日本製技術を担ぐホンハイの戦略と意地

5月21日(水)に再放送されたドキュメンタリーWAVE「アジアの黒衣(くろこ) 動く~日本人技術者を取り込む台湾企業~」。今回は鴻海(ホンハイ)についてでした。

2年前に取り沙汰されたシャープとの出資交渉をめぐり、日本でも一躍その名が知られるようになった台湾企業・鴻海。カリスマ経営者・郭台銘が一代で築き上げた企業です。iPhoneなどのスマートフォンからPC、ゲーム機まで、あらゆる電子機器を「黒衣(くろこ)」として受託製造する、アジア、いや世界一のEMSです。水平分業のビジネスモデルを引っ提げ、圧倒的な規模とスピードを武器に業績を伸ばし、有名連結売上高は今やなんと13兆円超。

その鴻海が、新たなビジネスモデルに脱皮しようとしています。中国での人件費が高騰し「世界の工場」でなくなりつつあるため、そしてEMSでの同質化競争が激化し、価格の叩きあいが生まれているからです。

そのため鴻海は黒衣の域を超え、自らの企画・設計による中核部品・ディスプレイの開発・製造にまで乗り出し始めているのです。シャープへの出資検討も、最先端液晶技術の取り込みにより、この方面への技術展開を狙ったものと考えられています。その矛先は今、有機ELにまっしぐらに向かっています。

しかし有機ELによるディスプレイは世界の主要なエレクトロニクスメーカーが取り組みながら、液晶並みの量産コストの低減にことごとく挫折し、今や韓国のサムソンとLG電子しか量産化に取り組んでいるメーカーがなく、日本では(ソニーとパナソニックから事業譲渡を受けた)ジャパン・ディスプレイぐらいしか本格的な開発を続けているメーカーは残っていないという、いわくのある製品です。

プロジェクトを成功させるため、鴻海は日本人技術者を募ることにしました。世界のモノづくりの影の主役に踊り出ようとする、新興巨大企業の新たな戦略を番組は追ってくれました。

鴻海に最近採用され、有機ELプロジェクトの中核となっているメンバーは豪華です。元シャープの亀山工場長や、元日立の製造部長やソニーとサムソンで有機ELの開発の中核だった技術者などが紹介されていました。彼らは出身の日系メーカーが有機ELをあきらめるにつれて社内で活躍の場を失い、再起の場を欲していたのです。「もう一度有機ELに取り組める」。これが、彼らがヘッドハントに応じた唯一絶対の理由でしょう。

彼らが有機ELディスプレイの量産化は、高い画質を維持しながら液晶並みのコスト削減ができるか否かに掛っています。そのための技術開発は、ディスプレイ・メーカー以上に製造装置メーカーが握っているといって過言ではありません。そしてそうした最先端の高い技術を持っている半導体製造装置メーカーは世界でも限られ、日本はその少ないメーカーが残っている場所です。

郭CEOは「鴻海は台湾企業ではなくグローバル・メーカーだ」として、「日本と台湾が手を結ぶことでアジアで勝てる」と強調します・本社での戦略会議の場はほぼ全員台湾人で中国語が公用語。一方フォックスホン(ホンハイ)大阪事務所での有機ELプロジェクトはほぼ全員日本人なので公用語は日本語です。そして後者が今、鴻海の社運を担っているのです。なかなか感慨深い光景でした。

これは小生が何度か非難している、中韓企業による日本企業の技術盗用ではありません。日本メーカーがほぼ諦めた日本製技術による有機ELディスプレイを、ホンハイが量産化できることを期待したいと思います。
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漂流するタイ国に日本はどう向き合うべきか

ついに軍によるクーデターにまで行き着いたタイ。どうやらタイの軍部は局面打開のため周到に機会を窺っていた模様です。事態も行方も不透明ですが、日本にはやるべきことがあります。


インラック首相の失職・退陣後も続いた政権側=タクシン派(赤シャツ)と反政府側=反タクシン派(黄シャツ)の対立による政治的混乱は、ついに軍の介入による「ちゃぶ台返し」という不名誉な事態を招きました。残念ながら、タイの政治は成熟の機会を再び逃してしまっただけでなく、その民主主義の歩みはミャンマーと同等水準にまで立ち戻ったといえます。

20日時点では戒厳令を布告して対立勢力の調停に乗り出していた陸軍は、22日の夕方になって行政権限を掌握したと宣言しました。事態の正常化と「全勢力に公平を期した国家改革」をその理由として。同時に夜間外出禁止令および5人以上の政治集会の禁止も発令され、実際に両派の動きは封じ込まれているようです。

日本の報道の多くでは、軍は対立する両派の対話を促すべく努力したが、成果が見られないためにやむなくクーデターに踏み切った、という軍の言い分をそのまま伝えていますが、少々表面的ではないかと思えます。実際にはバンコクの陸軍施設で開催された2度目の会合に集まった与野党の関係者を軍が拘束し、現在も軟禁している模様です。軍の主張するように、たとえ初回会合で両者の歩み寄りが全く見られなかったとしても、それは予想通りだったはずです。2度目の対話を始めて2時間もしないうちにクーデターに踏み切った経緯から考えて、初めからシナリオ通りだったとみるのが妥当でしょう。

2006年9月の前回クーデターでタクシン氏を首相の座から放逐したタイ国軍は、当時内外から強い批判を受けたため、今回の行き場のない両派対立の混乱の中でも随分我慢を続けていました。高齢の国王が以前のように仲介役に乗り出すことが無理な現状から考えて、「軍によるクーデターでしか決着しない」という予想(期待?)は市民の間にも根強かったのです。しかし、外資による直接投資と近隣諸国と連動したサプライチェーンの確立が発展の原動力になってきた近年の経験から、外国人(特に先進国)が嫌がるクーデターは避けるべきと軍関係者も公言していたらしいです。その軍がなぜ、非難覚悟でクーデターに踏み切ったのでしょうか。

軍の伝える発表文のニュアンスと事の経緯からすると、インラック首相退陣後に繰り返された両派のデモ合戦がどんどんエスカレートする兆しを見せ、このまま行くと不測の事態を迎えかねないこと、つまりいずれかのデモ隊が暴走し、軍がそれを武力で抑える過程で死傷者が出る、という事態を恐れたということです。つまりどうせ非難される武力鎮圧に踏み切らざるを得ないのなら、抜き差しならない事態に追い込まれてやるより、未然の段階でかつ迅速に事態を収拾したいということだったのでしょう。

だからこそ一度は対話の場を提供したという「アリバイ工作」をした上で、その茶番劇をずっと続けるのは馬鹿くさいので、「だまし討ち」的段取りではあっても、早めのクーデターを手際よく成就させたのではないでしょうか。なかなかの切れ者がタイ陸軍にはいるようです。

しかし問題はこの後です。プラユット司令官を議長とする国家治安維持評議会は、全権掌握を宣言した上でプラユット氏に首相権限を付与したそうですが、両派の対立をどう決着させ、内外の非難が高まる(そして経済的ダメージが効いてくる)前に民生にどう移管するのか、現時点では全く見通せません。

1回目の両派の対話では、調停役にあたるプラユット司令官は、現内閣が総辞職した上で、選挙を経ずに暫定政権を樹立、6~9カ月以内に総選挙を実施することなどを提案していたそうです。彼は、前回当時のタクシン首相を放逐したクーデターの実行指揮者でもあります。そして現在、インラック前首相をはじめ、タクシン派(タイ貢献党および反独裁民主同盟=UDD)の幹部に出頭要請が続々と出されています。ゆえにタクシン派からみれば、軍は明らかに「反タクシン寄り」に映っているはずです。元々「今度クーデターが起きたら反対行動に立ち上がる」と幹部が公言していた経緯を考えると、タクシン派はプラユット氏の指導に素直に従わず、その拠点の北部地方でデモ蜂起、そして武力衝突が起きる可能性すらあります。これは大きな不透明要素です。

