製造の日本回帰、望ましくも険しい道

近年、超円高が止んで一時期は相当な円安が続いたのと、中国の人件費高騰が続いたせいで、日本から蜘蛛の子を散らすように消えてしまった製造機能を再び日本に戻そうという動きが目立つようになっている。

しかし一旦失った製造業の能力集積というものは、最終製品メーカーの思い付きや気まぐれだけではどうしようもない側面がある。それを見せつけたのが、6月17日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(TV東京系)の「ニッポン製"再起"に挑む!」の回だった。

年間70〜80種類の商品を開発・販売する家電メーカー『ツインバード工業』。本社は新潟県燕市、社員300人、年商130億円の中小メーカーだ。かつてはメッキ工場だったが、70年代に結婚式の引き出物を作り始め、電気ポットや携帯型テレビラジオ付きライトなど、人々が求めるアイデア商品を次々に世に送り出してきた。最近はユニークなデザインの製品を次々に出しており、我が家でも正面が鏡面のように美しいオーブントースタを最近購入している。

これに加え、他メーカーに近い品質ながら低価格の"ジェネリック家電"も多く生産。こうした多品種の開発を実現できたのは「何でも試作する開発力」と「生産を支える協力会社」だった。燕三条は古くからモノ作りの街、どんな商品でも量産化できる部品工場が数多くあったらだ。しかし、90年代の円高で生産拠点が中国へ移転し、地元の協力工場とも疎遠となっていった。

そんな中、ここ数年の円安と中国の人件費高騰で同社も戦略の変更を迫られ、国産回帰を検討していた。その第1号が扇風機。360度回転できる、今までにない商品だ。加えて、金属加工が盛んな地元・燕三条の技術である「磨き」や「絞り」をうまくいかした家電製品に作り上げる計画だ。

しかし、大きな問題があった。かつて部品供給してくれた地元工場が協力してくれるかどうかだ。実際、多くの地元の協力企業が規模縮小を強いられてきたため、腕のよい加工職人が減っているのだ。中には業態転換や廃業したところもある。番組では、ツインバード工業の企画部長が若手の担当を引き連れて、ご無沙汰している昔の協力工場(パーツ製造や金属加工など)に頭を下げに行く場面がいくつか出ていた。協力企業の社長の複雑な表情は見逃せなかった。

日本に戻そうというメーカーの努力は尊いが、「日本と下請けを見捨てたのは誰だったんだ?」と恨み言の一つも言いたい下請けの人たちの気持ちを忘れないで欲しいと感じた。

もう一つの例は、日本を捨てた前科のないクリーンな会社の話だった。以前にもこの番組で取り上げられていた、メード・イン・ジャパンを前面に打ち出して人気となったベンチャー腕時計ブランド「ノット」だ。

これまでは機械部分の日本製ムーブメントを使い、日本で組み立ててきたが、ボディや文字盤、針などの部品は中国製だった。しかしノットの遠藤社長は、これらの部品も日本製にして〝純日本製〟の腕時計復活を目指したいという。さらにこれを機会に、機械式高級腕時計づくりに挑戦しようというのだ。しかも価格を5万円以下という破格の設定にするという。正直、「無理だろ、それ」とつぶやいてしまった。

例えば、文字盤製造のできる工場をいざ探してもなかなか見つからない。文字盤に字を埋め込む「植字」などの技術は、とっくに中国に渡ってしまい、日本国内では既に衰退していたのだ(クビになるなど職人が廃業してしまっているのだ)。

遠藤社長は、ノットの時計を組み立てている秋田県仙北市の精密機器メーカー「セレクトラ」を訪問。同じ工場で文字盤も製造ができないか、依頼したのだ。職人が文字盤に「植字」する作業時間を測定すると、中国工場の職人の2~3倍も掛かることが判明。こればかりは熟練度の違いが現実に現れてしまうのだ。それでもこのメーカーは担当者に訓練をさせ、やがて中国工場の職人と同じレベルにまで達することができた。さすが日本人のまじめさと器用さだ。

一方、福島県須賀川市にある林精器では長年、国産高級腕時計のフレーム部分を製造してきた。特に"磨きの技術"は高い評価を受けている。この林精器にノットの新商品のフレーム部分を作ってもらいたいと遠藤社長は考える。

とはいえ、林精器製のフレームは、1つ10万円以上の機械式腕時計でしか使われない部品。最初はコストが合わないとして、難色を示される。しかし遠藤社長は自らシンプルで飽きないデザインを考え、それなら磨きを掛ける部分が少ないため、大幅なコストダウンも可能だと合意する。さすが伸び盛りのベンチャー社長、ちゃんと頭を使うところを分かっている!

横浜元町での新店舗で売り出したところ、どっとお客が殺到していた。この5万円の機械式腕時計も売れていた。それはお買い得だと思う。しかもその店では自分の好みの文字盤と針の組み合わせが選べ、その場で職人が組み立ててくれる仕組みになっている。いい意味で商売がうまいと感心した。
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