を奪うことが必要だった)。刀は家や財産を守るための道具であり、そう簡単に手放せるはずがなかった。

そこで農民出身ゆえに農民の心理が分かる秀吉は、渋る相手に硬軟取り混ぜたやり方で、刀の供出を迫ったことが検証される。

知恵その1は「その気にさせるメリットを用意すべし」。大義名分は当然ながら、「全国統一がなされ平和な時代が来たのだから、安心せよ。お前たち農民の安全はワシ達、政権にある武士が守る」と呼び掛けた。その上で、供出された刀は、方広寺(ほうこうじ)に建立される大仏殿の釘やかすがいとして使うとされた。刀を供出した者には大仏と縁が結ばれ、来世の極楽行きが約束される、という信仰心の篤い百姓たちにとって魅力的なメリットを訴えたのである。

当時、奈良の大仏は焼失しており、世の中に大仏が存在しない時代である。その大仏を再び建立しようと宣言したのが天下人の秀吉であり、その一大社会プロジェクトに庶民も参加できるぞと訴えたわけである。実にうまい。

知恵その2は「目立つところで実績をつくれ」。全国で刀狩を実施する前に、世間の注目を浴びる刀狩りを演出している。一大武装勢力だった真言宗の総本山・高野山に圧力をかけ、「自主的に武器を差し出す」ように仕向けた。圧倒的な兵力による脅しに屈し、さしもの高野山も「今後は仏事に専念する」と命に従った。それに対し秀吉は「自主的に」従ったことを評価し、今後の保護を約束する。一方、高野山と並ぶ宗教勢力である根来寺は刃向ったため、徹底的に弾圧した。この扱いを見て、他の宗教勢力も大人しく従ったという。

知恵その3は「相手に合わせた戦術をとれ」。キリスト教徒の多い肥前においては特に念入りに行うため、実にあざとい方法も用いている。刀狩りに先立って鑑定士である刀匠を派遣し、「名刀を買いに来た」と宣伝させる。農民が持ち寄ってくる刀を片っ端から調べて、銘と持ち主を記した詳細なリストを作成。それをもとに100人近い役人が効率的に根こそぎ刀を摘発し、その地域だけで16,000本も没収したという。

一方、全国一律ではなく各地域の事情に合わせケースバイケースの対処を許す。例えば平戸では武家の奉公人には帯刀を許す。山間の若狭ではイノシシ狩り用に槍10本に限りOK。筑前・箱崎郡では宗教用の宝剣は問題なしとしている。こうして免許制にして刀を完全にコントロール下に置いたのである。

さすが秀吉と思わせる、「渋る相手を説得し従わせる」ためのあの手この手である。こうした秀吉の知恵を是非、現代の米国で「銃狩り」を実施するために活かせないものかと思う。そうすれば、病んだ銃社会である米国社会も日本のような平和な社会に変わることができるのではないか。

ゲストの元外交官である宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)の最後のまとめがよかった。秀吉の成功は「戦術の組み合わせ」と「戦略のブレなさ=しっかりとしたグランドデザインの存在」であったことを指摘し、外交の場では「99%まで正直でないと交渉はできない。しかし最後の1%で互いに理解しながら嘘をつく/騙されたふりをすることで交渉は成立する」というコメントは実に深い。

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