一方、反タクシン派のほうは、自分たちの主張を軍がある程度掬い取ってくれそうな雰囲気から、大きな反発の様子は見せておりません。現実問題として、象徴的リーダーのアピシット氏もデモ首謀者の行動派・ステープ氏も軟禁されているようで(しかも携帯電話等を取り上げられており)、何か指示をしようにもできない状況です。反タクシン派の支援者の主力はバンコク経済界であり、商店主たちですから、むしろデモ合戦がどういう形にせよ収まってくれたことにほっとしているのが本音でしょう。

とにかくいずれの関係者も短気を起こさずに、賢く政治的妥協を図ってもらいたいものです。

タイ進出を検討していた日本企業では、当分この地への新規進出は検討アジェンダから外されるでしょう(実際のところこの動きはすでに数カ月間止まっており、弊社のビジネスにも影響がありました)。タイ経済にとっては痛手ですが、身から出たサビですから仕方ありません。

一方、すでに現地に進出している企業関係者などはずっと、この「大人げない小競り合い」の状況に少なからずいらだちを覚えておりましたが、軍によるこの急展開は全くの予想外だったはずです。東南アジアに近年構築されたサプライチェーンに、そのグローバル生産体制が相当依存している日本企業は少なくありません。また、戒厳令と夜間外出禁止令で「商売あがったり」になる店やサービス企業も少なくなく、この先どうなるのか、現地日系企業の関係者は不安にさいなまれているはずです。

現地に多くの企業が進出し、駐在員家族も多い日本はこの事態に対し、彼らの安全が第一に優先されるよう、軍主体の暫定政権に対し日本政府が要請すべきであることは当然です。しかし政治的立場に関してへたにくちばしを挟むことには慎重になるべきでしょう。米国のように、クーデターに対し単純に非難するだけでは、事態の打開に対し何の貢献にもなりません。他国のクーデターと違って権力掌握そのものを目的としない(はずの)タイ国軍からは「俺たちの苦心・苦労を分かりもしないで」との反発を生んで、コミュニケーション・チャネルを閉ざすだけに終わってしまいます。

かといって日本人に対する危害や日本企業に直接損失が発生することさえなければいいやと、この混乱する情勢に対し頬かむりするような態度では、民生移管後の付き合いにおいて信頼を深めることはできません。経済的損得だけを気にする従来の視点を超えて、タイに民主政治が復活し、分断された社会が再生するよう促すことが、同国に多大な利害と関心を有する親密な友人としての日本には求められています。いわば家族が大喧嘩して傷つけあっている近所の家に対し、最も付き合いの深い隣人として節度を保ちながらも踏み込んで、これ以上の事態の悪化を許さないために呼び掛けるべきです。

具体的には外交ルートと民間ルートの両方を通じて明確なメッセージを送るべきでしょう。特に、(1)日本は常にタイの人々の友人であってその友人たちが互いに傷つけ合わないことを心から願うこと、(2)「不測の事態」を招かないよう両派の人々および軍の自重を要請すること、の2つが大前提です。

そして(3)軍が今回果たそうとしている、国家の「緊急避難」のための役割認識に理解を示した上で、今後軍が(4)一方の政治勢力に偏らず真に公正な調整機能を果たし、(5)民生への早急な復帰を目指すことを求めること(したがってそれに沿った行動を取っているかを注意深く監視すること)、(6)そのための協力ならば日本は喜んで行うことを伝えるべきです。

一方で、シビアな認識も突き付けるべきです。つまり(7)万一懸念する「不測の事態」が発生した場合には、日本として心ならずも様々な協力停止措置を取らざるを得ないことです。それは多くの日本人と日本資本が現地から引き揚げることを意味しますが、同国がこれ以上混乱すれば否応なしに現実となる話です。そしてこれはタイ国軍もよく理解しているはずの「避けるべきシナリオ」です。

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法人税率引き下げ論議に思うこと(その2)

税制改革の視点に関しても、法人税減税が最優先されるべきものではないと思えます。松井証券の松井社長は小生の大学の先輩であり、小生が尊敬する経営者のお一人ですが、最近、あるところで「留保金課税」を提案されており、「なるほど」と思うものでした。これは法人税の課税ベースを抜本的に変えてしまおうという話です。

現行の法人税は「配当支払い前の利益」に対して課税されます。それを「配当支払い後の残余利益」に対して課税するように変えようとするものです。この意味合いは結構深いものですし、経済のダイナミズムを理解されている提案だと感じます。

従来から「配当支払い前の利益」に法人税を掛けておいて、支払われた配当を受け取った人にも課税していることから、「二重課税」であると批判されてきました。その批判を誤魔化すために、法人が受け取った配当に関しては益金不算入制度というややこしい調整便法があるのですが、これを同時に廃止することも松井社長は提言されています。税務官僚がこねくり回して思いっきり歪んでしまった増改築家屋をすっきり建て直すようなものです。

そういう筋論だけでなく、実務的なメリットも指摘されています。配当原資に課税されていた分が減れば法人実効税率が下がるため、法人は自ずから配当性向を上げようとします。つまり問題になっている過剰な内部留保が減って、株主への移転が進むということです。

それだけ株式配当の魅力が上がることで(そしてますますインフレが進むことで)、銀行に預金するよりも配当の多い株式を持つことを選択する個人が増えるでしょう。つまり「銀行預金から株式投資へ」が促進されるのです(松井社長はネット証券業者なので、この点だけを捉えて我田引水だと批判されるかも知れません)。

なぜ株式投資の促進が重要かというと、新しい分野に産業の血液である資金を循環させる必要があるからです。バブル経済以来、日本の銀行の融資機能が極端に弱ってしまったので、中小企業・ベンチャーへの資金供給ルートである株式市場を再生させないと、日本経済が薄っぺらいままで細っていくからです。

松井社長の提案を実施しますと、法人の受け取り配当についてはプラスマイナス・ゼロになりそうですが、個人に関しては配当増額のメリットをそのまま得るので、企業から個人への所得移転が進みます。これは、昨今問題視されていた「個人→企業」への所得移転が進んでいる傾向にブレーキを掛けることにつながります。つまり個人所得を増やすことで、個人消費を促進し、景気回復を継続させる効果が期待できるのです。

課題がないわけではありません。今のところ金融資産を持つのは高齢者に極端に偏っているのが日本経済の特徴で、これはこれで社会構造上由々しき問題です。つまり上記の株式保有メリットを享受するのは高齢者ばかり、ということになってしまいかねません。しかし明らかに株式配当が有利な状況になってくれば、そしてまともな経済教育をやっておけば、若い年代も株式保有度合いは着実に高まるはずです。

今のように賃金上昇というルートしかないような状況では、たまたま大企業に勤めることができた人だけしか景気回復の恩恵に浴せないことになってしまいます。それに対し株式配当というルートが確立すれば、中小企業に勤めている人でも主婦でも自営業の人でも、企業業績に応じて資産を増やせる機会が増えるのです。要は中間層が豊かになる構造が可能になるのです。これこそ日本経済がまともな方向に再生する道筋です。

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法人税率引き下げ論議に思うこと(その1)

法人税の実効税率引き下げに向けた議論が始まっています。安倍首相の法人税率引き下げ方針に対し、経済界は総論的には歓迎です。でもその財源をどこに求めるかの各論で異論が噴出しています。政策減税(研究開発や特定業界向けなど)の見直しや減価償却制度の見直し等々、活発な議論が展開されています。

規模は大手ながら赤字を“ねん出”して税逃れをしている企業も多いところから、外形標準課税の強化が最近は注目を浴びています。要は規模に応じて様々な社会サービスの恩恵を受けているのだから、多少の赤字でも税金を払いなさいよ、という話ですね(気持はよく分かります)。現実問題として、身内である役員や役員の関係会社に多額の費用を支払うことでわざと赤字にするという“節税”手口が大いに使われている話も聞きます。

もう一つ注目されているのは欠損金の繰越控除の期間短縮です。これは大手銀行や再生企業が巨額の黒字を計上していながら、過去の赤字決算による欠損金を繰越すことで税金を払わずに済んでいる、そして役員・従業員が多額の報酬・給与を得ていることへのやっかみから来ているようです(こちらも、気持はよく分かります)。

