バンコクの非常事態宣言にみる、未成熟なタイ政治の実態

タイの首都、バンコクに非常事態が宣言されました。22日から始まり60日間に亙る予定で、非常に気掛かりです。昨年10月から始まった反政府デモが最近過激化しており、手投げ弾の爆発などで死傷者数も増え、これ以上の事態悪化を防ぐためとされています。

そもそもは罪に問われたまま亡命しているタクシン元首相の帰国の際の恩赦を促すための法律改正を、妹のインラック現首相が進めようとしたことがきっかけで始まった反政府デモです。しかし途中からどんどんエスカレートし、政府機関の占拠や政府関係者の自宅への押し掛けや嫌がらせなど、実にやりたい放題でした。政府は法律改正を断念した上に、12月には一旦、総選挙を2月に実施することで乗り切ろうとしましたが(ここまでは知り合いのタイ人も読んでいましたが)、さらに反タクシン派の反発が強くなるのをみて、今では総選挙の延期というカードをチラつかせて妥協の道を探っています。

しかし一体、この事態は何でしょう。そもそも野党の言い分は支離滅裂です。総選挙をすると負けるに決まっているからといって総選挙を拒否し、返す刀で違法デモと暴徒で首都を「占拠」(ダジャレのようだ…)し、正当な選挙で選ばれたインラック首相の退陣を要求する。民主国家の野党としては暴挙以外の何物でもありません。仮に将来自分達が政権を取ったときに同じことをされても文句を言えません(確かに、昔、タクシン派が似たようなことをしたのが最初ですが)。それより、都市市民に不利な今の選挙制度(区割りと代議士数)の改正を政権側に申し入れて、それを条件にデモを収めるとするほうが前向きかつ戦略的です(そうした助言をする参謀がいないのでしょうね)。

そうした戦略も見通しも互いにない今は、ほとんど「子供の喧嘩」状態です。観光はもちろん、普通の経済活動にも心配が先立つ状態です。実際、現地の日本人学校は暫く休校らしいですし、小生も複数の案件がありながら、1週間先の治安状況が読めないため、バンコク出張の予定が立たない状態です。2年前の洪水騒ぎの際にも政府の手際の悪さに呆れかえりましたが、今回は躍進しつつある中進国として情けないくらい、当事者能力のないタイ政治の実態を見せつけられる思いです。

でも不思議なことに、バンコクに住むタイ人の友人や知人たちにはそれほど危機感や緊急事態の切迫感はないようです。意外と気楽なメールやfacebookのコメントが届きます。人気スポーツ・チームの対決のように、劇場型政治の場外乱闘を楽しんでいるようです(確かにタイ人は政治好きで娯楽の一種なのです)。中には決着の行方を賭けにしている連中もいるらしいです。

普通の日本人には理解し難い、野党の傍若無人振りと政府の弱腰の背景には、長年の国王による「手打ち」という儀式か、軍隊によるクーデターのいずれかのパターンに慣れ切ったために、政党に当事者意識が欠如していることと、数年前のデモ鎮圧が日本人ジャーナリストを含む死傷者を出して時の政府退陣につながったトラウマ、という2つの要素が大きく絡んでいると思われます。要は、仮に思い切ったことをした結果、非難されて責任を採る羽目になりたくないという政府首脳部の責任回避心理と、それにつけこんで図に乗って好き放題している反政府デモ首謀者および結託している野党首脳部の節操のなさ、という構図です。

でも今回、国王は自ら仲介役に乗り出す考えはないと漏れ聞こえます。もう十分なご老齢である国王は、今後のことを考えられて、「与党と野党が当事者同士で妥協して話をつける、成熟した民主主義のプロセスを確立して欲しい」と願っておられるのでしょう。当然です。そして軍もまた同様です。一歩間違えば首脳部の失脚につながりかねないクーデターをやりたいほど権力欲がない、まともな軍人感覚の持ち主であれば、正当な民主主義プロセスの中で政治家同士が話し合って事態収拾へ向かってくれることを祈っているはずです。

今は、「チャイナ+1」および伸びゆくASEANにおける地政学的好位置にいるために、千載一遇の機会として高度成長への道を辿り掛けているタイです。人口ボーナスを享受できる期間は、実はあと10年あるかないかです。国民の大半が経済成長の果実を得る前に、ごく一部の政治家の個人的野心のせいで政治混乱が拡大し、ここで経済失速、ましてや国際的信頼を失う事態により外国資本が引き揚げ、以前のアジア金融危機の時の悲惨な状態に戻ることは誰も望んでいないはずです。

野党のアピシット党首をはじめとする反政府側が冷静さを取り戻すか、さもなければ法律に基づいて政府側が厳しく違法デモを取り締まる(つまり大勢の逮捕者を出す)ことで鎮静化させるか、どちらかしか民主的な進歩はないでしょう。少なくとも軍隊による鎮圧やクーデターは論外、国王のお出ましによる「手打ち」もなしにして欲しいと思うのは、この国を大好きな一個人としての願いです。
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