会社が中から腐るとき

絶好の市場環境下で赤字を続けても根本的な改革に着手しないこと、それでも経営陣が叱責されないこと。こんな緊張感のない会社経営ではまともな人材は育たず、いずれ崩壊すること必至です。


友人から意外な話を聞きました。彼は最近になって突然に会社を辞めたのですが、その勤めていた中堅のシステム開発会社が連続赤字になりそうだというのです。

この景気回復の風を帆に受けて、ほとんどのシステム開発会社が受注・売上とも急速回復の途上にあり、しかもSE不足のために、リーマンショック以来極端に落ち込んでいた単価も相当回復基調にあると聞きます。業界の悪弊である値段の叩き合いもかなり影を潜め、無茶をいう客先からの提案依頼は丁重に辞退するという話を、幾つものSI会社やITコンサルティング企業から聞いています。SEとまともなPMさえ確保できれば他にまともな仕事がいくらでも出てくるので、おかしな仕事に手を出さなくてもよいのです。言い換えれば、それほど大したことのないシステム開発会社でも仕事に困らずに済む環境です。

そんな事業環境下で連続赤字を計上しそうだというのはどうした事情か、と小生は訝しんだのです。よほど営業がトロくて受注に苦しんでいるのかというと全くそんなことはなく、受注は計画以上だと云います。では景気回復前にでも引き受けた、極端に採算性の悪い大型案件のデリバリーが最近まで残ったとかいう特殊事情でもあるのかと問うと、そんなこともないと云います。

じっくり聴いてみると、次のような事情でした。この2年ほどの間、従来ではなかなか手を出せなかった大手企業の案件が続けて、親会社経由で舞い込んでくるようになり、張り切って受注したそうです。しかしいずれの案件も、あれこれと仕様の手直しや追加開発を余儀なくされて、提案時に考えていたよりもずっとSEリソースが必要になり、期間も長引いて、大幅にコスト超過になってしまったというのです。典型的な問題プロジェクトのパターンです。多くの中小規模案件については利益を上げているのですが、数件の大型案件での赤字により、全体としても最終赤字になってしまうとのことです。

どうやらそれらの大手企業は一種の「札付き」で、他のシステム開発会社で断られ続けた揚句、流れ流れてこの会社の親会社に頼み込んだのではないかと推測されます。要は、よく事情を知らないまま新規顧客の大型案件に喜んで食らいついたら「毒饅頭」だった、というところでしょうか。提案時の検討が甘かったことは間違いなく、要件定義までの作業にも穴が幾つもあったのでしょう。そもそもこの会社の実力ではそんな大型案件は身の丈を超えていたとも云えます。

仕様変更や追加要望に関してきちんと契約で詰めもしないし、上流工程で無駄なプロセスを整理することもしない「純日本式のシステム開発」の現場では、こうした問題プロジェクトは往々にして生じるものです。ですからその事実自体には驚きはありませんでした。

小生が驚き、かつ呆れたのは、一つにはこうした問題プロジェクトをその後も繰り返しているということです。普通は最初の2~3件で大いに反省し、営業とエンジニア達の振る舞いを全く変えるよう、会社として躍起になるはずです。この会社では個々のプロジェクト採算が大赤字になることで大騒ぎにはなったそうですが、相変わらずその癖の悪い大手企業数社から受注を続け、傷口を広げているそうです。仕事の進め方も根本的に変わったわけではなく、単にPMから経営陣への報告頻度が上がっただけだそうです。

もう一つの驚きは、そうした経営状況にも拘わらず、経営陣の更迭や担当見直しはされていないとのことです。明らかに経営陣の判断ミスと対処に関する怠慢が赤字につながっているのですから、上場企業である親会社から責任を問う声が上がるのが普通だと思うのですが、少なくとも表面上は何もないそうです。

よくよく聞いてみると、この会社の経営幹部はほぼ全員、親会社トップの子飼いだそうです。親会社からは出向ではなく転籍という形で、子会社でいいポジションを与えられた模様です。そのため経営陣同士はとても仲がよく、業績を競うことも足を引っ張り合うこともないそうです。しかも業績のよい親会社からすると、この子会社の赤字はどうやら少なくとも現時点では大して問題視されていないようなのです。

何とも不思議な事態ですが、こうした緊張感のない経営を続けている限り、まともな人材が育つはずもありません。この会社が自律的に赤字を脱することは難しいでしょう。会社は既に中から腐り始めており、遠からず外目にも崩壊が見えるようになると想像できます。そうなってから親会社が立て直しをしようと思っても、まともな人材は既に逃げ出しているのではないかと、他人事ながら心配になってしまいます。
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コピーにオリジナルが負ける!? WAGYUを巡る闘い方を変えよ

7月29日放送のガイアの夜明けは「"和牛(WAGYU)"その知られざる真相」。注目している豪州産WAGYUについて詳しい情報を知りましたが、やはり割り切れない思いがします。

香港や、シンガポール、バンコクなど、急成長を続けるアジア諸国の国のレストランや市場で人気となっているのは、日本産よりも豪州産WAGYUです。中でも最高の評価を受けているのが「ブラックモア和牛」という名の和牛。販売店では「日本の和牛より高級だ」と主張しており、事実、値段は(神戸ビーフ以外の)普通の日本産和牛より高めです。

メルボルン近郊にある「ブラックモア和牛」の生産者を取材班が訪ねました。そこでは3000頭もの和牛が生産されており、遺伝学的にも、正真正銘の「和牛」なのだといいます。Mr. WAGYU、ブラックモア氏は血統証明書まで持っており、それをTVカメラに見せてくれました。ブラックモア氏をはじめとした豪州産WAGYUの生産者は、元々は日本から米国に輸出された和牛とその精液を元に生産を増やしてきました。最近は地元のアンガス牛に交配させることで、交雑種ながら肉質のよい牛が大量に作れるようにもなっています。

これまで、オーストラリアの和牛生産者として、数多くの取材を受けてきたというブラックモア氏。しかし、どこでそれを手に入れたかについては、多くを語ってきませんでした。和牛遺伝子を輸出した人物が日本国内で強く批判されていることを知っていたからです。今回、ブラックモア氏は、和牛遺伝子の入手の経緯をガイアの取材に対して初めて明かしました。その協力者は、北海道に住む武田正吾氏だといいます。

ガイア取材班は早速、北海道に飛び、その人物に会います。御年87歳の和牛生産者。白老町での酪農のパイオニアの一人だそうです。彼が飼っていた和牛とその遺伝子を輸出しようとした当時、日本の「全国和牛登録協会」が、和牛遺伝子を海外に出さないよう生産者たちに強く要請しており、武田氏のもとには同業者たちが抗議のために押し掛けたといいます。和牛遺伝子を海外に流出させた理由を、武田氏は「日本の酪農は海外品種のお陰で成り立っている。逆に日本から海外に出せるものは和牛しかない。それを出さないのは日本のエゴである。海外でなら和牛を安く生産することができ、海外の人にも美味しい和牛を安く食してもらえる」と主張します。

確かにそうなのですが、今の和牛はやはり日本の生産者達の研究と努力の賜物であり、一人の酪農家の勝手で輸出してよいものではないと思えます。確かにアジア・太平洋の多くの人々が安く和牛を食べられるようになったのはいいですが、その利益は日本の酪農家や研究家たちには全くといっていいほど返ってきていません。

加えて、縮小する国内市場への依存から逃れるべく、日本の酪農家や企業が今、和牛を輸出しようとしていますが、その眼前に割安で美味しい豪州産WAGYUが立ちはだかっているのです。いわばコピー商品にオリジナルが駆逐されてしまっている事態なのです。2重の意味で、武田氏の行為は日本の酪農家の利益を失わせることになったのです(実は武田氏以外にも和牛を輸出した企業が2社?ほどいたそうですが)。

そのコピー商品に対してライセンス料を請求することが第一の手段。それが無理なら、「和牛」およびWAGYUの名称使用を差し止めるよう日本政府(農水省)の金を使って各国で裁判を起こす方策はないのでしょうか。米国政府だったら絶対やっていると思います。

番組の後半で放送していたような日本ブランドの認知を向上させる努力は必要ですが、そもそもコピー商品たる豪州産WAGYUのほうがコストパフォーマンスでは圧倒的に上なのですから、ブランド戦略だけでは勝てません。むしろ知財戦略を中心にした上でブランド戦略を加える、といった構えでないと勝負になりません。官僚(農水省)と農民(酪農家)、あと少々の卸業者だけではそうしたグローバル市場での闘い方は思いつかないのかも知れませんが、このままでは負け戦必定と危惧されます。

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“GIVEを欠く情報交換”は不毛なやり取りと失望しかもたらさない

世の中には、相手から情報を得られるだけ得て、自分からは全く出そうとしない人種がいます。でもそうした態度からは結局、「この会社の人と話をしても無駄」と思われ、情報を得る機会自体を失ってしまいます。そうなればいくら大手企業でもビジネスチャンスに触れること自体が段々難しくなるのが現実です。


その当時、小生はあるクライアント企業の事業戦略の構築をお手伝いしていました。クライアント企業にとっての顧客業種の有力数社に課題認識をうかがおうと、クライアント企業経由でアポを取っていただきました。以下はそのうちの1社、A社との面談の際のお話です。お相手は一種のアウトソーシング事業の企画・営業責任者、B氏でした。

挨拶と世間話の際には軽口を叩いていたのに、小生がヒアリングの導入部として人手不足の状況を尋ねると、B氏は急に口が重くなり、「いや、そんなに困っている訳じゃない」と言ったかと思うと、やがて「まぁ、なかなか手配できずに苦労している」と間逆のことを口にされます。一体どれが本当なのかといぶかしく思いながら、小生は少し違った角度で具体的な質問をして話を進めます。B氏は現場では相当困っていることを推測させるいい方をした直後に、「…とも言えるし、そうでもない時もあるしね」という曖昧なコメントが続きます。そして小生がいくら突っ込んでも、決して自らは具体的な事象や定量的な表現は口にしません。

