「ここにしかない」商品にこだわる成城石井

最近、少しだが簡単な料理もするようになって、以前よりスーパーでの買い物の視点が変わってきたことを意識している。以前は正直なところ、効率と目玉商品の取扱いや陳列法など、経営視点しかなかった。それが最近は利用者視点で品揃えや買い物の楽しみを少しだが分かるようになってきたのだ。

そうした、買い物を楽しみたい客に支持されて伸びているのが成城石井だ。11月26日にTV東京のカンブリア宮殿で放送されたのが「“こだわり”で客を魅了するスーパー『成城石井』人気の秘密」だった。

首都圏を中心に132店舗を展開する「成城石井」の人気の秘密は「ここにしかない、こだわりの商品」があること。例えば輸入物のワインは全700種類、チーズだけでも210種類。扱う商品数は1万2千種類。確かに多い。

腕利きバイヤーたちが国内外から見つけてくる独自の品揃えが、客を捉えて離さない。そんな個性派スーパーを率いるのが原昭彦社長、48歳。意外と若い。「売れ筋は追わない。データには出てこない客の生の声が最も大事だ」と語る。

「ここにしかない」商品にこだわることが成城石井の存在意義だ。店内には、他店ではお目にかかれない商品の数々が並ぶ。海外からの直輸入商品を始め、国内で見つけてきた逸品も大人気だ。そして、ポテトサラダなどの惣菜は、自社のセントラルキッチンで保存料、合成着色料などをほとんど使わず手作りで製造されている。

しかも、売れ筋商品だけ店頭に置く訳ではない。毎月数個しか売れない商品でも、買いにくる客がいる限り置くのが成城石井流だ。

こだわりの商品を見つけてくるバイヤーは22人。彼らの日課は、客の問い合わせリスト(ウェブや投書箱へのポスティング)に目を通すこと。売れ筋データではなく、客の生の声からニーズのある商品をいち早く見つけるのだ。

そして、これというものが見つかれば国内外問わず、すぐに現地に飛んで交渉するのが成城石井流。また貿易会社を子会社に持つため、海外からの調達も自由自在。これが「成城石井に行けば、きっと何かある」というお客の期待に繋がっている。番組ではその調達の現場を密着取材しており、面白かった。

創業は1927年。創業者・石井隆吉が、果物や缶詰を扱う食料品店として東京・成城にオープンしたのが始まりだ。2代目の石井良明が1976年、食料品店からスーパーマーケットの業態に変えた。これが飛躍のきっかけだったようだ。

そしてまだ2店舗しかなかった時代に原は入社する。バイヤーなどを経験し、現場を一から学んでいった原にとっても成城石井にとっても転機となったのが1997年、恵比寿駅に初の「駅ナカ」店を出す。

それまでは大型の路面店のみだったが、駅ナカの店舗はわずか45坪という狭さ。責任者となった原は、従来店舗で売れている卵や牛乳などの生鮮品を品揃えした。さらに、駅ナカは若い客がたくさんいるからと、ショーケースにアイスを並べた。しかし、見事に大失敗。駅を利用する客は、手軽に持ち帰られるサイズのものや、そのまま電車に乗ってもいいような商品を好んだのだ。

この経験から、立地や客層によってこだわる商品と捨てる商品を決め、狭い店舗でも繁盛する独自のノウハウを確立したという。今では店舗の6割が駅ナカの小さな店舗。そして10月にはわずか10坪という極小店舗を開店。190坪から10坪までと変幻自在の店舗フォーマットだが、これが同社流なのだ。

そして(これは知らなかったが)成城石井はスーパーだけではなく、卸部門を持っている。現在、全国、北海道から九州、沖縄まで、47都道府県すべてのスーパーや百貨店、ホテルなどに自社商品を卸しているのだ。地元のスーパーが成城石井の商品を仕入れ、やはりここでしか買えないこだわり商品は人気らしい。これも成城石井なのだ。

実は成城石井には、ファンドが買収して経営を立て直した経緯があり、番組がいうほど綺麗事だけではない経験をしている。そしてその経営立て直しに、小生の旧い知人が指揮を執ったのだ。彼の名前は今回の放映には全く出てこなかったが、その功績は小さくないはずである。所詮、我々は黒子なので、こうした扱いに彼も不満を漏らすことはないだろうが、小生はその功績を知っている。
スポンサーサイト