こうした「税逃れ」や「不公正」の穴をふさいで、少しでも法人税を国際水準まで引き下げることで、日本企業が海外に逃避することを防ぐ、もしくは海外企業が日本に進出することを促進する、という狙い自体はもっともであるとは小生も思います。

ただし、法人税率引き下げに過度な期待をすべきではありませんし、これが最優先政策の一つだというのは甚だ見当違いです。日本に本社や事業所を置いておくことにメリットを見出さなくなった企業が、税制次第で心変わりするかというと、そんなことはありません。

大半の企業は、どれほど顧客と密接につながることができるのか、その国の人材採用・維持の観点で有利になるのか、開発など致命的に重要な機能を持つ拠点となるのか、オペレーション・コスト的に合理的なのか、といった観点で、その国に(アジアの)本社を持つのか、重要で大規模な事業所を開設するのか、といった判断を決めます。税制はその次のレベルの判断基準です。

したがって税制をいじることのみ一生懸命になり、この国でオペレーションすることで儲かる構造にすることをなおざりにしてしまっては本末転倒です。そのためには(1)規制緩和の実現と、(2)エネルギー構造転換を思い切って進めることが、税制改革以上に大切だと思います。前者によって各領域でのビジネスチャンスが生まれ、後者によって産業全体のコスト競争力が上がって同時にやはり多くの企業にとってのビジネスチャンスが生まれます。

安倍内閣は(原子力発電に拘る点を除けば)この2点に比較的前向きに推進しようという姿勢に、今のところ見えます。法人税引き下げ論議に政権の体力を使うよりも、こうした「成長戦略」のど真ん中の改革に加速度をつけて欲しいところです。

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ダイソンが示す、ニッポン家電復活への険しい道

5月15日 放送のカンブリア宮殿は「世界を席巻!常識破りの家電メーカー・ダイソン」。創業者のジェームズ・ダイソン氏がスタジオに現れ、その不屈の開発経歴とユニークな経営哲学を語ってくれました。

番組で紹介された、家電量販店の売り場。そこを占拠するのはサイクロン式です。高価格ながら、圧倒的強さを誇るのがダイソン。「吸引力の変わらない、唯一の掃除機」サイクロン式の本家本元の強さです。

次に映されたのが、マレーシアにあるダイソンの開発拠点。中では何百台もの掃除機が動き続けており、あらゆる稼動部分にさまざまな負荷をかけ、「10年間壊れない」圧倒的な丈夫さを作り上げているのだそうです。コンクリートの床への衝撃テストは、なんと1万回。どんな床にどんなゴミが落ちると吸い込みにくくなるのかを研究している部署もありました。カーペットやら畳やら、世界じゅうの異なる床が研究対象です。

創業者であり、チーフ・エンジニア、ジェームズ・ダイソン氏は、世界的にも有名な王立美術大学でデザインを学び、その後いくつもの発明をヒットさせた生粋の技術者です。

ある日自宅で掃除をしていたダイソン氏は吸い込みの悪い掃除機にいらだち、替えの紙パックがないため途方に暮れていました。結局、ダイソン氏は、一度ゴミを吸うと目詰まりしてしまう紙パック方式の欠点を突き止め、そして倉庫の片隅でたった1人の掃除機作りが始まったのです。その日から作った試作品の数、なんと5127個(会社の壁に番号とエピソードが書いて貼ってあるのです!)。

しかし若きダイソン氏には製品を量産し売るだけの資金がありません。サイクロン技術を買ってくれるところはないか欧米を飛び回り実に20社近いメーカーに売り込みに回ったのですが、そのすべてが失敗、逆に契約をめぐって訴訟にまで巻き込まれたそうです。自分で会社をつくり、掃除機を発売したのは、最初の試作品から実に15年後だったのです。この不屈の精神には頭が下がるしかありません。

今やサイクロン方式の掃除機が市場を席巻し、「羽のない扇風機」で世の中を驚かせ、最近では強力ハンドドライヤー(エアブレード)でやはり世の中の常識を変えようとしています。

その製品の魅力は強力なパフォーマンスもさることながら、ユニークなデザインです。しかも奇抜なデザインありきではなく、ユーザーが価値を感じる機能を徹底追求した結果、常識はずれでユニーク、洗練されたデザインの商品となるのです。それが独立心のある人々を魅了するのではないかと思います。

本社では2000人のデザインエンジニアが働いています。そこで開発されたある画期的な商品が、ひと回り小さくなったのにより高速回転のデジタルモーター。ダイソンの掃除機をひと回り小さくし、エアブレードを成立させました。デザインという仕事とエンジニアリングという仕事を合致させている同社の象徴でしょう。「製品より経営を優先させることから会社はおかしくなる」というダイソン氏は、その時々の世の中を変えた製品もしくはそのミニチュアを自らの執務室のテーブルに置いて時折見ているとのことで、根っからの技術者魂の塊であると感じました。

番組の終わりのほうで面白いものが紹介されました。ロンドン科学博物館にある「生活を変えたさまざまな製品」の進化をたどるコーナーです。最後に登場するのが、ジェームズ・ダイソンが発明したピンクの掃除機、初期のサイクロン掃除機です。”made under license in Japan”とあります。エイペックス社の「Gフォース」です。これでライセンス収入が入り、ダイソン氏は大いに助かり、日本には感謝しているそうです。

現在苦戦している日本の家電メーカーに対し、ダイソン氏はこうアドバイスを送っていました。「問題はマーケティング担当者が製品にちょっとずつ改良を加えることをよしとしている点です。何かを大きく変えるのは難しいですし、勇気が要ります。莫大なお金を掛けないと新しい技術も生まれません。…ですから勇気を出して多くの資金を掛けることです」。

サラリーマン根性の技術者と経営者ばかりの日本メーカーにその勇気が生まれるのか、それが難しいところでしょうね。

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格安スマホは間もなく市場シェアを着実に獲得する

5月17日放送のWBS(TV東京系)にて格安スマホが採り上げられていました。
http://jcc.jp/news/8343071/
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/newsl/post_64587/

同番組では過去にも何度か同様のトピックが出ており、関心の高さが分かります。
http://1topi.jp/curator/numakuma/1303/29/146206
http://wbslog.seesaa.net/article/378555307.html
http://twicolle.jp/user/shinpei_tutumi/066d9c9c2d7ee1f499d6

今、なぜ格安スマホが注目されるのか。当然、スマホによる通信料金の高さ、それがもたらす携帯通信会社の業績の好調さが、ある意味、世間の反発心を生んでいるのでしょう。実際のところ、それぞれの世帯で月額2万円前後、それを日本の1/3の世帯(単身や老人などの世帯は除く)=1500万世帯で消費するとなると月に3000億円、年間4兆円強の規模の市場を大手3社で分け合ってきた構造です。美味しいとしかいいようがないですね。

その美味しい市場のおこぼれを少しでも得ようと、EMOBILEなどの独立系通信業者がいろいろやってきましたが、今一つぱっとしなかったのが実情です。それがここにきて他業種の大手企業までが参入し始め、少し変わってき始めたのが昨今の様相です。

この4月にはイオンとビックカメラが、5月にはエディオンが参入しています。なんと月額2980円とかデータ通信料だけなら月額900円とかいう値段です。これはインパクトがあります。

こうした小売の参入には重要な意味があります。格安スマホの低価格実現のカギは格安SIM。それを使うにはユーザーが自分でSIMをスマホに組み込み、面倒な設定をしなければいけません。この面倒な作業を小売店の専門員がやってくれるのであれば、申し込むユーザーは一挙に増えると考えられます。

数年経ったらこうした格安スマホもまたそれなりの存在感を持つようになっているでしょう。いや、それどころか市場の何割かのシェアを得ることもあり得ます。率直に言って、経済合理性のなせる「行く末」ではないかと感じます。それは航空業界でLCCがどんどんシェアを高めるのと同じではないでしょうか。とても興味あるシナリオです。