こんな調子で面談は20分あまり続き、用意していた3つほどの確認事項に対し、B氏はことごとく曖昧な言い回しに終始していました。最初は、この方が慎重過ぎる性格のために断定を避けているのかと小生も好意的に解釈していたのですが、さすがにこれは意識的に具体的な供述を避けているのだと考えざるを得ませんでした。まるで犯罪事実を示唆することをのらりくらりと避けようとする重要参考人に対し、何とか言質を取ろうとする刑事みたいな気分を味わったのですが、すぐに気を取り直しました。

業界で話題になっている、最近オープンしたばかりの競合他社の新しい施設を採り上げ、あまり一般報道で紹介されていない新機能設備を見学したときの話をすると、B氏はさすがに競合なので見学できていないらしく、途端に身を乗り出してきて興味を示しました。そこで小生が「御社ではそうした設備を検討しないのですか?」と水を向けると、B氏は途端に身を固くして「そうね、まぁ考えないでもないけどね」と再び曖昧な言い方に戻ってしまいました。

これでは時間の無駄だと悟った小生は、その後は適当にお茶を濁してそそくさと退散することにしました。当初予定していた時間の半分強で面談は終了しました。本来なら感想を尋ねてみたかった、こちらが持っている新事業モデルのアイディアをぶつけることはしませんでした。将来、A社がクライアント企業にとってのパートナーになる可能性も小さいと判断したのと、こうした態度をとる人だとアイディアだけ盗まれかねないと、こちらも警戒したからです。A社は事業の種に触れる機会を一つ潰したわけです。

面談が終わった直後に小生は、アポを取ってくれたクライアント企業の担当者の方に、なぜB氏を選んだのかを尋ねました。担当者いわく「A社は業界大手でもありますし、B氏はアポはとりやすいんですよ」。なるほどそうきましたか。

事前調査でA社の経営状況全般や、当該のアウトソーシング事業の進展具合は概ね把握できていましたし、実は経営課題も想定できていました。面談はそれを確認した上で、その取り組み具合やより具体的な課題認識を把握し、それに関するアイディア(仮説)をぶつけて反応を見ることだったのですが、その入り口で断念した格好です。残りの面談アポ先にB氏タイプの人が含まれていないことを、小生が担当者に確認したのは言うまでもありません。

B氏が個別の質問に答えたくなければ「ノーコメント」と言えば済んだ話です。そうした選択的な判断ができる自信がないのなら、そもそも面談に応じなければいいのです。面談を受けておいてほとんど情報を出そうとしないのは、互いの時間を無駄にするばかりか、その会社に対する信頼性までも失わせます。

A社のアウトソーシング事業は数年前に公表した構想時の計画とは全く違っていて、この1~2年はほとんど伸びていません。その主な原因を、アナリスト達は同社のコスト体質と地理的要因にあると捉えていますが、この面談経験を鑑みると、責任者B氏の非開放的なコミュニケーション態度も大きな要因ではないかと思わざるを得ません。

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生理用ナプキン製造機を作った男は同時に貧困社会とも闘っている

7月10日 木曜深夜に放送された「発掘アジアドキュメンタリー」は『生理用ナプキン製造機を作った男~インド~』。何度も再放送されており、それだけ評判がよかったのでしょう。とてもいい番組でした。

妻が生理用ナプキンを使っていないと知り、ショックを受け、低コストで衛生的な生理用ナプキンを作るために一念発起し、インドを生理用ナプキン使用率100%の国にすることを目標に奮闘する男の物語です。男の名はアルナシャラム・ムルガナンサム。

インドの農村部では、外国の大手メーカーが製造・販売する生理用ナプキンは高価で、庶民には手が届きません。インド全体で生理用品を使用する女性はわずか1割に過ぎず、そもそも生理用ナプキンの存在自体を知らない人が大多数だといいます。ほとんどの女性は布や新聞紙、植物や灰・砂(!)などで代用するため、衛生状態が保てず、感染症や深刻な婦人科系の病気の原因になっているといいます。

しかし、古くから女性の生理を「けがれ」と捉える風習が根強いインド社会では、生理の話をすることさえタブー。女性に協力を求め、安全で快適なナプキン開発のために試行錯誤するムルガナンサム氏は変人扱いされ、友人にも妻にも去られてしまいます(ああ何と哀れな)。

その後8年かけて独自の生理用ナプキン製造機を完成させた彼は、女性自らがナプキンの製造と販売を行うという事業を立ち上げました。しかも貧困に苦しむ女性たちに新たな雇用と収入を生み出そうと考えたのが凄いですね。

貧しい農村部の女性に購入してもらうためには、第一に製品が良くて、第二に安くなければなりません。

製品のクオリティの問題にはどう対処したか?ムルガナンサム氏が苦心したのは、ありふれた天然の安い材料を使って、高品質のものを作ること。実は生理用ナプキンには綿は使われていないそうです。大手メーカーは科学繊維のセルロースを、それに対しムルガナンサム氏は松の木から作ったセルロースを使います。天然素材だからかぶれ防止用の薬剤も必要なく、安心です。作り方にもコツがありそうです。

番組冒頭にムルガナンサム氏が来日して日本のナプキンメーカーのスタッフと面談する場面があるのですが、そこで「日本のナプキンは1個800円。女性は年間5000円使う」と、メーカーの人がさらっというのです。この金額、インドの人にとっては目を剥く値段ですが、メーカーの人は気付きません。

この製造コストの問題にはどう対処したのか?普通だったら機械化の「大量生産」という手段を採るのですが、彼はそうしませんでした。問屋制家内工業という、前近代的な製造方法を敢えて採用。わずか3工程で製品が作れる手動の機械を造ったのです。そしてこれを起業家精神に燃える女性グループに売って歩いたのです。製品ではなく、機械を売ったのです。

機械を買った女性たちが、自らナプキンの製造と販売を行う事業を立ち上げるように仕向けたのでした。それによって貧困に苦しむ人々に新たな雇用と収入を生み出そうと考えたのです。BOPの発想です。小規模の分散型事業にすることで、製造コストを下げて低価格を実現するとともに、多くの人に利益が分配される仕組みを作ったのです。先進国のメーカーにはなかなか思いつかない、素晴らしい発想です。

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農業を成長産業に変える知恵はリスクをとるところから出る

一昨日に続いて「クローズアップ現代」の話題です。7月16日(水)の放送は「再生へ待ったなし ~農業改革の行方~」。小生が注目し続けているトピックです。

農業を、どう成長産業に変えるのか。先の6月、政府は農協改革を打ち出しました。各地域の農協の創意工夫が発揮されるよう、組織の在り方に改革を求めたのです。しかし現場の農協や農家からは戸惑いの声が上がっているのも事実です。
http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-435.html

多くの農協では共同販売という、JAグループ独特の方法で販売しています。各農協が農家から作物を集め、販売を手がける上部組織に出荷します。そこで他の農協分も一括して(というか、混ぜて)出荷。共同で販売することで、農協が個別に交渉するよりも強い価格交渉力を持ち、農作物の価格を維持してきました。この方法のデメリットは、個々の地方産地のブランド化はできないということです。

一方、組織頼みの販売方法だけでは農家の所得向上につながらないと考え、独自の販路を開拓し始めた地域農協が現れています。山梨県の県北部にある梨北農協がコメを直接牛丼の吉野家に売り込もうとしている姿が紹介されていました。この梨北農協、以前から数々の改革で注目を集めてきました。その一つがコメの販売方法の見直しです。以前は多くの農協と同様に、JAグループを通じた共同販売に頼っていました。でもそれだと、梨北のコメはほかの産地のコメと混ぜられ、「山梨県産」として売られるため、梨北のコメとしての評価を価格に反映することができなかったのです。

そこで上部組織に販売を委託するのではなく、農家から買い取り、独自の価格設定で直接、卸業者などと取引を始めたのです。当然、梨北農協が大きなリスクを負います。それでもコメを高く売るために、梨北農協の堀川千秋組合長が決断したのです。「(米の)値段を決めるときは私も本当に、2晩くらい眠れませんでした」と率直に吐露されていました。

高値での買い取りが実現したとして、農家の山本さんは地元の高齢農家の水田を借り受ける面積を増やし始めました。地域では耕作放棄地の拡大に歯止めをかけることにつながるかも知れません。

堀川組合長は、地域の農業を維持するために、JAグループにこだわらない独自の改革を続けるとしています。「農家が繁栄して初めて系統組織(JAグループ)というものが成り立ちます」と。この言葉、民間のフランチャイザーの会社が言えば当たり前ですが、地域JAのトップがいわば顧客志向と言っているのですから、本当に珍しいことです。こうした勇気と常識的なビジネス感覚のあるJAが増えることが、JAと地域の農業の再生にとって不可欠です。

番組後半では、JAを通さないで農家からねぎを直接買っている、京都の九条ねぎの生産会社の話が紹介されていました。年間の出荷量は900トン。売り上げは6億6,000万円に達しています。この会社がここまで出荷量を増やせたのは、自社でねぎを栽培するだけでなく、地域の農家からも買い集めることができたからです。

なぜ農家は農協ではなく、この会社にねぎを出荷するのか。この会社と契約すると1年先の買い取り価格が提示されるからです(農協へ出荷した場合、卸売市場での競り結果次第なので、いくらで売れるか分かりません。農協はリスクを取らないからです)。この会社に出荷すれば、農家は出荷量に応じた翌年の収入の見通しが立ちます。経営が安定するとして、農家は次々とこの会社にねぎを出荷するようになったのです。