テーマ : 経営コンサルタント
ジャンル : ビジネス

新規事業における素朴な疑問 (8) 軽視される基本仮説の検証

新ビジネスの構想案を練る段階において時折発生する、ちょっと困った傾向というのが、基本仮説の検証をおざなりに済ましてしまい、協業候補や初期顧客への打診を進めようとしたがることだ。ビジネスモデルとしてユニークで面白そうであればあるほど、前のめりになってしまいがちだが、「本当にそうか?」と基本的な部分を検証する態度が不可欠だ。


ここで「基本仮説」と呼ぶのは、そのビジネスが新事業として成立するための基本的な前提条件のことである。典型的には3つほどあって、1)本当の顧客は誰で、その本質的ニーズが十分強大なのか、2)既存の流通の仕組みや市場プレイヤーたちの対応に重大な不備・不満があるのか、3)自社のソリューション(解決法)は十分効果的で納得性のあるものなのか、といったものだ。

最近もあるプロジェクトの一つのチームで、散々議論して練り上げた事業アイディアに関して小生がこの基本仮説の検証具合をしつこく追及していると、メンバーの一人が「もう十分なんじゃないですか?先に進みましょうよ」とうんざりした表情で訴えた。

しかし実際のところ、ヒアリングの数だけは重ねていたが、1)2)3)とも十分といえる証拠・証言をほとんど得られていなかったため、小生はかなり厳しい表現で検証継続の必要性を訴え、結局チームメンバーにはその証言集めにしばらく集中してもらうことにした。

ある意味、こうした発言はやる気の表れでもあるのだが、この部分の検証をいい加減に済ませてフライング気味に「先に進む」と、どこかで根本部分が怪しくなって後戻りせざるを得ない事態が予想されるからだ。小生も顧客先で時折耳にするし、過去には推進担当者としてえらい目に遭ったこともある。

それに打診された協業候補先からすると、とんでもない迷惑を被りかねない。実は根拠の薄い思いつきを聞かされただけに過ぎないのに、真剣に検討を重ねたあげく、次のミーティングで「ああ、あれですか。よく考えてみると難しいと思えてきましてね…」と聞かされるのでは、噴飯ものだ。次からはまともに取り合ってくれないだろう。

実際の効用としても、基本仮説の検証を進めているうちに問題点が明確になって構想案の修正やブラッシュアップが進むことは多い。そして担当するメンバー間でのイメージ共有が着実に進むため、「ええ?そういう話だったの?」といった類の食い違いはかなり解消できるので、その次のステップに進んだ際の迷走や後戻りは抑制される。

では基本仮説の検証というのはどんなことをするのか、最近有名になってきたUberを例に使って簡単にご説明しよう。Uberというのは米国生まれの配車サービスなのだが、日本への導入を検討するといったシチュエーションを想像していただきたい(実際には既に導入されているが)。

実はUberには大きく分けると2つのサービスタイプがあり、プロのタクシードライバーの配車サービスであるUber BLACKと、素人のドライバーを配車するuberXがある。後者はいわゆる「白タク」に相当するので世界的にも物議を醸しているし、日本では現実的に一部の「特区」でないと実現が難しいとされるので、とりあえずここでの想定対象は前者のUber BLACKとしよう。

Uber BLACKの1)満たすべきニーズというのは、特定地区においてどんな時間帯でも10~10数分程度で自分のいる場所に着実にタクシーが配車され、しかもそれがスマホ上で手軽に指示・完了されることだ。そのためなら多少の料金上乗せを受容できる上級の都市生活者もしくはビジネスパーソンが顧客層だろう。

この検証のためには、想定客のプロファイルに合致した人たちへのグルインなどを繰り返して、どういうシチュエーションで、本当に上乗せされた料金を払ってくれるのか、どれほどの頻度でサービスを使ってくれるのか、といったことを聞き取り調査するのがベストだろう。もちろん、並行してそうした顧客層のボリュームを推定することが欠かせない。