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日本の中小企業の技術が世界のゴミ問題を解決する

5月12日に放送されたTV東京系「未来世紀ジパング」は、「世界に貢献・日本のごみリサイクル」でした。ナビゲーターは立教大学教授の山口義行氏でした。

番組冒頭で紹介されるカナダ・ホワイトホース市には、手付かずの大自然を目的に世界中から観光客が集まってきます。しかしこの街にはゴミの埋立地があり、分別していないゴミが山積みとなっているのです(リサイクル施設は高コスト過ぎるというのです)。しかし市民の一人がネット上で日本の技術を紹介する動画を発見、ゴミをエネルギーに代える機械を知り、街へ掛け合い、助成金を獲得し、ついに市は機械を導入したのです。プラスチックを油へ代える機械です。

先の機械、作っているのは、神奈川県の従業員9人の会社・ブレストです。今、世界中から発注があるそうです。プラスチックを油に代える機械は、以前には色々な企業が作っていたのですが、日本ではプラスチック5割以上が焼却されるため(これも問題!)、大企業はこの分野から撤退していたのです。ブレストは諦めずに開発・改良を続け、動画サイトへアップすると世界から大反響があったのです。「継続は力なり」ですね。

最後の楽園・タヒチ。そこにブレストの中島清さんが呼ばれました。空港特別室でオスカー・テマル市長が待っており、タヒチのゴミ問題を解決してくれるよう依頼されたのです。タヒチにはゴミ収集システムはあるのですが、タヒチ島へ運ばれたゴミは埋立地に分別されることなく捨てられているのです。早ければ10年でいっぱいになるといいます。世界一と称される海と島に対するゴミの山。なんと凄まじいギャップでしょう(他にも北太平洋の“プラスチックのスープ”、イタリア・ナポリなどの光景が簡単に紹介されていました)。

当然、油化装置だけではゴミ問題は解決しません。ゴミの分別意識がないタヒチの人たちの意識を変えることが必須です。中島さんはまず地元の小学生達に装置のデモンストレーションを行うことから始めていました。まずは若者の意識からということかも知れません。

世界のゴミを解決するのは、日本の中小企業だといいます。1億~2億でも採算が合い、小さな町や島のニーズに対応できるからです。ブレストの油化装置は、一番売れているもので約4000万円、1日に1トン処理することができるそうです。

日本国内でもゴミから燃料をつくることが注目されつつあり、「都市油田」と呼ばれているそうです。プラスチックは再生または油化され、生ゴミや紙のゴミも再生できないものをバイオエタノールにする研究が進んでいるそうです。

次に紹介されたのはインドネシア。10年間で平均6%の経済成長とともに増えているのが、やはりゴミ。スラバヤ市にあるゴミ最終処分場には毎日1300トン以上のゴミが、やはり分別されずに投棄されています。ゴミの中からプラスチックを回収して生計を立てている人々が“ウェストピッカー”。わざわざ肉牛が連れてこられることもあるそうです。川沿いの地域では、川にせり出すように建つ家の下に日々捨てられる家庭ごみがたまり、雨が降るとゴミが川に流れ出すのです。これが東南アジア有数の都市の現実です。

そんな中でも、少しでもゴミを減らそうと日本生まれのリサイクル技術が活躍している光景を番組は報じてくれました。主婦たちからタカクラと呼ばれるバケツに生ゴミを入れ、植物の肥料に変えるというものでした。2002年に北九州市とスラバヤ市は提携し、派遣されたジェイペック若松環境研究所の高倉弘二さんが地元のバクテリアを使い開発した技術です。一軒一軒家をまわり、この技術を根付かせたということです(頭が下がります)。今やタカクラは8万軒に普及し、ゴミ排出量を約30%削減したそうです。素晴らしい。

北九州市は、公害を克服した経験を活かし、海外への環境協力を積極的に行ってきました。そして今は、国際ビジネスへの変換を図っています。その際に武器となるのが中小企業の技術です。

例として採り上げられたのが、産業廃棄物を資源にリサイクルする西原商事。スラバヤ市に進出し、新入社員・武久さんをインドネシアに派遣しました。インドネシア留学時からゴミ問題を解決したいと考えた彼女は、西原商事のインドネシア進出を知り、同社に応募したといいます。意欲が他の人とは違います。そして現地で採用した従業員は皆、元ウェストピッカーだというのがいいですね。

インドネシアでは、今やゴミに対する意識が高まり、自発的に“ゴミ銀行”というものが始まったそうです。ゴミを持っていくとお金(ポイント)が貯まるという仕組みで、実際にマラン市のゴミ銀行に行列ができる様子が紹介されました。

ゴミが今世界中で大問題になっており、他方で日本にはゴミのリサイクルに対する技術がたくさんあります。しかし技術を持っていても、なかなか世界に進出できない中小企業が多いのが現実です。そこで地方自治体が重要な役割を担うというのが番組のメッセージでした。外国の地方自治体と連携し、ゴミを減らそうという試みが幾つか行われており、北九州市以外でも成果を上げているのです。これは小生が手伝おうとしているK県でも参考にすべきですし、小生のはとこが市長をしているI市でも同様です。

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Mr. Robbotが介護現場に届ける、新発想の解決策

5月11日放送のTBS系「夢の扉+」は、マッスル株式会社(大阪市)の社長・玉井博文さんをフィーチャーした、「世界が絶賛!“頭脳を持つモーター”で未来を変える!~NASAや米大手企業も着目した日本発テクノロジー~」でした。

マッスル社は、安倍首相も視察に訪れるなど、今、国内外から注目されています。その理由は、世界屈指のロボット技術と、介護に使えるという新製品です。特に国内で注目されるようになったのは最近で、垂直に壁をよじ登るロボットを発表してからです。業界では難しいとされたその製品ができた理由はひとえに軽量化です。人型ロボットは部品や配線が多く、通常100kg前後するのに、同社のロボットは子供ほどの35kg。モーターの数をそぎ落とすことで可能になった「革命」なのです。

開発者の玉井社長は、自ら考えて動く“頭脳を持つモーター”を独自に編み出した、Mr. Robbotと呼ばれる業界の有名人。従来、多くの部品を必要とするロボットの頭脳と制御装置を、小さなモーターに集約することで、ロボットの低コスト化と軽量化を実現したのです。

技術を“足していく”のではなく、余分なものをすべてそぎ落としていく“引き算”の発想です。『夢を描き、それを達成するための努力をする。そうすれば、夢が近づいてくる』と玉井氏は語っています。

実はこの件、以前にもこのブログで簡単に紹介したことがあります。
http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-292.html

『機械のための機械ではなく、人のための機械を作りたい―』。30代後半で、産業用ロボットの会社を辞め、独立した玉井氏。“頭脳を持つモーター”の第1弾を開発し、多くの大手企業に持ち込んでみましたが、「どこの馬の骨かも分からない、実績がない会社とは取引しない」と全て門前払い。実に日本の経済界(特に大企業)のよくない側面が出ています。技術・製品・経営者を見ずに、実績や会社規模という数字しか見ないのです。そして自らの判断でリスクを取ろうとしないのです。

そこで玉井氏は、アメリカへと飛び、産業機器展に出展しました。すると、評判を聞きつけてNASAや巨大企業の責任者が集まってきて、質問攻めにしたそうです。そして引き合い、製品評価、受注ととんとん拍子で決まっていったのです。ここが米国人の偉いところです。自ら評価し、ホンモノだと判断すれば自らリスクをとって真っ先に採用する。様々な業界で散見される、世界を常にリードしてきた米国企業・組織の勝ちパターン行動です。

米国で実績を上げた玉井氏の会社はやがて日本でも受注を獲得するようになります。そして冒頭で触れた「垂直よじ登りロボット」により、その技術を満天下に示したのです。今や逆に、相談があちこちから舞い込んでいるようです。でも正直、情けないですね。日本発の技術・会社を真っ先に日本で評価できない、出遅れが目立つ保守的な日本経済の負けパターンです。

玉井社長が新たに手がけるのは、ベッド⇔車イスの移乗を手助けする介護ロボヘルパー「SASUKE」。これが今、医療・介護の現場では腰痛による離職者が後を絶たないことから、最も世の中が欲しているものの一つでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=9AeJSjlyQJo