つまり、この会社が価格変動リスクをとっているのです。市場価格が低迷し安くしか売れなかった場合、会社が損失を被ることになる、そのリスクをどう回避するのか。この会社が出した答は、ねぎを安定した価格で売るための商品開発でした。3年前にねぎの加工工場を4億円かけて建設。0.1ミリ単位でねぎのカット幅を調整したり、袋詰めの量を変えたりして、取り引き先のニーズに合わせた商品開発を行っています。そうすることで市場価格に左右されず、一定の価格を維持しようとしているのです。

これこそが民間の活力であり、農業をビジネス化することで生まれる民間の知恵です。通常のJAのようなリスクを取らない組織からはなかなか出てこない「知恵出し努力」の賜物です。リスクをとる態度から知恵が生まれ、結果として利益が生まれる。そのプロセスがビジネスの発展を生むということがまさに実証されているのです。

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高齢ドライバーが巻き込む命の重さと生活権

昨日に続いて「クローズアップ現代」の話題です。7月8日(火)の放送は「運転し続けたい ~高齢ドライバー事故の対策最前線~」。何とも悩ましいイシューです。

番組冒頭にあった、6月18日に発生した、北海道旭川市で3人が死亡した交通事故。事故を起こしたのは、75歳の女性ドライバーでした。交差点で右折のタイミングを計っていた女性は、前の車が動き始めたので、そのまま続いて交差点に進入しました。スピードを上げて迫る対向車に全く気付かず、そのまま衝突したのです。歩道にいた高校生まで巻き込まれる、大惨事となりました。

実は高齢者の事故のおよそ6割が、こうした交差点で起きています。なぜ高齢者の事故は交差点に多いのか。高齢者は若者に比べて、交差点での判断により時間がかかるからです。ドライブシミュレーターを使った実験では、多くの高齢者の運転特性を調べました。対向車の切れ目を見計らって交差点を右折するケースでは、若者の平均1.9秒に対し、70代の高齢者の場合、衝突までの余裕は平均1.2秒でした。僅か0.7秒の差ですが、対向車が12メートルも近寄ってから右折していることを意味します。そりゃあ事故ります。

より複雑な状況だともっと混乱して判断が遅れることも分かっています。名城大学理工学部の中野倫明教授が「複数のものに注意をするというのが、加齢にともなって、苦手になってくる。どのタイミングで、どういうふうに行動するといいかということが、すべて遅れるわけですね。見逃したり遅れたりすると、それが事故につながっていく」とコメントしていましたが、まさにそうです。

高知工科大学地域交通医学研究室の朴啓彰客員教授によると、脳の一部の血流が悪くなって出来る、「白質病変」という異変が高齢者交通事故に密接に関係することが判明したのです。白質病変が脳の両側にある人は、ない人に比べて、事故を起こす割合が1.6倍高く、さらに交差点での事故に限るとその差は3.4倍に広がりました。

白質病変は脳の情報伝達機能を低下させ、重度になると認知症の原因になるといわれています。年齢とともに増える傾向があり、交差点での事故が高齢者に多いことと一致します。しかも高齢者になればなるほど、個人差が大きいことも事実です。

番組後半に紹介していましたが、視野が狭くなることも相当関係していると思います。運転には左右90度の範囲で物が見えることが望ましいのに、65歳を超えると左右60度ぐらいに狭まってしまう人が多いということです。これでは交差点等での見落としは避けられません。むしろ事故が起きないのは単に運がいいだけに過ぎないとも言えるでしょう。それにもし見えたとしても、反応が遅いということが大きいでしょう。単純な作業課題であればともかく、複数の作業課題を同時に扱う場合に高齢者は極端に遅くなりがちです。これは高齢者の脳の特性といってもいいでしょうね。

増える高齢ドライバーの事故を防ぐため、全国の警察では高齢者に運転免許の自主返納を呼びかけています。しかし、すぐに免許の返納を検討する高齢者は、なかなかいません。現実問題として、地方で免許がなかったら生活に困ります。返納を薦めている警察官たちだって自分が高齢になってもなかなか返納しないでしょう。

山口県警では、免許を返納した高齢者にさまざまな特典を用意しました。買い物をした荷物を無料で配送するサービス。さらにタクシーや商品の割引など、500以上のサービスを受けられるようにしたところ、免許の返納は5倍に増えたそうです。でも病院通いの場合、タクシーは無料になるのでしょうか。そうしたことを心配する人はかなりいるでしょう。

そもそも自分が高齢者でありかつ運転するには耄碌し過ぎているなんて認識している高齢者はよほど体にガタが来ているか、病気で生気がなくなっているか、元々運転に苦手意識を強く持つ人ぐらいでしょう。人間はそんなに客観的ではいられません。運転能力に関する過信のない人を探すほうが難しいものです。

しかも高齢になるとより過信が暴走し、より我儘になります。番組の最後のほうでも紹介されていましたが、事故を回避する自信があるかという年代別のアンケートデータでは60、そして70、75歳以上になると、ぐっと増えてしまいます(客観的には逆ですね)。

一時停止の場所で止まらないといった「天上天下唯我独尊」的な高齢者も増えるそうです。これは(圧倒的に爺さんに多いと思いますが)交通規則よりも自分の経験則のほうを頼りにし、しかも「自分は経験豊富だからよく知っている」という傲慢さが増すためでしょうね。ビジネス界でも老害が話題になりますが、道路交通においては他人の命を奪いかねないことです。早めに「引退」する勇気を持てる人は耄碌していないということです(逆も真なり)。

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日本の養殖業の再生にはマーケティング組織が必要

6月19日(随分遅い!)放送の「クローズアップ現代」は「養殖ビジネス 国際競争時代~日本の活路は~」。日本の養殖業がこんなに追い詰められているなんて知りませんでした。

衰退を続ける日本の漁業。そのなかで養殖漁業は、海外輸出も視野にいれた今後の成長の柱として期待を集めてきました。魚の養殖技術で世界をリードしてきた日本は、世界で初めてクロマグロの完全養殖にも成功したと報じられたのを覚えています。

しかし現実には、新たな消費者をつかめず国内生産量は減少。近年大きく生産を拡大した海外勢に国内市場すら奪われ続けているのです。今やスーパーや寿司店に並ぶ魚の多くが海外養殖モノというのが現実です。日本で1、2を争う養殖ヒラメの産地、大分県佐伯市の様子が番組で映されていました。地元の養殖業者が仲間と工夫を重ね、2年がかりでかぼすの成分を浸透させる方法を開発したのです。その結果、通常のヒラメよりも最大でキロ当たり800円余り上乗せした取引価格を実現しました。

この努力の背景はまず長期にわたる国内市場の縮小です。それに加え、海外からの安い養殖ヒラメの流入、特におよそ2割も安い韓国産が輸入された結果、国内産ヒラメの市場では値崩れが起き、生産量は97年をピークに半分以下にまで落ち込んだのです。

高い養殖技術を持ちながら生産量が伸び悩む養殖業者が今、全国各地で増えているのだそうです。養殖カンパチで日本一の生産量を誇る鹿児島県垂水市の様子が映されていました。
漁協では水揚げしたカンパチをその日のうちに出荷することで新鮮さを売りにしてきました。しかし国内需要の冷え込みによる価格低迷で、この5年間で養殖業者の3割が廃業に追い込まれています。

国は養殖業の生産管理の仕組みを3年前から導入しました。魚が供給過剰にならないよう、業者ごとに生産量の上限が割り当てられ、その範囲内で魚を育てるのです。万が一、価格が暴落しても損失は国などから補填されます。限度を超えて生産すると補填はされません。養殖生産に限度を設けるこの仕組みが始まって以来、漁協では生産量をピーク時の6割程度に抑えるようになりました。漁師を守るためとはいえ、産業としてはどんどんひ弱になっていくのは目に見えています。

一方、世界各国では養殖をビジネスと捉え、生産量を急拡大させています。その成功例とされるノルウェーの様子を番組は伝えてくれました。場所は人口3,000人の漁業の町、シャルベイ。従業員200人を抱える養殖会社。

徹底したIT化と機械化を進めており、生産加工から輸出まで1社でコントロール。獲れたサーモンを生のまま36時間以内に日本の市場へ届けます。こうして年間4,000トンを日本に輸出しています。なんとも日本の漁業に比べダイナミックです。

しかもこのサーモン、日本人の好みに合わせて養殖されています。現地での普通の養殖サーモンの色とは違う、日本向けのサーモンの色を出すため、エサの調合などによって色合いを調整しているのです。さらに日本では脂の乗った魚が好まれていることを知ると、サーモンの脂肪の量が増えるように養殖方法も変えました。

レロイ・オーロラ社のCEO曰く「わが社のサーモンは、刺身やスシで食べたときに見た目もよく、おいしく感じられるように特別な方法で育てています」と。きちんとマーケティングしていますね。その鍵になっているのが、国有会社のノルウェー水産物審議会です。マーケティングの専門家が世界各地での市場調査や広報活動を行っています。

生食サーモンの場合、最初から日本市場がターゲットだったそうです。個別の養殖業者がバラバラに行うのではなく、この国有会社がすべての業者から運営資金を集め、一括して日本市場を徹底調査し、PRまで行います。その結果はフィードバックされ、各社の商品開発に活用されます。サーモンを生で食べる文化のなかったノルウェーが、官民挙げての売り込みで日本市場を切り開くことに成功したのです。これがビジネスです。

今では日本だけでなく世界各国に駐在員を配置して情報収集力を強化しています。「日本人が認めたサーモン」として売り込みをかけた結果、今では世界90か国以上に輸出。6,000億円の市場を築き上げることに成功しています。うーん、完全に先を越されていますね。