では2)の既存の仕組みの不備不満はどうだろう。日本の大都市圏では、タクシー配車があるだけでなく「流し」もそれなりに走っており、それへの不満は大きくないかも知れない。ただし地域・時間帯によっては競争があまりなく、タクシー配車も流しも当てにならない「空白地帯」が存在する可能性はある。例えば夕方以降の密集住宅地は意外と穴場かも知れない。

そうした多少具体的な仮説を幾つか見つけられたら、それぞれの候補地区へ想定する時間帯に実際に行ってみて、流しのタクシーがどれほど通るのかをチェックした上で、既存のタクシー会社に電話して配車をお願いしてみる。これを想定するプロファイルの地区で幾つか繰り返せば、基本仮説の2)が検証できるはずだ。

最後に3)の自社のソリューション(この場合、Uber BLACK)の有効性と納得性だ。アプリの使い勝手のよさや位置把握機能など、そしてドライバーのサービスレベルなどについては世界的に評価が定まっており、相当な裏付けが既にあるといってよかろう。あえて追加検証するとしたら、日本のゴミゴミした大都市でも競合他社以上に素早く配車を完了できるだけのメッシュの細かさ(参加タクシーの待機密度)を、あらかじめ十分な試行により割り出して、それが現実的かどうかを検討することは必要だろう。

以上、新しい事業の「基本仮説」なるものを何故十分検証する必要があるのか、どんなことをやるべきかを簡単に述べてきた。当然ながらそれぞれの会社によって新事業のテーマやビジネスモデルは千差万別なので、どこまでピンと来るものなのかは分からない。でも担当者諸氏においては、上申した役員に「そんなことも確認してなかったのか」などと非難されることのないよう、現実的に可能な限りは事前に済ませておくことをお薦めする。

テーマ : 経営コンサルタント
ジャンル : ビジネス

"ご当地ブランド"は都心でも売れる

過疎化が進む地方を盛り上げようという新たな動きがそこかしこで始まっている。地方ごとの産業や特産品を活用し、今の時代にあった商品を開発するというものだ。その地方独特というオリジナリティ溢れる商品を地元の新たな特産品にし、都心でも売っていくという挑戦は小生の知っている範囲でも動き出しており、楽しみだ。

そんな中、TV東京の「ガイアの夜明け」でも同様の動きを採り上げていた。11月10日に放送された「"ご当地ブランド"売り出します!」だ。2つの面白い動きがフィーチャーされていたが、その一つが地方の百貨店の挑戦だった。

都市部の百貨店に比べ、地方の百貨店は苦しんでいる。2014年4月の消費税引き上げの影響が続く上に、訪日外国人の恩恵にも預かれないからだ。全国に24店を展開する百貨店、そごう・西武は、苦しむ地方店を活性化させようと、今年3月に新たなプライベートブランドとして「エリアモード」を立ち上げた。

従来の全国一律ブランドと違い、「エリアモード」では各店が地場産業と組み、地域色を打ち出した雑貨や衣類を開発・販売するところに特長がある。しかも各地域の伝統技術や特産品を採り入れている。例えば、埼玉・所沢産の狭山茶で染めたブラウスや、大阪・高槻の伝統工芸、今城焼きのアクセサリーなどだ。

こうした地方独特の商品は予想以上の売れ行きを見せているそうだ。いまやネットの普及で全国どこでも同じ商品が手に入る時代だ。その中で「地域限定」の商品に却って価値がつき、また地域住民の「地元愛」も刺激したのだという。

その成功を受け、そごう・西武は各地域で開発した商品を東京に集め、大規模なフェアを開催することに決めたのだ。地方発の商品で都心を攻めるという、これまでとは逆のパターンである。これはこれで面白い視点だ。地方を救うために開発した商品が都会の消費者にも受け入れられるのか、を証明するための企画である。

そしてどうやら「その地方にしかない商品」は都会の店舗でも売れることが見えてきた。そごう・西武では中央→地方への発信&商品流通だけでなく、双方向の流れがこれから確立するかも知れない。注目すべき取り組みである。