別のアプローチで介護スーツのHALも有名ですし、他にも人型ロボットで老人・患者を持ち上げる製品はありますが、どれも構造的に無駄が多過ぎて、結果として高価過ぎます。SASUKEは新発想の製品で、大量生産(すなわちコスト削減できる!)に向いています。介助者の動作を徹底解析し、無駄をそぎ落としてできたMr. Robbotの渾身作といえます。保守的な日本社会といえど、せめて多くの現場で早く導入されることを望みます。

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物流を変える紙箱

5月8日(木)に放送されたNHKの「超絶 凄ワザ!」は「最強の紙箱を目指せ」(後編)でした。

前編では重さ1トンの荷重に耐える紙箱をめざした対決を段ボールメーカーが制しましたが、後編では箱に詰めた「ワレモノ」を守り切ることができるのかを競いました。さて、キャリア45年の紙箱職人の逆襲はなるのか?興味ある闘いでした。

「ワレモノ」は卵、ワイングラス、酢のボトル、ご飯茶わんでした。それらを詰め合わせる箱は前回と同じもので、使える紙の重さはわずか800グラムです。ワレモノを詰め合わせた箱を落下させるのですが、最初は高さ2mから始まって、最大6mから自然落下させます。下はコンクリート床で堅く、かなりの衝撃です。試しに一般的な紙箱を高さ2mから落とすと、全滅でした。

職人・宇都宮氏のではすぐに設計図を書き始めます。定規と鉛筆そしてカッターを使っての手作業で、下書きはなし。頭の中で描いた立体的な造形を瞬時に平面の展開図に落とし込むのですから、凄い職人技です。切り込みを入れた十二角形の土台で茶碗を浮かせ、衝撃を吸収する。卵は箱に入れ、V字形に傾斜させた壁に引っ掛け、宙に浮かせる事で衝撃から守る。ワイングラスと瓶も入念に包む。どれも経験が生む形状です。それでも2m落下実験では卵が1ケ割れていました。難題ということが伝わってきます。

一方、強化段ボール部隊のほうは、若手からベテランまで男女5人の設計士が各自試作に挑みます。試行錯誤しながらも改善策を話し合い、それぞれの案のよいところを取り入れる。そして綿密な設計力で実現する。こちらは組織力です。しかも「強化段ボール」という強力な武器を持ちます。

対決当日です。通常の規格ではこの程度の箱だと高さ80cmが最高だそうですが、高さ2mから始まり、どちらもクリアー。さすがです。しかしその後、高さ3m時点で職人の紙箱のほうは、瓶の重さで一部破けてしまい、瓶と茶碗がぶれてしまい、1つ卵が割れてしまいました。記録は2mでした。

しかし、強化段ボールのほうはその後も着実にクリアーを続け、5mも突破してしまいました。最後の6mでとうとう卵の白身が箱の下に垂れ下がっているのが外から見えました。落下時の衝撃に卵自身が耐えきれなかったようです。でも記録は5m。とにかく強化段ボールの凄い威力が立証された対決でした。物流革命につながると思います。

テーマ : 経営コンサルタント
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「もやしビジネス」サラダコスモの経営は立ち止まらない

5月8日放送のカンブリア宮殿は、サラダコスモ社長中田智洋(なかだ ともひろ)氏を招いて、もやし栽培に根差す驚異の経営を追ってくれました。題して「“激安野菜”もやしで驚き33年連続黒字!挑み続けた型破り経営」。

岐阜・中津川市にあるサラダコスモは、年商72億円、33年連続の黒字経営を続けている、全国有数のもやしメーカーです。今では当たり前となった「無漂白もやし」も、同社が広めたものです。もやしに情熱を注ぎ、挑み続ける中田流経営の全貌に迫る番組でした。

1袋数十円という驚きの安さで売られているもやし。これで一体どうやって利益を出しているのか?しかも一時のことでなく、長年ずっとこの値段です。いかにも不思議な野菜です。サラダコスモは、そんなもやしの大手メーカー。実は元々中田氏の家業は、ラムネ飲料の製造販売業でした。もやしは「冬の副業」として栽培していたに過ぎなかったのですが、中田氏はこのもやしに事業を集中しました。

今から40年以上前には、もやしには殺菌などのために漂白剤を使っていました。まるで今の中国と同じです。「子どもや孫が安心して食べられるもやしを作りたい」と、経営を受け継いだ中田氏は、無添加・無漂白のもやしを開発しました。でも色も悪く日持ちもしないため、全く売れない日々が続きました。そんな中で取引をしてくれたのが、生協でした。当初は業界からの反発も受けましたが、その後「安心・安全」は急速に業界に広まっていったのです。

順調に成長を続けていたサラダコスモはしかし1996年、突然の危機に見舞われました。売り上げの柱の一つとなっていたカイワレ大根が、「O-157事件」で壊滅的な風評被害を受けたのです。売れ残ったカイワレを泣きながら焼却する従業員たちを目にした中田氏は「自分の資金が底をつくまで、雇用は守る」と宣言し、経営の立て直しに奔走したのです。

まず実行したのが、一本足打法から脱し、生産する発芽野菜の品目を増やすこと。今では10品目に及びます。ヨーロッパ原産の発芽野菜「ちこり」も、その一つで、日本で初めて生産しました。地元・中津川の地域再生のために、「ちこり村」というテーマパークまで作りました。休耕地を活用してちこりの種芋を育てる一方、高齢者の雇用も生み出す仕組みです。2006年にオープンしたちこり村には、年間28万人が訪れます。

そしていま63歳の中田社長が目指すのは南米です。日本では、もやしの種は輸入に頼っているのが現状ですが、中田氏はその種を自分の手で栽培しようと乗り出したのです。種を栽培する場所は、日本からはるか遠くのパラグアイ。1000ヘクタールもの土地を借り、開墾を始めたのです。

中田社長がパラグアイを選んだ理由の一つに、日系移民の農家の存在があります。彼らの知恵と力を借りて種づくりを始めたのです。「収支のめどが立っているわけじゃない。でもこれは意義深いよ!」というのが中田社長の言葉です。型破り人生の挑戦が、再び始まったのです。

テーマ : 経営コンサルタント
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「D-NET」がネットワークする、災害時救命ヘリ

5月4日放送のTBS系「夢の扉+」は、「“空の救命ネットワーク”~数百機のヘリコプターを交通整理! 安全・効率的な災害救助で、一人でも多くの命を救う!」と題して、JAXA航空部 研究員/小林啓二さんをフィーチャーしました。

大災害時には、空からの人命救助がカギとなります。地上の交通網が断たれればなおのことです。しかしそれぞれ属する機関(消防、警察、自衛隊、病院)が異なるため、すべてのヘリの運行状況を一度に把握することすら困難で、ましてや一元的指揮系統がないので連携は現実には難しいと云います。

そんな問題を解決しようと、「空の救命ネットワーク」開発に取り組んでいるのが、JAXAの小林氏です。人工衛星を活用する小林氏のシステム「D-NET」をヘリに搭載すれば、要救助者の位置と各ヘリの位置など、上空から収集した様々な情報を、各機関の本部、そしてすべてのヘリ同士でリアルタイムに共有することが簡単にできるのです。空の救援活動の効率を飛躍的に向上させるものです。
http://www.jaxa.jp/press/2012/10/20121031_d-net_j.html

小林氏はもともと航空機メーカーでヘリの自動操縦を研究しており、災害時に役立つヘリの開発を提案しました。しかし上司は却下。会社員の立場では思うような研究ができなかったため、会社を退職。

小林氏の相談を快諾した大学で「航空と災害対応」について研究を重ねた末、小林氏は次に移ったJAXAで、関係省庁や病院に自ら足を運んで働きかけを続けました。しかし、消防、警察、自衛隊と、縦割りの指揮系統の垣根を取り払うことは、想像以上に困難を極めました。各省庁を回っては、「D-NET」の必要性を説く日々だったそうです。