日本の水産庁は何をしていたのでしょうか、全く。現在、水産庁が考えている生産調整においても、海外への輸出に関しては範囲外となっているそうですが、そもそもどの組織がカネを出して海外マーケティングを行うリソースを確保するのか、全く何も考えられていない模様です。さすが農水省の外庁です。知人が地元水産業の再生を賭けて頑張っていますが、本当に大変だということが想像できます。

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伝説の漫画編集者と「リアル脱出ゲーム」仕掛け人の対談にはヒントが一杯

あまり観ることのなかったEテレ「SWITCHインタビュー達人達(たち)」ですが、7月5日放送分「鳥嶋和彦×加藤隆生~ヒットを生むコツ!」は何となくタイトルに惹かれて録画してあり、随分遅れて観ました。そもそもこのお2人が誰なのかも知りませんでした。でも観終わってみると、いろんなヒントが詰まっていたので、すごく得した気分です。

鳥嶋氏は集英社の少年ジャンプ現編集長で、「ドラゴンボール」「ドラゴンクエスト」など数々の大ヒット誕生に関わった伝説の漫画編集者です。そういえばDr.スランプに登場する悪の科学者Dr.マシリトは何となく覚えていますが、この人がモデルだったのですね。

一方、加藤氏は大ブーム「リアル脱出ゲーム」の仕掛け人です。TV番組になったものは小生も観ていましたが、「リアル脱出ゲーム」はむしろ実際の会場で宝探しゲームみたいに楽しむ体験型イベントなのだそうです。なんと加藤氏は28歳までフリーターだったそうで、「何とか物語の中に入っていく方法はないだろうか」とずっと考えて育ち、フリーペーパーの企画の中で同僚の「昨夜、(PCゲームの)脱出ゲームでずっと夜中までやっていた」という言葉で「やりたかったのはこれだ」と気付いたそうです。

Dr.スランプやドラゴンボールの話、ジャンプの復活とそのための新人作家発掘の苦しみの話は一部どこかで聴いた気もするのですが、それでも楽しめました。この鳥嶋氏は厳しい編集者だったことで有名だそうですが、エピソードの語りなどを聞いて、「この人は引き出しが多い」と思いました。

社員への指導に悩む加藤氏に対し、同じくらいの編集員を率いる鳥嶋氏は「任せたら途中でチェックしちゃダメですよ」「終わってからコメントするのはいいけど」「なぜなら途中でチェックされるのが分かっていると、優秀な奴は手を抜くから」とアドバイスしました。真実ですね。自分が大手企業でコンサルタント組織を率いていたときには、まさにこうした覚悟で任せていましたので、よく分かります。でも今独立系の経営コンサルタントとしては、実行がきちんとされないことに悩むクライアント幹部に対して、これはなかなか言えないですね。

また、このリアル脱出ゲームがなぜ人気なのかという理由について加藤氏は「大人もクラブ活動をやりたいから」と分析していました。確かに30代以上の大人にとって興奮するほど夢中になれるものがなかなかありません。加藤氏が「自分も30才前後、無性に退屈していた」とつぶやいていたのが印象的でした。それに対しやはり鳥嶋氏は「ビジネスでも同じ。会社の金でゲームをすれば仕事も楽しくなる」と。そうなんですよね。ただ、このせりふは鳥嶋氏がサラリーマンであるから実感があるものであって、会社の代表である加藤氏(や小性など)はそこまで気楽な見方ができないことも事実ですね。

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混合診療を巡る“分かりにくい”議論とその背景

安倍政権の掲げる規制緩和策とそれに対する議論の中には非常に理解しにくいものがあります。それは元々の規制そのものの狙いや意義が曖昧である場合に生じがちであり、それに対する規制緩和も様々な思惑が絡んでいることで、さらに複雑怪奇な様相を呈してきます。この典型が混合診療の対象拡大に関する議論です。


まず日本の医療における“混合診療”とは何なのかを簡単に説明します。ご存じの通り、日本は「国民皆保険」の制度がある国であり、健康保険対象の治療なら自己負担は1〜3割程度です(世代によって変わります)。しかも高額療養費制度のおかげで、半年入院しても自己負担は50万円程度で済みます。

その上で、治療には公的医療保険が適用される「保険診療」と、保険が適用されない「保険外診療」の2種類があります(歯の治療で銀歯をかぶせるなら保険でやってくれますが、金歯なら保険外となる、あの違いですね)。この公的医療保険を使った診療と保険外診療を併用することを混合診療と呼びます。

現状、日本では混合診療は原則的に認められていません。もし既に保険診療を受けていても、その治療の過程で保険適用が認められていない治療や投薬を一部でも受けると、本来は保険診療で済むはずだった治療(検査~入院~手術~投薬)の費用がすべて保険の適用から外れ、全額が自己負担となるという仕組みになっています。

(実は小泉政権時代から水面下で検討が続いてきたのですが)政府は先般、混合診療の対象を拡大する法案を提出しました。法案が通過すれば、2016年から「患者申出療養(仮称)」という新たな制度がスタートします。

この法案の中身自体の問題も色々あるようですが、その前にそもそもなぜ“混合診療”が禁止されていたのか、そして今回の規制緩和に対し医師会などが反対していたのでしょうか。報道では「混合診療を認めてしまうと金持ちしか良い医療が受けられなくなる」「国民皆保険制度が崩壊してしまう」「健康保険の質が下がるのではないか」といった懸念が典型的に挙げられていましたが、その理屈をきちんと理解できていた方はどれほどいたのでしょうか。幾つかの新聞記事や雑誌記事、ウェブサイトにおける識者のコメント・解説を読んでもなかなか理解できないという声が少なくないのです。

“混合診療”反対派の人たちのほうがプロパガンダに熱心で、色々と記事コメントやブログが書かれているのですが、その大半が結論ありきで、論理破たんしているか、あるいは(うっかりなのか、わざとなのかは分かりませんが)論理の飛躍があるからです。

例えば、日本医師会のホームページ(HP)には次のように記されています。
<<一見、便利にみえますが、混合診療には、いくつかの重大な問題が隠されています。例えば、次のようなことです。
(1)政府は、財政難を理由に、保険の給付範囲を見直そうとしています。混合診療を認めることによって、現在健康保険でみている療養までも、「保険外」とする可能性があります。
(2)混合診療が導入された場合、保険外の診療の費用は患者さんの負担となり、お金のある人とない人の間で、不公平が生じます。
(3)医療は、患者さんの健康や命という、もっとも大切な財産を扱うものです。お金の有無で区別すべきものではありません。「保険外」としてとり扱われる診療の内容によっては、お金のあるなしで必要な医療が受けられなくなることになりかねません。>>

さて、ここに記された3段論法は納得できるものでしょうか。(1)については、そもそも安倍政権がこの問題を提起している意図が財政的理由であることを示唆しており、その上で「財政難に苦しんで保険の給付範囲を見直したい政府は、今は保険適用になっている療養までも保険外とするかも知れない」と懸念を煽っているわけです。その結論に同意できるかどうかは別にして、この部分は論理がシンプルで理解できますよね。

問題は(2)です。「混合診療が導入された場合、…」と言っているわけですから、それ以下の部分については、混合診療が導入されていない現在は逆の状況のはずです。しかし混合診療が導入されていない現在も、「保険外の診療の費用は患者さんの負担」であって、「お金のある人とない人の間で、不公平が生じ」ているのは全然変わりません。

むしろ現在の制度下で混合診療が禁止されている状態のほうが本来保険適用になる診療まで保険外になるため、多くの人が最先端の高度治療をあきらめざるを得ないというのが実態ではないでしょうか。でもお金持ちの人はそんなことを気にせずに最先端の治療を受けているはずです。つまり、今もお金のある人とない人の間で不公平が生じており、それは混合診療が導入されることで新たに生じる弊害ではありません。(2)の部分は全く論理が破たんしていると言わざるを得ません。

すると3段論法の最後、(3)もまた論理が怪しくなります。「医療は、…。お金の有無で区別すべきものではありません」という一文自体は「そうだ、そうだ」と言いたくなる、もっともらしい言い回しですが、そもそも「混合診療が導入されると、お金のある人とない人の間で不公平が生じる」という(2)のロジックが間違っている限り、それを前提にした(3)の理屈にも誤魔化しがあるかもと警戒したほうがよさそうです。

さて(3)の最後では、「『保険外』としてとり扱われる診療の内容によっては、お金のあるなしで必要な医療が受けられなくなることになりかねません」と結論づけています。ここで(1)と(2)がドッキングするわけです。この一文は実は非常に重要で、深い示唆を持っています。(1)でいう「政府は、今は保険適用になっている必要な療養までも保険外とするかも知れない」という懸念がもし現実化すれば「お金がないと必要な療養でさえ受けられなくなる」という事態が生じるぞ、と脅しているわけです。

そう解釈すれば、(3)自体は正しい理屈といって差し支えありません。むしろ(1)からすぐに(3)に来たほうがロジックはすっきりしています。でもそれだと単に「政府は財政が厳しいから必要な療養でさえ保険外としたがっている。するとそのうちに金持ち以外は必要な療養を受けられなくなるぞ」という将来への懸念の表明にしか過ぎず、混合診療への反対につながりにくいと医師会は考えたのでしょうね。

何としても混合診療には反対したい、しかしその背景である医療費高騰の一端は自分たちにある、自分たちには非難の矛先が向かないように庶民の味方だと見せたい、といった心理が働いていたのかも知れません。多少強引であっても「混合診療導入=金持ち優遇」というロジックを入れたかったようです。

ではなぜ医師会はそれほどに混合診療に反対したいのでしょうか。これを説明してくれないので、医師会の主張には胡散臭いものを感じる人が多いのではないでしょうか(小生もその一人でした)。

周知のことかも知れませんが、日本医師会は主に開業医の意見を代表しがちです。つまり開業医としては今の制度がベストなのに、混合診療の導入によって不都合な事態が生じると感じているようです。それは具体的にはどういうことでしょうか。個人のジャーナリストや医師の方々がご自分のブログで解説されているのが参考になります。