テーマ : 経営コンサルタント
ジャンル : ビジネス

「空中農園」はもう夢物語ではない

断熱材の製造販売のアトラス(株)が生産性5倍・生産原価6割削減の空中農園「自動植物生育器シーパス」の開発に成功、と発表したのがこの8月。その後、住宅会社向けに老後危機の対策として『空中農園併設住宅 2000万円やさいで稼ぐ家』を企画し、全国へ普及のため、勉強会やセミナーを実施しているとの話だ。

基本本体 1ユニット500万円(税別)と決して安くはないが、一軒家を持っており、家庭菜園を趣味にしてきたが、定年で暇を持て余しそうで、「家庭菜園」では物足りなく思っているご仁にはウケるかも知れない。なかなか面白い企画だ。
http://www.atolas.jp/info/2015/0805234745.html

その情報を頭の片隅に置きながら、先日録画をしておいた「BS世界のドキュメンタリー選」(NHK BS)の「“空中農園”が人類を救う!?」を観た。示唆は少なくない。

「植物工場」自体は(富士通の元半導体工場などで実現され)もう突飛な発想の代物ではなく現実の産業の一つになりつつある。しかしそれを縦に伸ばす(高層ビル化し、各階で野菜を栽培する)ことで、都会のど真ん中に農場を作る、という発想である。

「空中農園」の特徴は、土を使わず水耕栽培で野菜を育てること、コンピュータによって水と肥料を与える量とタイミングなどを高度に管理化されること、LED照明を使って雨天・曇天でも光を照射し作物を育てること。病害虫が入ってこないので無農薬の作物ができる、需要地である都市で生産するため、輸送にかかる費用・エネルギーを節約できるというのも大きなメリットである。

課題はエネルギーコストだ。LEDとはいえ照明と、水循環ポンプや野菜位置を動かすための電力が必要だ。高層ビルをガラス張りにすることで照明は節約できるが、ほかは省エネ型にしてもある程度必要だ。昼間に太陽光発電で蓄電して夜間はそれを使うことも可能だが、そうしたことをやるほど高額な設備投資になってしまう。ちょっと悩ましいところだ。

多分、米国やロシア・中央アジア。中東などのエネルギーコストが安い土地では十分可能性があるが、日本のように電力コストがバカ高い国では難しい。

とはいえ、これも一つのオプションだ。しかも都会にて高値で売れて温室栽培に向いた野菜ならば、十分可能性はある。どこかのブログで「穀物が採れない」とか「トマトばかりじゃないか」という批判を目にしたが、見当違いも甚だしい。

コメなどの穀物は都会ではなく田舎で生産し都会に輸送するので将来も構わない。数日から数週間掛ろうが誰も困らない。安く鉄道で運べばよい。しかし野菜の場合、収穫したその日に市場に並べることができるかどうかはクリティカルだ。このあたりはたまたま先週のガイアの夜明けでも東京産の野菜がウケる理由として挙がっていた。
http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber3/preview_20151103.html

要は、全ての農産物を空中農園や植物工場で作ろうなどとは誰も考えていないし、この番組でも主張していない。都会の高層ビルで作るのに適している作物があるかも知れない、そうしたら誰かがそろそろ始めるかも知れないね、という話なのだ。

しかも冒頭に挙げた通り、都会にある家屋で『空中農園』をできるキットも、流通のための支援も用意されているとしたら、構想ビルではないが、『空中農園』は夢物語ではなくなるのではないか。

テーマ : 社長ブログ
ジャンル : ビジネス

「介護離職ゼロ」のために優先すべきは介護スタッフの待遇改善

政府は、「1億総活躍社会」に向けた「介護離職ゼロ」実現のための具体策として、特別養護老人ホームなどの介護施設を増やすため、首都圏の国有地90ケ所を早ければ年内にも事業者に安く貸し出す方針だという。これはないよりはましだが、優先すべき政策ではない。


介護離職を減らすためには介護を頼める施設を増やす必要があるという認識は正しい。財政難を理由に近年、施設介護から在宅介護へのシフトを誘導する国策が採られてきたが、政府もようやく間違いに気づいたのかも知れない。在宅介護をしたい人への支援は充実すべきだが、介護離職による職場と家庭の崩壊を食い止めるためには、施設介護を頼める先を地元に確保する以外の決め手はない。
あなたの家族に忍び寄る”介護による家庭崩壊”の危機 http://www.insightnow.jp/article/8208