その間、新潟県中越沖地震、岩手・宮城内陸地震が発生。そして3.11を迎えます―。東日本大震災の発生時には、1日300機ものヘリコプターが、被災地の空を行き交ったそうです。現場は混乱を極めたそうです。『また、間に合わなかった…』。小林氏はその悔しさを原動力に、1人でも多くの命を救おうと、「D-NET」の実用化を急ぎます。

そしてこの春、一部の救急病院で運用されているドクターヘリと、全国の消防ヘリが、初めて「D-NET」でつながるようになりました。小さな、そして大きな意義を持つ一歩です。多組織を連携させるための地道な働きかけの毎日を指して、氏は自らを「JAXAで唯一の営業マン」と呼びます。この「営業活動」が将来、何百、何千の命を救うことを目指して。この構想と意思、この技術を活かすべく、是非、協力してあげて欲しいですね。

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「日式」からはじまる日本食「世界普及への道」

5月5日の未来世紀ジパングの放送は「日本食 本物の味で世界に挑む!」。本来の日本食を世界に広めるためにどうすれば良いかを考える内容でした。

日本食はここ数年、世界でブームとなっており、海外にある日本食レストランは2010年に3万軒だったのが、2013年には5万5千軒になっています。しかしその8~9割は外国人経営で、その多くの実態は日本人から見ると「あれっ?」という「なんちゃって日本食」です。

親日家が多い台湾には「日式」といわれる料理があります。「日本食」ではなく、あくまで「日本風」の料理のこと。「台湾風日本料理」ではなく「日本風台湾料理」だ、と現地で有名な「日式」料理店の台湾人が断言していました。

たとえば台湾の「日式しゃぶしゃぶ」は、一人一鍋、少し厚い肉を“しゃぶしゃぶせず”に食べます。ほとんど台湾風寄せ鍋です。しかし台湾では絶大な人気。日本で約300店を展開する専門店「しゃぶしゃぶ温野菜」が、そんな台湾に店を出します。台北店舗のオープニングまでを密着取材してくれました。ポイントは、レシピやサービスは日本式を踏襲するが、従業員は台湾人だというところです。

海外初進出ゆえ、納入される肉が指定と違って脂が太かったり、「黄金のたれ」の味が決まらなかったり、オープン直前まで綱渡り状態だったようですが、何とかオープンしました。結果としては、その肉を日本の本物の味は台湾の人たちに大いにウケたようです。今後店舗数を増やして、本格的な日本式のしゃぶしゃぶが広まるといいですね。

一方、フィリピンの若者の間でとんかつがブームだといいます。しかし、そのほとんどは肉も薄くて衣もサクッとしない、残念な出来具合(それでも人気ですが)。そんなフィリピンのある街に、本格的なとんかつが大人気な店・NOBUがあります(見ただけで他の店とは違い美味しそうでした)。

オーナーも、料理人も全員フィリピン人ですが、日本人がその裏にいるのだというのです。日本式とんかつを教えに何度も現地に出張しているのが、日本で隠れた名店を持っている、武信の武田さん。NOBUのフィリピン人オーナーに頼まれて協力しているのです。
http://take-shin.net/
http://gkgk.info/philippines/1070/

フィリピン人オーナーは「ちゃんとしたとんかつを作るためには、日本のとんかつ職人が必要、しかしフィリピン人の料理人が育たなければ店は発展しない」と考えたのだそうです。今後はどんどん店を増やして展開するそうです。

次に番組が紹介したのは、日本の料理学校、辻調理技術研究所です。ここに日本食を学ぶ外国人が増えているのです。日本の料理学校で基本を習っても、今までは就労ビザが下りなかったので、外国人が日本料理店で働くことは現実的ではなかったのです。そこで彼らはこの学校できちんとした日本食を学んでいるのです。将来自国に帰って「日本食の店」を出すのが夢だと、外国人の学生たちは言っています。

そして日本政府も、“日本食を世界に広げるため”には、このような若者たちが大事と考え、就労ビザの要件を緩め、2年間の延長に動き始めたそうです。でも現実には、2年程度だと日本料理店では「洗い場」だけで終わってしまいますので、あまり効果はないでしょうね。日本の役所がやることはどこかちぐはぐです。それより、辻調理技術研究所のような機関を東京以外に増やし、そこに外国人研修向けの補助金を出すほうが効果的でしょう。

沸騰ナビゲータの日経レストラン編集長・戸田顕司氏は、3段階説を唱えています。Hop(「なんちゃって」でもいいから日本食に親しんでもらう)、Step(日本人と現地人が協力して本格的日本食を海外市場で展開する)、Jump(現地人が中心となって展開し、料理人・食材・器具を日本から輸入する)です。そして世界での日本食「開国」をすべきと訴えていました。

小生の知人や友人が地方の食材を日本各地やアジアに売り込もうと懸命の努力を続けています。そのためにも日本食がもっと世界で食べられるようになって欲しいと思います。

テーマ : 経営コンサルタント
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人手不足時代には人材使い捨てと単なる安売りは通用しない

最近、色々な業界で人手不足が表面化しています。デフレ時代には、若い人材を安くこき使うしか能のない企業がのさばっていましたが、これからは違います。その変化は、真っ先にアルバイト採用で始まっています。


景気低迷時期からずっと人手不足を指摘されているのが介護業界でしたが、これは資格も必要で仕事内容がきつい割に給与が低いためです。そして今でも事態は変わっていません(これは制度設計から変革する必要がありそうです)。

その後、東日本大震災後の復興事業と、復活した自民党の推す「国土強靭化」が合わせ技として効くようになったタイミングからは、建設資材の高騰と共に、左官屋や建機運転手をはじめとする建設作業者が全国で急速に不足するようになりました。この事態については当コラム記事欄で何度か指摘した通りですが、スキルや経験が必要なことが多く、元々限られた供給がボトルネックになっています(その部分への処方箋が必要ですが、これも本稿とは焦点が異なるため割愛します)。

そして近頃では外食業界でも人手不足が深刻化しており、アルバイトが集まらないため、営業時間を短くするとか店舗新設計画を断念せざるを得ない外食チェーンが続出しています。中には店舗を閉じざるを得ない事例まで現れています。元々店舗数を増やすことで成長するのが定石の業界ですから、かなり切羽詰まった事態です。
http://www.j-cast.com/2014/03/28200466.html
http://www.j-cast.com/2014/03/20199811.html

こちらは特別なスキルを要求するわけではなく、ごく普通のアルバイト人員を求めているのですが、介護業界と並ぶ労働条件の悪さのため、採用に大苦戦するようになっているのです。外食業界での人手不足には恒常的なものがあり、デフレ真っ只中の時期でも、辞めていく人を補充するために年中「アルバイト募集中」の張り紙をしているチェーン店が多かったのが実態です。景気が少しよくなって、コンビニなど他業界にアルバイト希望者が流れるようになってしまったことが背景にあります。

個々の店では不足する人手が補充されないため、残ったスタッフにさらに過重な負荷が掛るようになり、やがて彼らが体や精神を壊して脱落するという「悪循環」に陥る店が少なくなかったのです。その労働環境の苛酷さが表面化して「ブラック企業」の悪評が立ったチェーン店は(今まさに大騒ぎになっている店ですが)、当然ですが採用に苦しむ度合いが余計に強く、この悪循環もひどかった模様です。

しかしこれはごく一部の外食チェーン店に限る話でもなく、かなり多くの外食店、そして小売や物流・倉庫業など「体力勝負」の業界に共通する悩みのようです。特に低価格をウリにして伸びてきた企業ではその傾向が強いといえます。

ではどうしたらよいのか。深刻なアルバイト人員不足を解消するために世間並みもしくは世間相場以上に時給を上げるというのは当然の策としても、それには限度があります。ましてや採用広告や人材紹介に多額の費用を掛けても、本質的にはまったく意味をなさないことは自明です。