それらによると、混合診療で高度医療が認められると今よりずっと多くの患者が保険外の高度医療を求め、総合病院ではそれにチャレンジするところが出てくる、すると最先端の高度医療に取り組む気のない年取った開業医は患者を奪われる、ということを懸念しているのだと段々分かってきます。つまり「競争原理を導入されてはかなわん」という素朴な反発です。但し、保険適用でも保険外でも高度医療が必要な事態になれば、しょせんは大半の開業医の手には負えないので、これは杞憂と云えます。でも実際に多くの開業医が懸念しているのはこちらの理由のようです。

もうひとつはもっと深読みしたものです。混合診療を全面解禁すれば、将来的には保険診療の範囲が縮小されると予測しているのです。その前提として、混合診療で高度医療を認めるようになれば、民間保険で自由診療分をカバーするように人々は動くだろうという想定がされています。事実、保険会社はその準備を始めています(だからこそ混合診療賛成派のサポート役には保険会社の人たちが陣取っているのです)。彼らにとっては大きなビジネスチャンスなのです。

そして実際に混合診療が解禁されたらどうなるでしょうか。まず直近では、今まで公的健康保険適用となる診療だけで我慢していた人たちの何割かは、民間保険を使って混合診療を受けるようになるでしょう。たとえば検査は公的保険を適用し、その後の診療は民間保険でカバーされる高度医療を受ける、という具合です。すると公的健康保険適用部分は相当程度減ることになりますね。

これが健康保険組合と政府にとって、混合診療を導入したい最も強力な理由です。混合診療解禁派の人たちも、「混合診療を解禁すれば、保険診療を縮小できて、公的保険財政が健全化する」と明言しています。でもそれは、公的健康保険に依存し高度医療と関係のない開業医からすると、自分たちの取り分が減ることにつながるわけですね。だから医師会は混合診療の解禁に反対しているのです。どうですか、腹落ちしましたか。

こう考えると、先ほどの日本医師会のHPに記載されていた(2)は次のように書き換えたほうがロジックはずっと分かり易くなります。すなわち「(2)混合医療が導入された場合、多くの患者さんが民間保険を活用して(健康保険外で)高度な診療を受けるようになり、健康保険適用の診療の割合が縮小することは明白です。それでは開業医としては困りますし、民間保険に加入する余裕のない人と余裕のある人との間に不公平が生じます」と。

ではさらに混合診療が浸透すると、どういう事態が想定されるでしょう(ここからは仮説のシナリオです)。人々が少しずつ「基本的な医療は公的な健康保険で、高度な医療は民間保険で」という感覚に慣れていくかも知れません。すると今まで「国民皆保険こそがニッポンの誇るべき制度だ」と主張していた政治家や厚生官僚も、「じゃあ財政的に無理して何でもかんでも保険適用をしなくてもいいよね」と緊張感を無くしていくかも知れません。国内や海外で開発された新しい治療法が、混合診療の浸透によって、承認はされるが健康保険適用はされないままというケースが増えるかも知れません。

これがまさに、先の(1)の延長上に起きる可能性が十分あることであり、(医師会や一部開業医の思惑とは別に)良心的な医師たちが危惧していることなのです。つまり、新しい高度治療法と薬が公的保険対象にならないままというケースが増えることは、民間保険に入れる世帯と入る余裕のない世帯との間で医療格差がさらに広がることです。決して他人事ではありません。ここに対する歯止め(つまり新しい高度治療法と薬でも必要なものは速やかに公的保険適用対象とする努力を続けること)こそが、混合診療導入の是非に際して議論すべき論点のはずです。

こうした「こうなると、次にこうなるよね」といった推測を交えた影響の議論は確かに難しいものですが、ビジネスの世界ではごく普通の議論です。その際のロジックをすっ飛ばして自分の言いたい結論だけいう人は(絶対権力者でない限り)、噛み砕いての説明を改めて求められます。国民の医療保険制度という重要な議論なのですから、論点と論理を明確にして、丁寧な議論をしていただきたいものです。

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AsMama -"子育てママ"を助ける仕組み-

7月15日に放送された「ガイアの夜明け」はシリーズ「働き方が変わる」第8弾「"働くママ"新時代 ~仕事と子育て どう両立させるか?~」でした。

労働人口が年々減少していく人手不足時代において、注目されているのが子供ができると女性たちが仕事を辞めてしまう実態です。彼女たちは様々な事情で働きたくても働けない環境にあります。子育てと仕事を両立させたい女性の要望をすくいあげて、働きやすい環境づくりを進める、様々な取り組みに焦点を当てたのが今回の番組。そこで素晴らしい仕組みを知りました。AsMama(アズママ)です。

子育て中の女性がいざ仕事につくと、急な会議や残業にどう対応するのか、保育園への送り迎えや家事、育児はどうするのか。悩みは多いですね。そうした時、ワンポイント・リリーフで安心して気軽に子どもを任せることができたら…。そんな女性の要望に応えるのがAsMama(本社:横浜)です。http://asmama.jp/

これ、面白い仕組みです。AsMamaのウェブサイトで個人情報を登録(無料)すると、近くに住むママたちの情報が一斉に検索可能となります。その中から我が子の世話をしてくれる人を募り、1時間500円~(一般会員は500円、有資格者の一般会員かママサポーターは600円、有資格のママサポーターは700円)でお願いすることができるのです。行政が補いきれない、働くママの悩みを解決する相互扶助の画期的なシステムとして、いま注目を集めているそうです。

AsMamaでは、我が子を預ける女性と預かる側が信頼関係を築き、安心を生み出す仕組みがあります。何といっても「どこの誰とも分からない人に預ける」のは不安 ですよね。AsMamaではまず地域でママたちが集まるイベントが何度か開かれ、そこに集う人たちが互いに顔見知りになるよう促しています。世話役の現役ママさんたちもいます。知り合いになるとやはり安心ですね。

それに預けられる側の不安は、「子供だから急病になることも怪我することもある。もし何かあった時に責任を問われるのは嫌だな」ということでしょう。報酬は1時間500円が基本ですから、いわば「実質ボランティア、でも0円では真剣味が疑われる」という微妙な値頃感です。もちろん「お互い様」という気持ちで誠実によその子の面倒をみるのですが、その500円のために損害賠償を背負いたくないですよね。AsMamaではちゃんと保険に入っており、子供を預かったママたちには何の負担もありません。

うちの娘の子育ての時期にこんな仕組みがあったらカミさんもきっと使っていたろうと思える、とてもいい仕組みですが、社員全員ボランティアではないでしょうから、一体どうやってビジネスとして成立しているのでしょう。

実は、AsMamaは地域交流の場創りや子育てシェアを、既存コミュニティを有する企業や女性の就労支援を行う企業とタイアップすることで、活動資金を得ているそうです。従業員も活動対価を得ながら活躍しており、家計のやりくりにも頑張る子育て世帯からはお金を取らない ビジネスモデルで運用しています、とのことです。なるほど、よく考えられていますね。

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反中=親日の動きが表面化するベトナム

TV東京系「未来世紀ジパング」の14日の放送は「反中渦巻くベトナムで沸騰!日本の"信頼食"」でした。

南シナ海の領有権を巡り、中国との衝突が続くベトナムでは反中国への感情が高まっており、反中デモは沈静化したものの、中国製品の不買運動「チャイナパッシング」に発展しています。一方で、同じベトナムで日本の「安心・安全」に熱い視線が注がれています。明らかに信頼のおけない中国への反感が強まると、「安心できる日本はやっぱりいいね」という関係になっているのです。

ベトナムでは小型バイクの波が切れることがありませんが、交通事故の死亡率は、日本の3倍以上と深刻な問題となっています。バイク運転手に流行っていた「おしゃれヘルメット」。人気キャラクターなどが描かれたコピー商品で、値段は200円程度。強度は全く基準を満たしていない粗悪品で、多くが中国製です。

ベトナム政府は7月1日から、着用するヘルメットの基準を厳格化しました。日本の警察で研修を受けたメンバーを中核に、「おしゃれヘルメット」撲滅へ向けた警察の取り締まりが全国で展開されています。

全く別の話ですが、ベトナム料理に欠かせないのがレタスなど大量の生野菜です。ベトナムでは残留農薬や化学肥料の問題から、野菜専用の洗剤で洗わなければ(!)食べられないといいます。実はこれは野菜洗浄機がバカ売れしている中国・上海などの都市の状況とよく似ています。なぜならそれらの野菜の多くが中国で栽培された野菜で、最近も基準値を超えた農薬の残留値が発覚し、大問題になったのです(中国内でも問題になりましたが、その後も平気でベトナムに売っていたということです)。

そんなベトナムで、あるレタスが現地メディアで「奇跡の野菜」と呼ばれ、「朝霧」の名前で人気を呼んでいます。値段は日本円で160円(ほぼ朝食1食分です)と、通常のレタスの2倍を超えるのですがスーパーでも大好評。生産しているのは、安心・安全を武器に昨年進出した長野県川上村の農業法人。日本では「天空のレタス」の名前と低農薬栽培で知られています。

生産地は長野県にうり二つのベトナム南部の山深い農村。そこで一人の日本人(花岡氏)が安心安全なレタス作りを一から教えているのです。ニッポンの野菜づくりがベトナムでも広がることを祈ります。できれば庶民もずっと(中国産の代わりに)食べられるよう、もう少しコストダウンして安くなるといいですね。

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部分自動運転技術の導入が進むといずれどうなるのか?