しかし土地の確保は最優先策ではない。首都圏で施設建設の場所が不足しがちなことは確かだが、介護業界の経営者の声を聞く限り、最大の課題は人手不足なのである。施設介護に対する需要は旺盛だが、そこで働いてくれる介護スタッフの確保がままならないため事業拡大が難しい、というのが現場の嘆きなのである。増設どころか現状維持すら(人手不足で)ままならないという介護施設の悲鳴もよく聞く。

昨今はどの業界でも人手不足が叫ばれているが、介護業界は不況期から続く慢性的な人手不足業界である。正確に言うと、「需要が急拡大する中、供給が追い付かない」のであり、決して介護業界への就労数が減っているわけではなく、むしろ着実に増えている。とはいえ社会的要請が急務である職業でありながら、期待ほど人が増えていないのも事実である。介護業界の有効求人倍率は全産業のそれを遥かに上回り続けているのが実態である(下記URLにある資料のP.10~11を参照されたい)。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000062879.pdf

ではなぜ人は介護業界への就労をためらうのであろうか。実は若い人たちの中で介護職というのは人気のない仕事ではないのである。むしろ目の前にいる人のためになることができ、「やりがいを感じる」職業の一つなのである。しかしいざ実際の職業選択の場面になると、必ずしも選ばれないのである。当人がその気になっても、親兄弟が説得し断念させることも少なくないとされる。他の職業から転職を考えている人にとっても選択肢に残りにくいのである。

なぜか。介護の仕事に「低賃金で重労働」とのイメージが強いことが主要因であろう。内閣府の「介護保険制度に関する世論調査」(平成22年)によると、ネガティブな面としては「夜勤などがあり、きつい仕事」(65.1%)、「給与水準が低い仕事」(54.3%)、「将来に不安がある仕事」(12.5%)の3つが高い割合を示した。

この3つ目は、1つ目から来る「体力のある若いうちしかできない仕事」という不安と、2つ目からくる「将来になっても給与や待遇があまりよくならないのではないか」という不安を足したようなものではないかと推察できるので、根は先の2つと同じである。世間的に「介護職は離職率が高い」というイメージも作用していよう(実は全産業平均と比べて実際の離職率にそれほど差があるわけではない)。

売り手市場になった今、わざわざそんな職場を選んでくれる奇特な人たち(そして選ばせる家族)は多くないということだろう。このイメージを変えないことには介護スタッフは全く不足したままであり、介護施設はなかなか増設できないのである。

そして厄介なことに、そのイメージは必ずしも間違ってはいないのである。介護職員の平均給与が他の似たような職業に比べ割安なのは事実である。2015年11月7日の日経新聞の記事によると、福祉施設の介護員の月給は2014年の全国平均が常勤で21万9700円と、全産業平均の32万9600円より約11万円低いとある(厚労省の統計によるとのこと)。昨今増えている非正規雇用のスタッフであれば、さらに一段と安い給与で働くのが実態だ。

大半の施設において介護職に夜勤がつきものであることも事実である。また、排泄物の処理やおむつ替えなどの「下の世話」をすることや、入浴を手伝う際などに風呂場まで老人を抱えることも、職場によっては日常業務の一環である。

こうした事実・実態を踏まえた上で、それでも日本社会としては、介護施設にて働くスタッフの数を増やし、彼らが健康で不安の少ない社会生活を営めるようにしなければならない。そのためには介護スタッフの待遇を大きく改善するよう、政策的に誘導する必要がある。イメージを改善するだけではダメで、実態をよりよくしないといけないのである。

まず根本的には介護スタッフの給与水準を底上げする必要がある。社会的な期待と要請が高い職業なのに、いくら若い人が多いからといって全産業平均を大きく下回る現状は許されるものではない。

介護報酬制度を司る厚労省、そしてその背後で予算を握る財務省は、国家財政事情が厳しいからと今年4月からの介護報酬(つまり介護法人に対する支払い額)引き下げを実施したが(その際には介護職員の処遇改善を要望してはいたが)、それが長い目で介護スタッフの給与水準や労働環境の改善に対しネガティブな方向に働くことは容易に想像できる。あまりに目先のことしか考えていない策だ。