一部の外食チェーンで採っている方策は、他社・他業界でも参考になるかも知れません。外食チェーン・東京レストランツファクトリーでは実業団バスケットボールチームと劇団を所有しています。働きながらバスケを続けたい、または演劇を続けたい人材を確保することを思いついたわけです。また、居酒屋を運営するチムニー(株)では、それまで髪を染めることは厳禁でしたが、客が不快にならない程度ならOKとしたところ、一挙に2倍以上の応募があったそうです。若い方は「今のうちにおしゃれを楽しみたい」という気持ちが強いのですね。集まったアルバイトの人たちは明るく積極的な人材で、店に活気をもたらしているそうです。

もっと汎用的かつ本質的なのは、ユニクロのファーストリテイリングやうどん・そばチェーンのグルメ杵屋が採用した方策です。それはパートやアルバイト店員らを、短時間勤務・非転勤を想定した正社員とすることです。社会保障費負担を勘定に入れると確実に人件費は大幅アップしますが、安定した雇用関係によりスタッフの忠誠心、ひいてはサービス品質が目立って向上しますし、それまで空回りしていた採用に絡むコストは相当圧縮できるようになりますので、トータルで考えればお薦めです。

でもこうした手段がどうしても難しい店や業種もあるでしょう。ではどうすべきか。今後若い人材はどんどん減っていくのですから、継続可能性を考えるならば、若い人材にこだわらなければいいのです。

50~60代の中高年でもできるように作業を楽にすること。子供が学校に通うようになって少し手が空くようになった主婦でも分担できるように時間帯をより細かく分けること。接客は無理だけど他の人が嫌がる単純な仕事を黙々とこなせる自閉症の人材を、ぴったり合った業務にアサインすること。「今までこうやっていたから」といった固定観念を捨てれば、実行できることは少なくありません。働きたい人はまだまだ世の中に沢山います。

それと、忘れてならないのは、今すでに働いてくれている社員やパート・アルバイトスタッフに対する労働条件・環境の改善です。いくら採用数を増やしても既存スタッフにどんどん辞められるようでは、ザルで水をすくうようなものです。その過程で「ブラック企業」と見なされたら、先の企業例と同様、働き手から見放され、企業成長は夢のまた夢です。
http://www.insightnow.jp/article/7833

そのためには従業員に還元する付加価値を確保する必要があります。単なる低価格志向ではない製品・サービス、もしくはメニュー構成を新たに開発しなければなりません。併せて必要なのが、今の業務のやり方に潜む、客にとっての価値につながらない無駄やボトルネックを見つけ、それを解消することです。いずれも、固定観念を捨てなければ見えてこないものです。

直近では、産業界は人手不足に悲鳴を上げつつあります。しかし今、こうした人手不足が表面化したことは、日本経済・社会にとって実は朗報です。人材を使い捨てにするような企業を駆逐し、賃金を向上させてデフレを退治してくれます。

そして必要は発明の母です。苛酷な労働環境と人手不足を何とか改善しようという工夫を促し、ロボットやITなどの改善ツールの開発を促します。やがては日本に続いて人手不足時代を迎える世界各地の市場に、それらを輸出するチャンスを日本企業にもたらしてくれるでしょう。

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集客に知恵を絞るゴルフ場も現れてきた

昨日5月4日(日)の「Biz+ サンデー」(NHK)の特集の一つは、ゴルフ場のユニークな集客作戦でした。

最初は北武蔵カントリークラブ(埼玉・本庄)。初心者用のティーグラウンドを設置し、家族連れをターゲットにしています。つまりお子さんも一緒に仲良くプレーできるわけで、利用客のお父さんも家族サービスができるし、場合によっては先に来て1プレーやってから家族と一緒に回るとかもアリかも知れません。

そしてビュッフェスタイルのレストラン。食べ放題で大人1500円、子供1000円弱。プレー以外の客も利用でき、近所の家族連れも集まっていました。ここは今までもお見合い、ヨガ教室などを企画してきたゴルフ場です。地域に溶け込んで地域の住民にも利用されるようじゃないといけないという考えが定着しているのでしょう。運営会社でしょうかね、リソルゴルフマネジメント東日本の富樫孝之取締役は「地域の方に支えられるような施設になっていかなければならない」とコメントしていました。

次はKOSHIGAYA GOLF CLUB(埼玉・吉川)。若者をターゲットにリニューアルしたばかりで、間もなく営業再開のようです。内装は明るく、カジュアルさをアピールしたものです。旧来のゴルフ場の重厚さをあえて排除したとのことでした。運営会社、PGMホールディングスの神田有宏社長は「ゴルフ場なの?と思われるようなテイストにした」とコメントしていました。

コース脇の一部にはバーベキュースペースを設置予定だそうですが、そこにボールを打ち込んで事故でも起きたらどうなるのでしょう。ちょっと心配でもあります。でも色々と工夫することはいいことです。多くの経営が傾いたゴルフ場は会員権を売ることにしか関心がなく、こうした運営で儲ける、ユーザー層を拡げる、という普通の企業の経営ができなかったのです。それからすれば、ニッポンのゴルフ場にもまともな経営者が出てきたということでしょう。

この背景には、ゴルフ場利用者数が最盛期の6割ほどに落ち込んでいる現実があるようです。そういえば小生も以前はたまに呼ばれてゴルフをしましたが、今は全くしません。大して上達しなかったのと、環境破壊に加担しているような気がしたためです。保有するゴルフ会員権も売ってしまいました(大損!)。でも風を感じながら緑のコースを速足で歩くのは好きでしたね。

もう造ってしまったものは仕方ありません(寂れさせると余計に環境破壊になりかねません)ので、せめて芝生維持のための農薬使用量を減らして欲しいものです。そしてここに出てきた事例のように、地域住民にもっと気軽に使ってもらえるように努力していただきたいものです。例えば、午前中にプレー、お昼に同窓会・OB会を開催してもらうとか、如何ですか?

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危機下で間違えずに決断できる経営者に必要なもの

日経ビジネスの「賢人の警鐘」で見つけた鋭い指摘について続けます。今回は富士フィルムの古森CEOです。2月3日号で指摘されています。

「平時における民主主義や多数決を否定するつもりはないが、危機下では(周囲に意見は求めるが)リーダーが己の責任で決断し、組織を導く。経営者は優れた独裁者であるべきだ」と。そして同時に「その代わり、リーダーは自身の決断に責任を持たなければならない。リーダーの失敗で組織が壊滅する以上、『間違えました』では済まない」とも。

失敗の許されない決断の連続だった古森氏の言葉ですから、実に重いと感じます。CEO在任中の約10年間で、主力であったフィルム市場自体が20分の1に落ちたのですから、未曾有の経営危機です。並み以上の経営者でも連続大赤字は避けられないし、ちょっと失敗すれば間違いなく倒産です。それを乗り切り、しかも優良企業として再び脚光をあびるまでにした同氏の手腕は、いくら称賛しても足りないくらいでしょう。

神ならぬ身、判断を間違えないために同氏が集中したのは(情報と情勢を)「読む」(予測する)、「構想する」(優先順位を考え、実現プランを練る)、(明確なメッセージとして)「伝える」、「実行する」の4つだといいます。そして必ず実行させ成功させるためには「己の人間力を磨く以外にない、と断言しています。

大いに迷ったこともあるでしょうが、それを部下に見せずに全部自分で負ったことが窺われます。そのことに関し、3月31日号で述べておられます。

「100の決断をしたらそのすべてを間違えないという覚悟で日々の決断をしてきた。だが、決断の過程ではデッドラインぎりぎりまで考え抜いても結論が出ないこともしばしばあった。それでも、はっきりとした優位性が見えない時、リーダーはどうすればいいのだろうか。私は『いずれを選択しても正しいのかも知れない』と考えることにしている」と。

「経営者が完全な情報で判断できる機会はまずない。それを恐れて、意思決定を先送りするくらいであれば、どちらを選んでも成功の確率に大差ないと腹を決めて、いずれかの方向に足を踏み出すほうがいい。…リーダーの力量は決めた方向に社員を導き、実際に成功させること。決めたことに全身全霊を傾けていく。…『やる』と決めたら徹頭徹尾、スピーディかつダイナミックにやらなければならない」。