メルセデス・ベンツが11日、国内向けに発表した新型Cクラス。安全運転支援システムとなる「インテリジェントドライブ」が搭載されました。昨年発表した新型Sクラスに導入している、運転者の疲労をやわらげ安全性を高める最新鋭の技術の多くがこのCクラスにも採用されているといいます。

http://www.mb-honki.jp/

 「インテリジェントドライブ」の根幹は、車両の周囲360度をカバーするカメラやセンサー、レーダー。これらから得られたデータを安全運転支援システムに活かすのです。先行車両、横切る車両、後方車両、対向車、歩行者などを検出して、その位置を特定し、状況を判断して、アクセル・ブレーキ・ステアリングを自動でアシストすることで「部分自動運転」を可能としたのです。

代表的な機能「ディストロニック・プラス(ステアリングアシスト付)」は、先行車を認識して、速度に応じた車間距離を維持しつつ、車線のカーブと先行車両との距離に合わせてステアリング操作をアシストするものです。
「BAS プラス(飛び出し検知機能付ブレーキアシスト・プラス)」は、前方を横切る車両や合流してくる車両、さらには道路に飛び出した歩行者などとの衝突の危険性を検知した場合、ドライバーにディスプレイ表示と音で警告するものです。急ブレーキを促し、ドライバーのブレーキが弱い場合にはブレーキ圧を増幅することで急ブレーキの効果を高めるのです。報道陣に公開された映像では、「そう簡単に事故は起こせませんよ」と言わんばかりでした。
これらは東京六本木にあるメルセデス・ベンツ・コネクションに展示されているドライビングシミュレーターにて体験できるとのことです。
http://mb-live.jp/academy/driving_simulator/

 ほかにも、「PRE-SAFEブレーキ(歩行者検知機能付)」や「リアCPA(被害軽減ブレーキ付後方衝突警告システム)」、「アクティブレーンキーピングアシスト」、「アダプティブハイビームアシスト・プラス」などの新しい自動機能が搭載されているそうです。

自動運転技術は着実に進歩し、実用化も進んでいることが分かります。ポイントは、最高級のSクラスに搭載されていた最新の自動運転技術が普及クラスのCクラスにも採用されていることであり、標準で付いていない車種にも19万円で追加できるということなのです。この金額であれば、大半のメルセデス・ユーザーは搭載するのではないでしょうか。それは殆どのスバル・ユーザー(軽自動車除く)がアイサイトを搭載するのと同じです。

これはメルセデスの購買動機に「金持ちと見られたい」に加え、「安全を買いたい」という強力な要素が加わることを意味します。きっと新しいメルセデス・ユーザー層が広がることでしょう。ボルボなどから流れる購買層も出てくるかも知れません。

さらにこの機能は車の高度知能化を意味しますので、そのデータを蓄積、通信することでGPSデータとセットした形でビッグ・データ化される可能性も高いと思われます。つまりどんなところでどんなときに急ブレーキが踏まれたか、急ハンドルを切る必要が生じたか、こうしたデータが急速に集まることになるでしょう。それは道路の問題を浮かび上がらせることや車の事故状況のエビデンスなどにも使われるかも知れません。

そしてこれらはいずれ統合され、車は「走るロボット」となり、本当の自動運転技術の完成に近づくのだと思います。

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太古の素材、ガラスを進化させ続けるガリバー企業

7月10日に放送された「カンブリア宮殿」は旭硝子の石村和彦社長を招いての「ガラスの王者!“難きに挑む”巨大企業の知られざる実力」。知られざる最先端素材、ガラスの世界を知りました。

古代からある素材ながら今でも進化を続けている素材、ガラス。窓ガラスや自動車ガラス、スマートフォンのカバーガラスなど、様々な分野で使われています。カンブリア宮殿では、そんなガラス業界で圧倒的な強さを誇る旭硝子を取り上げました。透明な板に様々な機能を持たせ、今や年商1兆3千億円を稼ぎ出すガリバー企企業、AGC=旭硝子の知られざる技術力と強さの秘密に迫ってくれました。

旭硝子は、板ガラスで世界シェア首位争いを繰り広げ、液晶ガラスは世界2位、自動車ガラスは3台に1台が旭硝子製という圧倒的な強さを誇っているそうです。その秘密は、液体に近い分子構造を持つ(結晶構造を持たない)ガラスという素材の特性と、それに様々な機能を持たせる同社の高い技術力にあります。

暑さや寒さを室内に伝えない断熱ガラス。反射や映り込みがほとんどない反射レスガラス。フロート法で世界初の0.05ミリという極薄ガラス。透明なガラスとは思えない特徴を持たせることが出来るのですね。そして住宅で爆発的なヒットを飛ばしているのが「Low-Eガラス」という、西日の暑さをカットしてくれる、夏でも快適に過ごせる機能を持ったガラス。金槌で叩いてもヒビ一つつかない、スマートフォンに採用されるガラス「ドラゴントレイルX」。業界初の、紫外線を99%カットする自動車用ガラス「UVベール プレミアム」。

カメラは旭硝子の日本最大級の工場を映してくれました。創業時から磨き抜かれた「フロート法」という工法で大量生産が行われています。次々に作られるガラスを、とんでもなく巨大な装置で特殊な機能をもったガラスに生まれ変わらせていく工程。とても面白い光景でした。

旭硝子の圧倒的な技術力を支えるのは5000人(連結従業員が51,448人もいます)のガラスのスペシャリストたちと、技術者たちの技能を簡単に探し出せる「スキルマップ」という人材DBシステムだそうです(こうした人材DBシステムはグローバル企業ならPeopleSoftなどで必ず持っていますが、AGCではわざわざ手造りしたのですね)。

AGC技術者のマインドを形作ってきたのは、旭硝子創業者の「易きになじまず難きにつく」という言葉だそうです。それを象徴するように、液晶画面用のガラスはコーニング社が先行して特許を押さえていたのを回避するため、「フロート法+研磨法」に拘って技術開発を進めたそうです。でも1年たっても成果が出ず、その責任者だった石村社長は非常に辛かったようです。でも結局、工場の技術者たちの協力と頑張りで新工法を完成したので、新工場への投資が失敗に終わらずに済んだそうです。

こうした高い技術に挑み続けた技術者の歴史こそが、王者の強さを支えてきたといえるでしょう。

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〝街の電気屋さん〟を味方につける量販店の戦略

7月8日に放送された「ガイアの夜明け」は「〝逆転の発想〟で客を呼ぶ!」。生き残りを賭けて常識とは逆の発想で客を掴むための挑戦、実に意外な家電ビジネスモデルを知りました。

いわゆる〝街の電気屋さん〟は全国で減少しています。家電量販店に客を奪われ、後継者も見つかりにくいという廃れゆく業態として認知されています。しかし今、売り上げ回復を果たしている店が増えているといいます。ご存じでしたか?

そうした街の電気屋さんが組んでいるチェーンが、名古屋市に本拠を持つ、「コスモス・ベリーズ」。その加盟店の特徴は、商品在庫を敢えて極力持たないことです。

地域の人たちに来店してもらい(例えばパソコン教室や無料のコーヒーの提供など)、そのついでに家電の要望を聞きます。店には消耗品は在庫していますが、完成品の商品在庫はほとんどありません。客にはカタログを見せて相談を受けています。気に入った商品があればその場で注文してもらいます。

客はなぜ全国組織のコスモス・ベリーズの加盟店とはいえ〝街の電気屋さん〟で買うのか。値段がヤマダ電機で買うのとほとんど同じだからです(確かにそれならアフターサービスのいい近所の電気屋さんで買いますね)。その値段がなぜ可能なのか不思議だと思ったのですが、まず驚くのは注文を受けた電気屋さんの行動です。隣町にあるヤマダ電機の量販店に買いに行くのです。!? !? !?

確かにヤマダ電機での店頭価格は安いでしょうが、そこで買ってお客さんに売るのでは店の利益はありません(電気屋さんで売る価格≒ヤマダ電機での店頭価格)。というか、時には赤字になるはずですし、人件費を考えたら絶対ペイしませんよね。

ここがコスモス・ベリーズの仕組みのポイントなのです。電気屋さんは客の欲しい商品を、本来はライバルである家電量販店から仕入れ、販売する仕組みなのです。つまり電気屋さんはヤマダ電機の店頭で買いながら、ヤマダ電機の仕入れ価格に少し(ヤマダ電機の最低利益分)だけ上乗せされた非常に安い特別値で仕入れることになっているのです。それをお客さんに売ることで店の利益は確保できます。もちろん、ヤマダ電機自身も少しだけ利益・売上が伸びます。

実はコスモス・ベリーズはヤマダ電機の100%子会社。いわば、ヤマダ電機の売り上げをあと少し伸ばすための、別チャネル開拓のための戦略子会社なのですね。こうした〝街の電気屋さん〟チャネルでの売上分だけ仕入れが増えるので、さらにヤマダ電機のバイイングパワーが高まるという構造にもなっているわけです。この面白い仕組みを考えた人、いい発想力ですね。

今では家電とは関係ない異業種(ガス販売店、美容店など)にも加盟店の開拓先を広げており、その数全国で8000を超えて増え続けているそうです。競合も赤の他人も仲間に組み入れる、さすがアグレッシブなヤマダ電機。そのパワーの一端を観たような気になりました。

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日本の医療"2025年問題"を解決するのは患者の意識改革

5月31日(土)に放送されたNHKスペシャル「シリーズ日本新生 日本の医療は守れるか?~"2025年問題"の衝撃~」を録画で観ましたが、かなり深刻な内容を含んでいました。

誰もが、いつどんな時でも自由に病院を利用できる日本の医療が今、深刻な危機に直面しています。原因は、団塊の世代が75歳に達する“2025年問題”です。患者が増え、医療費が急増すると予測されているのです。