このまま無理に介護報酬を抑制し続ければ、やがて介護施設は大幅に不足し、高齢者を預けられない世帯の介護離職が急増し、家庭は崩壊、中核人材を突然に失う企業は混乱をきたして生産性と競争力を下げ、国と自治体の税収はかえって落ち込んでしまいかねない。目先の節約にばかり気を取られて本末転倒の事態を招く愚策なのである。

すべきことは全く逆だ。高齢者が急増する当面の間、他の予算は多少抑制してでも介護報酬を増やすしか、介護離職を減らす効果的な方法は基本的にはない。さらに介護法人の収入を増加させるため、制度対象外のサービスを増やすように経営努力を促すことは必要だが、あくまで補足に過ぎないことは理解すべきだ。

もう一つ、介護スタッフの労働環境に大きく影響するのは夜勤の存在である。他の「キツい」とされる業務として挙げられる排泄物の処理やおむつ替えなどの「下の世話」は、介護スタッフの方々によると慣れると大丈夫だとのことだし、入浴などの際に老人を抱えるといった一見重労働な作業は男性スタッフがいれば何とかなるという。

しかし夜勤が勤務シフトに混じることで引き起こされる体調の崩れや疲労蓄積は、慣れや工夫で何とかなる問題ではない。特に少人数の施設では夜勤の頻度が多かったり、一人勤務だったりする実態があり、いくらやりがいに燃えて就労したスタッフをも挫けさせるキツさなのである。

一人夜勤時に「眠れない」「ご飯はまだか」といった呼び出しが続出するかたわらで、複数の利用者が徘徊するような事態が一晩じゅう続いたら、どんなタフな精神力と体力がある人でもまいってしまう。この事態を改善するよう経営者に要望しても、「我慢してくれ、いずれ何とかするから」といった言葉だけで何か月も放っておかれたら、誰でも退職を真剣に考えるだろう。

一番効果的な解決法は、夜勤専門のスタッフを雇い、大半のスタッフを日中だけの勤務として、両者を別々の勤務シフトにすることだ。もちろん夜勤専門のスタッフには高めの給与を支払う必要があるが、日勤・夜勤の混在に比べ体調管理はずっと容易だという。日勤専門になる大半のスタッフからは、一番の悩みがなくなることで大歓迎されよう。

この体制を確立するためには人数を増やす必要が出てくる施設も少なからずあろう。そのためにも介護報酬の水準を底上げすることが求められるのだ。

その結果、将来さらに消費税アップという事態を招くかも知れない。しかしこうした改善によって介護スタッフが笑顔で働き続けることができ、介護現場の崩壊を食い止められるのであれば、「次は我が身(が介護利用)」と、現在の納税者たちも納得するはずである。

そして冒頭の過去記事でも指摘したが、介護保険と税金から支払われる介護報酬の多くは介護スタッフの給与として支払われ(資本産業でない介護業界の場合、労働者への支払い割合が多い)、それは各地元経済に環流してゆく性格のものだ。分かりやすく云えば、与党・自民党の好きな建設業よりも地方経済の活性化効果が高いということだ。公共政策としては惜しむ理由はない。

なお、念のために断っておくが、弊社には介護業界のクライアントはいない。

テーマ : 社長ブログ
ジャンル : ビジネス

「メード・イン・ジャパン」への回帰の難しさと感激

日本のメーカーが、一部の生産拠点を海外から国内に戻す動きが最近目立つようになってきた。円安や、アジア各地での人件費高騰が主な理由だ。とはいえ、一度離れた技術者や職人を再び確保するのは困難だ。当たり前だが彼らにも生活があり、既に別の職業で生計を立てるようになっているか、引退していることが多い。場合によっては遠い土地に移り住んでしまっていることもある。

