グローバル化したマネーに世界経済は翻弄され続ける

9月29日放送のNHKスペシャル「マネー氾濫~世界経済に異変~」は適時かつインパクトのある内容だった。

リーマンショックから5年、世界は今“新たな危機”に直面しようとしている。震源地の一つは米国。この5月にバーナンキFRB議長がアメリカの量的緩和の縮小の可能性を示唆しただけで、世界の資金が新興国から雪崩を打ってアメリカに回帰してしまったのである。過剰反応ではあるが、グローバル化した世界経済が何度も繰り返したパターンだ。これを契機に、再び世界経済が変調をきたすのではないかと懸念されている。

アメリカは3億ドルに上る資金をばらまいてきたが(不良債権を担保に紙幣を大量に印刷したことを意味する)、その極端な緩和を止める可能性があると言っただけで、あぶく銭を前提にしていた金融機関のディーラーがパニックに陥ったのである。「これはまずい。アメリカの投資マネーだけで支えられている新興国経済は失速し通貨安になる。大損になる前に回収しないと」と、ブラジルなどから急いで資金を引き揚げたのである。1997年のアジア貨幣危機を思い出させるパターンである。

ブラジル・レアルは瞬く間に売られ、20%も値下がりした。おかげでアメリカのマネーを当てにして借金して事業を拡大したブラジルの農業関連会社(サトウキビ加工など)やエネルギー関連会社は首が回らなくなった。輸入物価は20%程跳ね上がり、たちまち生活が困窮した市民のデモが、サンパウロなど主要な都市で連日のように行われている。「物価を下げろ。バーナンキをやっつけろ」と。

インド・ルピーも22%値下がりし、インド経済も同様に急ブレーキがかかっている。インドは日本と同様に原油をほぼ100%輸入しており、ガソリン代の高騰が生活を直撃した。あれほど好調だった自動車販売に急ブレーキがかかり、さらに海外からの投資資金が全く集まらなくなっている。

中国もリーマンの打撃から抜け出すため、巨額の金融緩和策や景気刺激策を実施した。莫大なマネーが景気を一時浮揚させた一方で、過剰な投資を招き(中国人は何でもやることが中庸でなく大体が過剰といえる)、工業製品の過剰生産や不動産の高騰など様々な副作用や歪みを生み出した。

景気過熱を懸念した中央政府がわずか1年で引き締め政策に転換する中、大きな歪みが潜行していた。需要が足らないにも関わらず、成績を上げたい地方政府が相変わらず過剰な開発政策を進めたのである。その資金を補うために「シャドーバンキング」が活用されたのである(この構図はリーマンショック前のサブプライム問題と同じだ)。老後の資金を「理財商品」に投資し紙屑となった市民の嘆きの声が伝えられたが、何度となく繰り返された光景である。取材でシャドーバンクを訪れた番組スタッフが見たのは何と地方政府の庁舎にいる地方役人。つまり実態として両者は一体なのである。地方経済の破たんが続けば、中国全体としても大きな傷を負うだろう。

問題は中国国内に留まらない。中国が資源確保のために食指を伸ばしていたアフリカ各国の経済も変調をきたしている。番組はザンビアの鉱山会社の窮状を映し出していた。中国に依存する経営の不安を訴える経営者と労働組合幹部の言葉を伝えていたが、もう遅いだろう。アフリカの多くの国にも経済危機が広まろうとしている。

9月18日のFRB経済政策の発表は量的緩和の継続であり、それは市場関係者の予想を覆すものだった。結果として新興国通貨に再び買いを入れながら、一方で投資銀行やファンドマネージャーが批判していた。「いずれ量的緩和は縮小せざるをえない、早ければ早いほうが問題は小さく済むのに、先送りすれば問題は大きくならざるを得ない」と。あんたらのせいで世界経済のブレが増幅されるのに、と思ったが、指摘自体は正しい。

日本経済は景気回復が見え、米国経済も富裕層が再びの不動産投資ブームに沸く。しかしグローバルにみれば、歪みはさらに拡大していく。
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