今、「病院から在宅への転換」など、これまでの日本の医療を見直す、様々な改革が議論されようとしています。一方、財政面の視点ばかりに重きが置かれ、患者や家族が置き去りにされるのではないかと不安視する声があがっています。医療費の伸びを抑えながら、安心できる医療をどう築いていけばよいのか?2025年まで、あと10年余り。10年後に来る問題を解決するにあたり当面何をしなければいけないか。市民のみなさんの不安の声や、住民ぐるみでわが町の医療を守ろうと立ち上がった地域、世界の取り組みなどの例をあげながらこの番組は進みました。

最初に現状の報告として、医療の現場では既に深刻な事態が広がっている様子です。東京・大田区にある大森赤十字病院。救急患者の命を救い、がんや脳の疾患など高度な医療を行うのが役割です。ところがここ数年症状の軽い高齢の患者が増え、外来の窓口には1日800人以上が押し寄せます。診察室を増設し医師を2倍近くに増やしましたが、追いつきません。入院病棟もほぼ満杯。ベッドの9割以上が常に埋まっている状態です。入院した高齢の患者が長く留まるケースが増えているからです。いずれ本来の役割である重症の患者の受け入れも難しくなると危惧されています。

また、現状の解説もされました。例えばお金の問題。後期高齢者の医療費は年間89万円(若い世代の8倍!)。2025年の日本の医療費は54兆円に膨れ上がる、介護と合わせると年金を上回る規模になると予想されているそうです。病院を作るのにもお金が要るけど、国の財政も厳しい。それに少子化の問題で、お医者さんや看護師を増やそうと思っても働く若い世代が減っていく病院を作るのはなかなか難しいのよ、と。

討論会ではイシューの一つとして、皆が軽い病気なのにいきなり大病院に押しかけないようにするため、家庭医を持って欲しいという考えが提起されます。普段接している患者が重い病気に罹った可能性があるとき最初に診断し、どの専門医で診る事がいいのかを決定するのが家庭医です。今の開業医はその役目を担っているはずですが、必ずしも患者側が開業医を信頼できないのが現実です。

団塊の方が真っ先に手を挙げ、心房細動にワーファリンでもと適当にされて心不全を起こし、結果的に大病院で手術してもらった経験から、町医者は信用できないという意見を開帳していました。この人、大企業の商社に勤めていたご自分を誇りに思っているのでしょう。街の医院はあてにならない、大病院でしか病気は治せないと言わんばかりでした。でも町医者の治療は間違っていなかったが、仕事を含めた環境の影響で病気がコントロールできなかっただけの可能性もあります。こうした「俺が正しい」と思い込む団塊世代が大病院に集中するから2025年問題が生じるんだということ、全く認識がないようです。

それに実際には、開業医が総合診断を行うという役割分担がうまく行っていないようです。日本の開業医は、専門以外はとても弱い、中途半端な知識しかもっていないというのが実情のようです。つまり開業医になるとゴルフや医者仲間での付き合いに忙しく、総合診断医として機能するほど勉強していないということですね。小生が好きな番組に出てくる「ドクターG」は稀にしかいないようです。

家庭医のレベルを医師会が担保し、納得できる情報開示をせよ、という当然の要求も上がっていました(医師会長が責められていました)が、本当に5年毎の更新制度が、グータラな医師がし切っている医師会で実施できるのか、現実は厳しそうですね。

病院に来る患者さんを制限すべきだという動きも出ているんですね。先の東京大森赤十字病院では、地域の医師とネットワークを結び、病状が安定した患者に自宅近くの医師を紹介。そこに通ってもらう事で病院に来る患者を減らそうとしています。米国のように「すぐ自宅療養」にするよりはずっとマシだと思いますが、これでも「さっさと病院から出て行けって事?」と反発する声があるようです。

でも患者が変わらないと、この問題は自分たちの首を絞めることになるのは確実です。

住民が自らの力で医療の無駄を減らそうと取り組んでいる町の例が紹介されていました。7年前、地元の病院から小児科が無くなるかもしれないという危機に直面しました。「いつでも診てもらえて当たり前」という意識から真夜中でも病院に押しかけるコンビニ受診が横行。小児科の医師は連日ほとんど徹夜で次の日の診察に臨むという状況に追い込まれました。そしてついに「もう辞めたい」と訴えたのです。医師がいなくなるかもしれない。

母親たちは自分たちが意識を変えない限り問題は解決しない事に気付きます。医師の負担を減らすべく、母親たちはコンビニ受診を減らすためのパンフレットを作成。子どもの具合が悪くなった時、すぐに受診する必要があるかどうか自分で判断できるようにしたのです。現在このパンフレットは、市の保健師が、子どもが生まれた全ての家庭に配っています。

どなたかが、「結局医療っていうのは最初から限られた資源しかないんですよ。どういう形でシェアするかっていう議論にならないと、最初からみんなが思いどおりの医療を受けられる事はどこでも絶対無理なんですよね」と仰っていましたが、その通りだと思います。

山本雄士医師が、「みんなが医療への納得感を共有する事、みんなで意識の統一をする事が大事」と言っていました。その通りです。誰かに押し付ければいいという持続性のない政策、アリバイ造りばかり気にして反省しない官僚ばかりではダメでしょう。そしてこれだけ日本の医療が心配だと言っているのに自分の意見を通そうとする団塊の世代。この人達が変わってくれないと難しいでしょう。

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必要なら町並みも変えるシネコンの挑戦

7月9日のWBSで「シネコン"2強"の戦略」という特集をやっていました(我が家は皆、映画好きなのですが、見たい作品が必ずしも合わないため、折角休みが合っても一緒に行けないことも)。

複数スクリーンを持つシネコンは、1993年第一号がオープンして伸びてきたわけですが、
2010年頃をピークに伸び悩んでいるようです。今回の特集では、シネコン2強のイオンシネマとTOHO シネマズが採り上げられていました。

2013年7月にイオンが2位だったワーナーマイカルを完全子会社化、それまで1位だった東宝シネマズを抜くことになり一気に1位に躍り出ました。それから1年、攻めるシネコンの戦略をレビューしたのが今回です。

名古屋市・港区にあるイオンモール名古屋茶屋。モール内の目玉の1つがイオンシネマです。東海地区初となる立体音響システムや映画のシーンに合わせて動く座席など、最新設備が売り物です。千葉・美浜区にあるイオンモール幕張新都心で、3月に就任した牧社長が解説していました。

「ほとんどのイオンシネマはショッピングモールに入っているのです」。イオンシネマはイオンモールの出店に合わせ、去年の7月以降5館、今年さらに1館開業する予定です。立地の中心は郊外、客層はファミリーです。人が集まるモール内というのが最大の強みです。

戦略2はカフェでシネコンの人気商品のポップコーンを販売。ポップコーンの売り上げが目当てでなくて、あくまで映画館に誘導する広告の役目だそうです。ちょっと回り道かも知れませんね。さらに、ターゲットである家族にアピールする体験イベントで映画館に人を呼び込む戦略です。番組で放映していたのは結婚式を挙げていなかった人の家族式で、イオンシネマとモール内のブライダル会社が開催したものだそうです。

国内2位のTOHOシネマズ(劇場数65)は一方で、東宝がヴァージンシネマズを完全子会社化後、ブランドの統一を進めてきました。さらに新規出店も加速しています。TOHOシネマズの戸嶋雅之取締役は「都心への出店に力を入れていく」という戦略を語っていました。2017年まで日本橋・新宿・上野と、都心エリアで続々と開業します。

戸嶋取締役「より強い非日常性、そういう魅力が伝わらないと来てもらえない」。今年3月にオープンしたTOHOシネマズ日本橋がまさにその象徴。木目調の内装は高級ホテルをイメージしたデザインだそうです。TOHOシネマズ 開発建設室 小坂田陽介 マネージャー「女性をターゲットと考えている」。女性にウケる空間として「セミプライベート空間を目指した」というプレミアシートや化粧直しのスペースを設けています。実際、TOHOシネマズ日本橋の来場者数は年間目標を大きく上回る見込みで、都心の女性を狙った戦略が当たったとみています。

しかしその戦略にも課題があります。新宿歌舞伎町に出店予定(TOHOシネマズ新宿、スクリーン数 12と都内最大級)なのですが、周囲は居酒屋と風俗店だらけ。女性向きとは言いにくい環境です。しかも新宿はすでにシネコンが2つある激戦区で、競合はどちらも百貨店に近い、大通り沿いの有利な立地です。

歌舞伎町の弱点を乗り超えるため、建物から駅までの道のりを地元と東宝グループが協力して整備することにしています。「歌舞伎町をどう活性化させるか」「1年がかりで何ができるか調整している」。人の流れを変えるのはかなりの挑戦ですが、この意気込みは凄いです。

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日本の農業が儲かるようになるには知恵が決め手

7月1日の「ガイアの夜明け」は「画期的アイデアが人気農産物を生む!」でした。

高齢化と後継者不足を背景に、日本の農業の就業人口は減少を続けています。加えて、農作業が重労働であることや、儲からないということによって、農業の成り手が少ないというのも事実です。そこで、画期的な技術で農作業の負担を減らし、儲かる仕組みを作ろうという新たな取り組みを紹介してくれたのが今回の番組です。すごく納得できた回でした。そして「やっぱりJAじゃないんだ」と思いました。

養豚農家も今、廃業をする人が増えているといいます。飼育などの作業が重労働であるとともに、餌となる飼料が高騰し、多くの養豚農家が経営難になっているためです。 JAだけが儲かり、肝心の農家が衰退する典型的なパターンです。

そこに、日本の養豚業に変革をもたらそうとする男、日本フードエコロジーセンター社長の高橋巧一さんが現れたのです。食品メーカーなどから排出される食品廃棄物(食べ残しではありません)を(産廃より格段に安く)引き取り(つまりお金をもらって原材料を入手し)、再利用して豚の餌を作ろうと考えたのです。そうすれば、増えるごみ問題と、養豚場の経営問題の両方を一挙に解決できます。なるほど。