10月20日に放送されたガイアの夜明け(TV東京系)では、国内での生産を何とか復活させ、逆に「メード・イン・ジャパン」で打って出ようとする家電ベンチャーと小さな腕時計ブランドの奮闘を採り上げていた。家電も腕時計も、かつては日本のお家芸だったが、海外に生産の比重を移した企業が多い。果たして、小さな企業の"国内回帰"の挑戦は成功するのか。題して「再び"ニッポン製"で攻める!」。

冒頭に映されたのは、東京・二子玉川に今年オープンした蔦屋家電。最新のオシャレ家電と書籍が同じ売り場に並ぶ、ユニークな店づくりで評判だ。その一画に斬新なデザインの加湿器がある。ミストを出す90センチの銀色の筒が印象的で、これまで1万台以上を販売したという。

製造するのはCADO(カドー)、社員20人のベンチャー家電メーカーだ。「他メーカーとは明らかに違うデザインでありながら、機能も追求する」と語るのは社長・古賀宣行さん。かつて大手家電メーカーで商品開発に携わった技術者だ。

その古賀さん、加湿器の生産を、中国から日本に移すことを決断した。ツテを頼りに秋田県の機械メーカー・十和田オーディオに協力を依頼。この機械メーカーは約10年前、大規模リストラを余儀なくされていた。発注元の家電メーカーが中国などへ生産移転したことが理由だ。しかし今度は小さな家電ベンチャーと組んで、「メード・イン・ジャパン」に再び賭けることを決めたのだ。

とはいえ、組み立てコストを中国と同等以下に抑えることは大きなチャレンジだ。中国工場では30~35人のラインで組立て、実際に1台ごとに水を入れて検査し、半日かけて乾かしている。人海戦術そのものだ。それに対し十和田オーディオでは、15人で1日200台を作ることが目標だ。

技術部スタッフは量産のための知恵を絞り、検査を効率よく行うため、水の代わりに空気を使うアイデアを考えた。数日後空気漏れ検査機が完成、その後さらに改良され検査結果が分かりやすくなっていた。さらに手作りの台車を使い、手渡しの時間を削減している。お蔭で初日から目標を達成することができた。

彼らのチャレンジは単に組立だけの問題ではない。特にこの 加湿器の場合、透明のタンクがポイントだ。中国では手作業で磨いているのだが、表面にうねりが残っていた。日本でタンクの製造を請け負った白石工業はうねりをなくすという課題に取り組んだ。調整と失敗の繰り返しで、1ヶ月後納得できるものが完成した。押し出し機から直接、うねりのないタンクが押し出されて出てくる。これで磨く手間が省け、コストが抑えられるのだ。しかも磨くことも不要だから、透明度が高い。さすがニッポンの技術力だ。

2つ目は腕時計。中小の腕時計関連産業は衰退してしまい、腕時計は今や8割が海外からの輸入品だという。

腕時計メーカーKnot。日本で設計・組み立てを行っている。腕時計が1万4000円から、ベルトは2000円からで、自社で直接販売しているので中間マージンがなく、割安な価格に設定できるのだ。パーツもバラ売りされ、時計本体は19種類でベルトは200種類。ネットでも注文でき、発売から1年で4万個を販売するという人気ぶりだ。しかし人気のあまり、生産が追いついていない問題に直面していた。

秋田・仙北市に時計の生産を委託しているセレクトラがある。社長の遠藤さんは工場を訪ね増産を頼んだ。時計作りの作業工程で難しいのが針付けの作業で、これができる工員は2人のみである。そのため増産は難しいとのことだった。

生産工場を探す遠藤さんに、協力してもいいという工場があるとの情報が入る。その南安精工では5年前まで腕時計ムーブメントを月500万個生産していた。しかし10年ほど前から生産の中心が中国へ移り、南安精工は時計製造を止め、精密加工で使う工作機械を製造して、窮地をしのいでいた。しかし南安精工の小林さんは腕時計の生産が無くなっても、修理の仕事だけは続けていた。何とか腕時計の技術を残したかったのだ。

南安精工では製造ラインが完成し、スタッフも揃えた。さらに大手精密機器メーカーに勤務し、海外で腕時計生産の指導をしてきたベテランの長谷川さんを指導役として招いた。さらに小林さんは工作機械のノウハウを生かし、針を正確に取り付けられる機械を作った。この凄い機械により、南安精工では月3000個の生産目標が見えてきた。