まさにこの覚悟こそが氏の飛び抜けて優れた資質であり、氏の言われる「マッスルインテリジェンス」の強靭さなのではないでしょうか。これこそが小生が同氏を尊敬する所以です。

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痛みを伴う決断に踏み切るための条件とは

GWの間、時間を見つけて過去の記事切り抜きを幾つか読み返しています。例えば日経ビジネスの毎号の終盤にある「異説異論」や「賢人の警鐘」など、すぐに仕事に役立つとは限らないけど「おおっ、そうだな」と思う指摘が幾つも見つかります。

特に小生が尊敬し、いつも「なるほど」と思わせられるのがコマツの坂根相談役と富士フィルムの古森CEOで、両者ともご自分が事業再編と再構築を果たされた実績があって説得力が違います。

坂根氏は今年の2月10日号で次のように指摘されています。「日本企業は『負け組』事業を何とか強くしようと考える傾向がある。長い目で見ればそれは誤りで、弱い事業は切って強い方に経営資源を回すべき。それには景気がよくなり始めた今が絶好のタイミング。弱い事業であっても買い手が見つけられるから」と。

全くその通りで、長年企業戦略構築と絡めてM&Aサポートもしてきましたが、往々にして景気が良くなり始めると、弱い事業も息を吹き返して延命策が実を結ぶ感覚になりやすいのです。でも本当は、このタイミングでこそ弱い事業を本業にしている『勝ち組』企業に事業譲渡すべきなのです。

それが結果として事業に携わる人たちを『勝ち組』の一員にさせることで幸せにし、会社全体と社会全体の資源配分を最適化し、不毛な消耗戦から抜け出させることで日本企業全体の利益率をまともな水準に挙げることにつながります。そうした先を見た経営者の決断が、結局は適正な賃金アップにつながり、経済と社会の好循環につながります。

同氏は4月7日号で次のことも指摘されています。「企業では経営者が決断すれば構造改革に踏み切れるが、常に有権者の目を意識しなければならない政治は、地方からのボトムアップの力が必要。ボトムアップを促すのに最も有効なのが『見える化』である」と。例えば膨らむ一方の社会保障費の年間総額と一般会計年間予算を各自治体に『見える化』させるべき、そのため国は必要なデータを提供すべき(なぜなら自治体だけでは社会保障費総額を把握できないから)、と説きます。

こうしたデータに基づく本質的な指摘をすれば、犠牲を伴う決断でも現場はついてくる、比較されるようになると次々と自らアイディアを出してくる、というのがコマツでの(一度きりの約束で踏み切った)「構造改革」(リストラ)経験だと述べられています。このアプローチは、まさに小生などが経営コンサルティングをさせていただくときのものと同じです。人間に犠牲を伴う決断と実行を迫るための本質的アプローチは、企業経営でも自治体経営でも同じだと思います。

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平成の大合併の後始末にみる自治体の優劣

クローズアップ現代の4月30日(水)の放送は「平成の大合併 夢はいずこへ」。地方自治体制の底の浅さを見せつけられるような話でした。

「平成の大合併」では全国の市町村が3300から1700に半減しています。そのピークから10年を迎え、合併した多くの自治体では現実を突きつけられ、過去のつけを払う段になっています。合併したら効率化できるはずだということで、元の合計よりも地方交付税が削減される規定です。でも急な減額による混乱を避けるための特例措置によって10年据え置かれてきましたが、その猶予措置が終了、今後5年かけて下げられます。

本来ならこの猶予期間に効率化を進めておかねばならなかった行政システムですが、実際には逆です。「合併特例債」の乱発でハコモノを増やすなど、体制も借金も膨らませているところが多かったのです。

「合併1号」の兵庫県篠山市では職員を3割削減し、給与もカット。公共施設の閉鎖など住民サービスも縮小や廃止を余儀なくされています。子ども向けの博物館は1年のうち3か月しかオープンできなくなるなど、予定された事業が次々と見直しを迫られる事態になっています。なぜこうなったのか。当時4つの町が共同利用していたゴミ焼却場や斎場の建て替えのための100億円をねん出するためでした。その2つは実際に建設されていますが、それに止まらず、利用できる特例債の上限230億円のうち200億円を使って市民センター、温泉施設図書館、温水プール、博物館など、合併前の自治体ごとに次々とハコモノを建設していったのです。その挙句の実質的破綻ですから、愚かとしか云いようがありません。

これは典型的な例に過ぎず、多くの自治体でも同様に、職員削減および職員給与の削減で足らずに、サービスの切り捨てや民間への丸投げが批判を呼んでいます。なりふり構わずです。しかし合併と借金を決めた幹部たちは早々と定年退職をして年金生活に入っているのですから、いい気なものです。可哀そうなのは現役の職員たちと、事態をよく分からないまま振り回されている住民たちです(監視が不十分だった責任はあります)。

ではそもそもなぜ、各自治体は合併にまい進したのでしょう。トータルすると地方交付税が削減されることが分かっていながら。当時国は、合併すれば職員の削減や公共施設の統廃合が進み、自治体の財政が強化されると謳っていました。これは地方交付税を削減したい国の視点での話で、自治体側が真に受けたとも思えません。多分、役所の幹部たちは自分たちは引退するので10年も先のことを気にしなかったというのが一つ。それまでの10年間に「合併特例債」を発行することができるので、一挙に使える財布が膨らむ感覚を持てたのが大きいようです。しかもその合併特例債で市町村が新たに借金するとき、その7割までを国が負担するという、破格に有利な借り入れ制度でした(国の金の分捕り合戦みたいな感覚だったのでしょうが、それは財務省と総務省の「撒き餌」でした)。もしかすると一部には、合併で人口が一挙に増え、さらに人口流入で政令指定都市になれば、県からの実質的独立と交付金の急増も実現できる、と完全に「獲らぬ狸の皮算用」をした自治体もあったかも知れません。これが日本の地方自治体の現実なのでしょう。

しかし、そもそも効率化を実現することが困難な現実もあります。広域自治体になってしまえば住民サービスの対象区域が格段に拡がるので、机上の計算と違って拠点を減らせないのです。番組が事例として採り上げたのが人口7万7,000人の大分県佐伯市です。9つの自治体が合併して九州で最も広い市町村になりました。役場を統廃合できず、佐伯市では8つあった役場をすべて残し、支所として使っています。全国で同様の例が多いのです。結局、効率化できるのは、首長と助役の数が減ることだけかも知れません。

さて、番組では自治体のコスト削減の真っ当な取り組みも紹介していました。例えば、7つの町が合併してできた香川県三豊市。交付税の減額を2年後に控えています。現在100億円ある交付税が最終的に60億円にまで減るため、市は行政サービスの根本的な見直しに着手しています。議論の末に選んだのは業務そのものを有償ボランティアに委ねる改革案でした。発足したのが、定年退職した地域住民などで結成された「まちづくり推進隊」です。住民が行政の業務を一部負担する、有償で(ただし年金生活の人たち中心なので格安で)請け負う、というのが先進国での行政の在り方です。できればもっとITで効率化、住民参加を促すべきで、そうした研究を自治体はすべきです。

行政サービスの重点を決めて、そこに集中しようという町も現れています。これもまともです。高齢化率が30%を超える人口6,300人、合併しない選択をした福島県矢祭町です。中、小規模の自治体に手厚く配分されていた交付税制度が見直され、町の交付税は最大で8億円も減りました。以来、職員を3割減らし、トイレ清掃も職員自らの手で行っています。7年前にオープンした「もったいない図書館」も利用者の少なかった武道館の改築です。44万冊の蔵書は全て寄付で賄っており、入り口に置かれている朝刊も役所の再利用です。行政コストを削減する一方で、重点政策には十分な予算を充てています。特に3億円近くを投じて充実させているのは、子育て支援で(第3子の誕生に祝い金100万円など)、その効果もあってか、ここ数年は出生数が下げ止まっています。ここの首長さんは素晴らしいですね。

小生も最近、ある県に勤めている友人に相談され、何か手伝うことになりそうです。こうした日本、そして世界での地方自治体の知恵を参考にしたいと考えています。

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