人間の食料と同じものを好む豚には向いているのですね。パン、ご飯、うどん、そば、そして野菜や果物などを破砕し、乳酸発酵した「リキッド発酵飼料」。果たせるかな、それは脅威の優れ物でした。豚も最初は戸惑うのですが、食べてみると美味しいのでしょう。ガツガツといった具合に食べ、しかも肉質が柔らかく美味しくなるのです。何と肉の買取価格が倍程度になるという嬉しい驚きです。しかもえさ代は半分程度です。日本の養豚農家を救う画期的なアイディアじゃないですか。素晴らしい。

もう一つはイチゴの話。今、イチゴは熾烈な品種開発戦争、ブランド戦争が行われています。 スーパーなどの店頭で一番目立つ場所にあるのは、栃木県の「とちおとめ」や福岡県の「あまおう」などの人気ブランド。

国内市場にイチゴのブランドは100種以上もあるため、そんなブランド戦争に立ち遅れているイチゴが多くあります。群馬県の「やよいひめ」もその一つ。ブランド力がないと、良い売り場に置いてもらえなくなり、販売価格は抑えられ、生産している農家の収入も限られてしまうのです。

そこで奮起したのが群馬県・農業技術センターの大海さつきさん。「ドライいちご」という戦略発想を思いつきました。

「やよいひめ」の甘さは「とちおとめ」や「あまおう」に引けをとらず、香りが強く、果皮がしまっているので、ドライいちごに向いているというのです。しかもスライスした断面の模様が鮮やかで、美味しそうに見えるのです。彼女がイチゴ農家と協力しながらドライいちごを商品化し、有名洋菓子店にも売り込んでいこうと奮闘する姿が紹介されていました。これまた素晴らしい。

いずれも本来なら地元のJAがすべき仕事ですが、巨大組織に胡坐をかいた彼らにはそんな能力・意欲はないのかも知れません。高橋さん、大海さんのような工夫ができる人材こそが地域の農業を再生するのだと思います。応援したいですね。

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“黒船家電”が凄いのではなく、ニッポン家電の開発体制に問題あり

7月2日(水)のNews Watch 9は「“黒船家電”続々と日本市場に」でした。

いま日本の家電市場で、海外メーカーが次々とヒット商品を生み出しています。日本得意の家電の市場に乗り込んできた海外メーカーの製品は「黒船家電」とも呼ばれているそうです(無茶苦茶なネーミングだなぁ)。

今回採り上げられたのはオランダの電機メーカー、フィリップスです。担当者は本社とのビデオ会議もほぼ毎日のように開いて、世界中の情報をタイムリーに集めていました。世界のトレンドを踏まえ、迅速に日本で商品投入を進めるだけでなく、発売した後もいかに商品の魅力を高めていくか。「スピード感」が印象的だと取材記者のコメントにありました。

対抗する日本メーカーとして取材されていたのが三菱電機。世界で初めて「電気釜」や保温機能のついた「炊飯ジャー」を開発した会社です。映像から感じられるのは、エンジニアたちのひ弱さと、それを「指導」する幹部たちの人たちのセンスのなさでした。

このメーカーは産業用FAや制御装置に強く、家電は主流部門とは言い難いものがあります。そのためか少々ピントがずれている感じが強く伝わってきました。

三菱電機の家電製品。「掃除機の操作性の改善」、「簡単に水を計ることができる炊飯器の釜」、「炊飯器の音が聞こえやすい部品」…。細部にわたる改善で、新型モデルを毎年のように市場に投入してきましたが、はっきり言って誰が欲しがるのでしょう。

専門家は「過去の成功にとらわれすぎて、前例を踏襲することで、斬新なアイディアが生まれにくい」と指摘していると取材者は指摘していますが、これはオブラートに包んだ表現でしょう。はっきり言えば、「過去にも成功していないし、他社の成功例を後追いで真似してマイナーチェンジで『柳の下の2匹目のドジョウ』狙いに過ぎない文化を引き摺っている」と断定すべきです。

番組の中で、三菱電機の家電製品開発部門が若手開発者の発想力を伸ばすために幹部上司が指導している様子が映し出されていました。その中で採り上げられたアイディアの例に「近づいただけで蓋が開く炊飯器」というのがありました。小生と一緒にビデオを観ていたうちのカミさんが一言、「売れないわよ」。確かに傍を通る度に蓋が開くような炊飯器、誰が欲しがるというのでしょう。

「きっとウォシュレットからの発想ね」という真っ当な推測をしたうちのカミさんがさらに指摘したのは、「家電商品を開発するチームなら、主婦をしている女性を入れなさいよ」という点でした。全くその通り。残念ながら、指導者たる幹部の人の経営センスのなさが端的に表れていました。これではニッポンの家電の苦境は続くかも知れません。

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「残業代ゼロ」をいかに組織活性化につなげるか

工夫なしに「残業代ゼロ」を実施すると、日本全体では晩婚少子化、個々の企業では士気低下につながる可能性が高いといえます。少数派かも知れませんが賢い企業経営者なら、対象者を中心に仕事のやり方自体を見直させ、真っ当な「残業ゼロ」を実現することを選んで欲しいものです。


安倍政権の掲げる政策パッケージのうち、「時間規制の適用除外」は副作用の可能性が高い劇薬であることを前回の記事で取り上げました。
http://www.insightnow.jp/article/8152

小生の懸念をまとめるとこうなります。「残業代ゼロ」の主なターゲットとなるのは30代の中堅サラリーマンであり、上司と経営者は彼らに今以上に仕事を割り振り、結果として彼らは今以上に残業・休日出勤を余儀なくされて子育てに協力する時間はさらに減り、晩婚少子化がさらに進展しかねない、というものです。

この懸念が現実化するには2つの条件があります。1つは「残業代ゼロ」の対象がじわりじわりと拡大されるだろうということ。この点は歴代の保守系政権や産業界の動きからして、ほぼ堅い線でしょう。今のままでは数%程度の人しか対象にならないはずですが、産業界のエライ方々は「最低でも10%以上が対象になるようにして欲しい」と言い始めています。

もう一つは、個々の企業では「上司と経営者は」「従来の仕事のやり方を変えることなく」「30代の中堅に今以上に仕事を割り振る」という目先だけを見た行動に出るだろうということです。残念ながら、大多数の企業においてはこの予想は当たると思います。しかし短期的には人件費カットが可能になるとはいえ、労働意欲と士気は確実に落ちるため、本当に優れた経営者は違うアプローチを採ってくれるのではと、小生は期待を捨ててはいません。

ではどうすべきか。端的には先の条件のうち、「従来の仕事のやり方を変えることなく」の部分を変えることです。すなわち、自社の従業員の一部といえど「残業代ゼロ」方式を適用するとしたら、彼らが本当に残業をほとんどしなくても済むように、経営者自ら音頭を執って仕事のやり方を根本的に変えるのです。

実は、見掛け上の「残業ゼロ」を達成しながらも「サービス残業に形を変えただけ」のケースも、近年の日本企業にはよく見られました。業績悪化に伴い、残業代をカットすることが目的となった企業に多かったようですが、ある時間になるとフロアの灯りを人事総務部門の人が強制的に消して廻り、隠れ残業者がいないかチェックするというものでした。実態は単に自宅に仕事を持ち帰らせるだけです。そもそもこういう会社の多くは、当時は不景気で仕事が減っていたから可能なだけで、その後の景気回復と人手不足で仕事が回らなくなったので、今ではこうしたやり方は止めてしまったようです(全く首尾一貫性がないことです)。

一方、世の中には実際に、業績を上げながら「残業ゼロ」を実現した会社がちゃんとあります。彼らのやり方を参考にする、可能な部分は真似る、ということは有意義です。小生もお手伝いしたことが何度かあるので断言できますが、業績を上げながら「残業ゼロ」を実現するには、精神論ではなく真っ当な業務改革のアプローチと、ちょっとしたコツがあります。

まず「全社一律に残業カット」とかの号令を掛けるだけではダメで、職場ごとに、できれば職種ごとに業務活動分析をすることが出発点となります(この業務の切り方にコツがあります)。それによりどういった仕事にどれほど時間を費やしているのかが「見える化」されます。

次に、大きく時間を取られている業務から順に、「この業務にはこんなに時間を掛ける価値があるのか」「なぜこんなに時間が掛るのか」「どうしたらもっと短時間に済ませられるか」といった具合に理詰めで検討していくのです。その際に有効な発想は「廃止」「簡素化」「IT化」「外部化」「平準化」などです。

小生が分析に関与せずに進め方のアドバイスだけをするパターンの際によく見掛けるのですが、素人分析の場合には大概、一部の業務の括りを考え直す必要がありますが、やっているうちに段々要領が分かってくるでしょう。他部門との関わりがキーになっている場合には、業務フローを描いて検討することが有効です。一人ひとりで考えさせるよりグループで考えたほうがよい知恵が出ることが多く、しかもファシリテータといった役割の人がいたほうが、よいアイディアに速く到達できるという傾向があります。

確かにこうしたアプローチは一朝一夕で完了とはいかず、手間が掛るので面倒がる経営者が多いのでしょう。彼らの言い分は「当社は既に十分効率的になっているので、今さらそんなことをやっても大した効果が出るとは思えない」といったものです。でもこれは言い訳に過ぎません。

実際にやってみると、つい最近に実施済のケースでない限り、どんな会社でも業務の無駄や非効率なやり方が毎年蓄積・肥大化しているもので、意外と大きな効果が出るものです。しかも全体の残業代が結構減り(その分、給与に回せますね)、従業員のQOL(生活の質)向上、ひいては組織活性化と両立できるのですから、やってみて損はありません。賢い企業経営者なら是非、こちらのアプローチを採っていただきたいものです。

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