しかしそんな中、秒針が外れるというクレームが増えていた。針など一部部品は中国で大量生産され、数百個に1個穴の大きいものが出る可能性があるという(さすが中国製)。かといって一つひとつの部品の穴の大きさをチェックすることは現実的ではない。そこでベテランの長谷川さんは完成された時計に衝撃を与える検査を加えることで、この難題を乗り切ったのだ。さすがだ。

9月19日台北市内のそごう百貨店に遠藤さんがいた。現地の販売代理店からの要望で試験的に販売することになったのだ。京都の組紐で作られたベルトを用意していた。早速1人の女性が興味を示した様子が放映されていた。その後10日間で時計30個、ベルトは33本売れ、台湾の大手販売チェーンで販売することになった。成功への道筋が見えてきたようだ。

テーマ : 社長ブログ
ジャンル : ビジネス

アジアはダイナミックかつ危険に満ちている

録画で溜め込んでいた未来世紀ジパングを集中的に観た。10月5日放送の「インド交通戦争 そこに勝機が!」、10月19日放送の「反中フィリピンで日本の鉄道が大逆転!〜戦後70年もう一つの"残留孤児"〜」、10月26日放送の「ミイラ肉に、キノコ危機、化学工場連続爆発...追跡!中国の安全」の3つである。背景や状況は様々だが、激変するアジアらしい、リスクと驚きに満ちた内容だった。

一つ目のインドの交通戦争はすさまじかった。「一歩でも先に」と考える国民性からくる交通ルールを守らない実態が引き起こしている、1年間の交通事故死亡者数14万人(世界ワースト1位)。東南アジア各国でも交通混雑はひどく事故も多いが、インドほどスピードを出さないので、軽い事故が大半だ。インドの場合、皆が目一杯スピードを出すので、事故時が悲惨なのだ。しかも、「運転免許を買う」人が多いという現実にも呆れ返る。女性に対する蔑視・差別・暴力と並ぶ、インドの恥部といえる。

2つ目のフィリピンは最近目覚ましく発展中だ。紹介された湾岸地区の再開発は見ものだ。巨大複合リゾート施設が東京ディズニーランド2個分の敷地に4つ建設されつつある。マニラをシンガポールやマカオに対抗させようというのだから鼻息が荒い。

また、高速鉄道計画が中国に逆転決定するというショッキングな「裏切り」を行った親日国・インドネシアに対し(ジョコ大統領は親日家ではないし、オバマ米大統領と同様に日和見主義者だ)、首都マニラの大動脈となる3000億円規模の鉄道計画では日本に大きなチャンスが巡ってきている。元々は全く親日的ではないフィリピンだが、今現在では南沙諸島の領有権問題で対立する中国を嫌う気分が作用して、大いに日本と仲良くなる方向に世論がシフトしているようだ。

最後、3つ目はその中国の実態の一端を伝えてくれた。我々の常識ではありえないようなことが次々に起こる中国だが、その「安全」の闇を改めて追跡する内容だった。

食品問題では「ミイラ肉」という、驚くようなニュース。なんと40年前の冷凍肉が流通していたという。食品Gメンの活動も紹介されていた(以前、他の番組で観た人とは別の有名Gメンらしい)。不自然に白すぎるマッシュルームやエノキダケを市場で購入し、食品検査所で分析してもらうと、許されるレベルを遥かに超えた量の化学物質(漂白剤)に汚染されていた。番組の取材班が現地(通称「毒キノコ村」の)工場に潜入していたが、キノコを安い時期に大量に購入、塩(ホルマリンに近い?)漬けして(結果的に腐っていた)、古い状態なのを誤魔化すために漂白して、年間を通して販売しているのだ。食品に対する安全性意識などはかけらもない実態がよく分かる。こうした国から食品を輸入することがどれほど我々の健康に対するリスクを高めているか、日本の消費者は冷静に考える必要があると、改めて思った。

テーマ : 経営コンサルタント
ジャンル : ビジネス

最新記事
月別アーカイブ
プロフィール

austintex

Author:austintex
FC2ブログへようこそ!

カテゴリ
最新トラックバック
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR