“大阪都構想”住民投票を決着させたもの

選挙中は「ふるさとを奪うな」とかのネガティブキャンペーンが横行し、選挙直後は「老害が若者の未来を阻止」などといった感情的な書き込みがネットを行き交った。しかし冷静になって住民の肚を探れば、もっとずっと実際的な理由が浮かび上がる。


“大阪都構想”に関する住民投票が5月17日に行われました。人口270万人の政令指定都市・大阪市を廃止して、東京23区をモデルにした特別区を設けるかどうかということでした。財源と権限を大阪府に集中することで、地域の活性化を図ろうというのが狙いです。

我が国初の試みの問い掛けに、大阪市住民が判断を下しました。結果は賛成69万票、反対70万票。僅か10,741票差で大阪都構想は否決されました。大阪市長兼「維新の会」最高顧問の橋本氏はこの結果の責任をとって政治家を引退するそうです。多分、「ここまで言っても分からんのなら、もう知らん」といった感じなのでしょうが、なかなか実際にできることではなく、やはり潔い行動です。

報道で取沙汰されている政界未来予想図は脇に置いといて、この投票結果に関しては、住民の意思を読み解くべく、色々と分析・検証すべきです。しかし正確に分かっているのは、全体で66.83%と投票率(つまり住民の関心)はかなり高かったことくらいで、その年代別・男女別ブレイクダウンは不明のままです。
http://hbol.jp/wp-content/uploads/2015/05/a2a22cc5c4d234299430afc92d727042.jpg

それとは別に、出口調査や事前の投票意向調査のグラフが幾つか出回っています。例えば
http://hbol.jp/40671/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88-2015-05-19-2-29-50
もしくは
http://twitter.com/setsu_may/status/599933292645847040/photo/1

これらのグラフが示すのは、30代を中心とする若い世代は大阪都構想に肯定的で、70代以上は反対派が圧倒的に多いということです。このグラフが正しいとすると、若い生産人口層は相対的に賛成が多かったけれど、高齢者の圧倒的反対により僅差で“大阪都構想”は否決されたということになります。

もし本当にそうなら、これは由々しき事態です。事実、そうした主張をする識者は少なくないようで、「大阪の行く末を託す住民投票だったのに、若者の意見より高齢者の意見が優先された」とか、「あとしばらくでこの世を去るような人達に地域の未来を決めさせるべきなのか」という意見がかなりあるそうです。大学生のわが娘も「同世代の意見」として似たようなことを述べていましたが、これは社会的少数派として若干被害者意識に陥りつつある若者世代のホンネに近い嘆きでしょう。

識者によっては、生活保護の受給率の高さと投票結果を結び付けようとする動きがあり、報道各社の事前の世論調査で女性の反対が多かったとのことから「橋本氏の慰安婦問題に関する発言が尾を引いている」との指摘もありました。しかし小生はいずれも無理のある議論だと考えます。

こうした議論の厄介な点は、議論の前堤になっているグラフおよび調査に関し、各年代の母数が分からないことを含め、本当に正しいデータに基づいているかという信頼性に疑問が残ることです。このグラフ通りなら、70代以上の総投票数割合が全体の3~4割を占めない限り“大阪都構想”は賛成多数になったはずなので、小生はこれらの世代別分布グラフの元となる調査結果の信ぴょう性自体に疑問を持っています。

そして同時に首をかしげています。一つには、今回の社会的ディベートは非常に非対称的だったためです。

“大阪都構想”賛成派は、今後の大阪地域の再生のための一つのビジョンとして具体的な改革構想を提示しているのに対し、反対派はNoとしか言わず、大阪再生の代替案を示していません。「“大阪都構想”には反対だけど、もっといい手がある。それは…」というように対案を示すことができて、はじめて政治論争の場に登場する資格があるはずです。それなしでただ単に反対するだけでは「大阪は今のままでいいんだ」と言っているようなものです。

本当に今のままでいいのでしょうか。バブル崩壊以降の大阪経済の地盤沈下と不振振りを見聞きする限り、決してそうは思えません。

個人的には、維新の会が掲げる新保守主義的な政策には全く賛成しかねるもの(特にカジノ法案)も含まれますが、少なくとも大阪都構想に関しては「大阪を何とかよくしたい」という思いが伝わってきます。それに対し、反対派の地元政治家たちは「ふるさとがなくなってしまう」などといった情緒的なネガティブキャンペーンに血道を上げ、極めて非建設的な振る舞いに終始していました。維新の会をこれ以上調子づかせては敵わないという極めて政局的発想に基づいてか、自民党と共産党が反対集会で共闘するという異常事態まで生まれていました。

