「生物に学ぶイノベーション」は奥深い世界

7月1日(月)に放送された「クローズアップ現代」のテーマは「生物に学ぶイノベーション ~生物模倣技術の挑戦~」というものだった。以前にも似たようなものを同じNHKのサイエンスZEROで観たことがあるが、少しバラエティ色が薄くなって報道カラーが強く出ており、日本社会にとっての期待と課題が浮かび上がる。

生物が進化させてきた機能を模倣する「バイオミメティクス(生物模倣技術)」。実際、革新的な技術が次々と生まれようとしている。その背景としては、電子顕微鏡やナノテクノロジーの進化により、生物の「神秘のメカニズム」を分子レベルで解明、再現できるようになってきたことがある。

番組中で最初に紹介されたのは、山形県鶴岡市にある、慶應大学発のベンチャー企業。クモの糸の構造をまねて、人工的に作り出した新素材が注目されている。実験では、ナイロンより高い伸縮性を実現。強度は鋼鉄製の糸の2倍にも達する。この糸をシート状に編んで自動車のボディーなどに使えば、今よりはるかに軽くて丈夫な車を造ることも可能という。

クモの糸の中でもぶら下がるときに使う糸は、特に強さと伸縮性を兼ね備えている。主な成分はフィブロインと呼ばれるたんぱく質で、硬い部分と軟らかい部分が並んだ構造をしている。これが集まって糸になると、硬い部分はくっつき合って頑丈に、軟らかい部分は絡まり合って、伸縮性を発揮する。この独特の分子構造が、クモの糸の驚異的な強じんさを生み出している。しかしクモはすぐに共食いしてしまうため、絹糸を作るカイコのように大量に飼うことはできない。

このベンチャー企業では、最新のバイオテクノロジーを使って、クモの糸の遺伝子を持った微生物(バクテリア)を培養している。バクテリアは遺伝子の命令に従って、たんぱく質フィブロインを作り出す。温度や栄養などを調整して、このバクテリアを大量に培養。培養液を精製すると、フィブロインだけを回収できる。それを溶液に溶かし、細く圧縮して押し出すことで、糸状に成形する。量産に向けた計画も動き出しており、年内には試験プラントが稼働する予定だという。

他にも幾つかの例を番組では紹介した。例えば超小型の飛行ロボットの開発。重さは僅か数グラム。ハチドリという小さな鳥の複雑な羽の動きをハイスピードカメラで撮影し、スーパーコンピューターで解析し、ロボットに応用しようとしている。

もう一つの例は今年実用化されたヤモリテープ。壁や天井を自由に歩き回る、ヤモリの足の接着方法を研究したもの。ヤモリの足の裏には、吸盤や粘着物質はない。しかし電子顕微鏡で観察すると、数億本に枝分かれした微細な毛が生えていて、物質と引き合う特殊な力が働いていることが分かった。ヤモリテープでは、カーボンナノチューブによってヤモリの足の裏の構造を再現している。

3つ目はアワビに注目して新素材の研究を行っている、東京大学の研究室。アワビの貝殻は炭酸カルシウムで、セラミックスの一種。しかしセラミックスとは違って、非常に割れにくい性質を持っているとのこと。その秘密は、貝殻は厚さ1ミリにつき、薄い板が千枚以上も積み重なり、板の間にも軟らかい接着層が挟まる複雑な構造をしていること。貝殻に力が加わると、薄い板が1枚ずつ壊れて、進行を食い止める。板の間の接着層もクッションとなって、衝撃を吸収するため、簡単には割れない。

何より研究者たちを驚かせたのは、貝殻の作られ方だという。アワビはほとんどエネルギーや資源を使わず、海水中の炭酸カルシウムを取り込んで、貝殻を成長させる。人間のように、高温で焼き固めたり高い圧力をかけたりすることなく、ありふれた物質だけを使って強じんな貝殻を作っていたということだ。この仕組みを真似することができれば、エネルギー消費が極めて少なく、しかも環境に優しい製造技術が確立できるということになる。少なくとも大きなヒントにはなるのではないか。ものづくりニッポンの復活のために期待したい。

日本はこの分野で、世界のトップランナーになれる可能性を秘めているというのが番組のメッセージの一つ。なぜなら南北に長い国土には9万種もの多様な生物がおり、ばく大な資源となりうるから。一方、日本では昆虫学や動物学の研究者と工学系の技術者との連携が弱く、製品化の動きは欧米に大きく遅れを取っているのが現状だとのこと。この領域ごとの「蛸壺世界」の壁を超える試みも紹介されていた。頑張って欲しい。
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