反対派の逆襲を盛り上げたのは、自分たちの肩書が府議会議員から区議会議員に格下げになってしまう(また、下手をすると落選するかも知れない)議員および政党関係者だけではありません。クビになるかも知れない大阪市役所職員や、組合関係者といった人達は直接の利害関係者であり、当然ながら躍起になって反対運動を展開していたようです。でもそれらの事情は大多数の大阪市民にとっては関係ありません。では「反対」に票を投じた市民はどんな理由に基づいたのでしょう。利害関係者がチラシやHPで訴える反対の論拠はどうも根拠薄弱なのですが、そのどこが市民の多数派を肯かせたのでしょう。この疑問が小生の首を傾げさせるのです。

「今の仕組みの下でも、府と市が連携すれば2重行政は解消できる」というのが反対派の挙げる第一の理由ですが、それがずっとできないままで来たから大阪は無駄づかいが多く、ここまで地盤沈下したのです。これは国鉄や電電公社が民営化を迫られた際に社内の多数派だった反対派が「国営のままでもよいサービスを提供することはできる」と強弁していたのとそっくりです。全く説得力はありません。

また、2つ目の理由としては「特別区設置に伴う庁舎建設・システム改修などの初期コストが600億円以上掛かる」ということですが、毎年の経費削減が大きくて数年で元が取れるなら問題ありません。賛成派は毎年4,000億円の経費削減になるので初年度で軽く元が取れるといい、反対派は1億円しか経費削減にならないと主張していました。このギャップを埋めるべく、客観的・定量的な分析・検証が本当は必要だったはずです。真実は多分、両者の極端な主張の中間にあると思われます。

反対派の主な理由の第三点は「特別区になると住民サービスが低下する」ということですが、要は大阪市から特別区になると権限も財源も低下するので、自動的に住民サービスが低下するということらしいです。
http://blogos.com/article/111381/

この主張は一見、何となく頷けるところがあるのですが、「区だから権限・財源が小さくてサービス低下する」というのは論理的ではありません。区の対象となる地域範囲が狭くなり、住民数も少なくなるのですから、住民1人当たりの予算は本来大して変わらないはずです。住民に近い行政単位である特別区が住民サービスをするようになることで、むしろ「きめ細やかなサービス提供が可能になる」という賛成派の主張のほうが筋が通っているように思えます。

ちょっと視点を変えてみましょう。東京府が昭和18年に特別区を抱える東京都になったことで区民に対する住民サービスは明らかに低下したのでしょうか。今、東京都では区による住民サービスは都下にある主な市に比べ低レベルにあるのでしょうか。いずれも小生にはそうは思えません。

つまり住民サービスを提供する主体が市であろうが、府の下にある特別区であろうが、大きな意味を持つ訳ではないと考えざるを得ないのです。結局、大阪市および大阪府がどれほど住民サービスに予算を投じようとするか、そしてその財源の当てがあるのか、この2点次第ということではないでしょうか。前者は市長もしくは府知事の個々の政策方針と協調次第ですので、やや賛成派に分があると思えます。

後者、すなわち財源の問題はいかがでしょう。実はこれが最大のイシューではないでしょうか。大阪市がなくなって大阪府が直接財源を握ることで、大阪の中心市街区で発生する税金のかなりの部分が大阪市外に流れてしまうのではないか、という懸念が反対派には大きいのではないかと思えます。つまり「ワシらの稼ぎから生まれた税金を他の地域の奴らに使われてたまるか」ということですね。

実際、東京都の中心街で発生する膨大な税金の多くが東京都下もしくは東京以外にも使われていますから、これは「大阪都」にとっても現実的な問題です。セコい発想ではありますが、大阪人らしく損得勘定でいえば「損やがな」といった判断になりますね。直接の利害関係者を除けば、実は多くの反対派市民にとってはこの財源問題が一番の反対理由だったのではないでしょうか。

賛成派が提示する、二重行政の解消による大阪全体の発展のためという「あるべき行政構造=理想論」×「ちゃんとやったら=可能性」の主張に対し、反対派の利害関係者が耳のそばで囁いた「街の先行きのことは知らんけど、すぐに間違いなく起こるのは、ただでさえ足らん財源がさらに減ることやないか」という「勘定論×確実性」を比較して考えてみたら、後者に軍配を上げたというのが今回の「大阪の陣」の結果だったのではないでしょうか。

これだと世論調査の結果が賛成有利からやや反対派有利に移っていった理由も肚落ちします。当初は大阪の将来を観念的に考えて賛成の気分が強かった大阪市民の一定割合が、色々な情報に接しているうちに段々と、「他人にワシらの税金を使われてしまうのは我慢ならん」という感情的なところに収束してしまったのではないでしょうか。でもそんなレベルで市民の多数派が地域改革の議論に断を下してしまったのだとしたら、大阪の未来はそんなに明るくないのかも知れません。
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