新規事業における素朴な疑問(11) 部下に冒険させない管理職

新しい事業や斬新な商品の企画を上申しようとすると、「もっと調査せよ。計画をブラッシュアップせよ」と何度もやり直しをさせる上司。彼らにこうした保守的な行動をとらせるものは何か。


クルマと並んで戦後ニッポンの躍進とものづくり品質を代表した家電業界。その凋落振りを分析する研究論文や考察記事は過去にいくつも発行され、それぞれ非常に鋭い分析視点が示されている。例えば:
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/6781.pdf
https://www.gov-book.or.jp/book/detail.php?product_id=265173
http://keieisha.zuuonline.com/archives/3513

これらで分析されている敗因には、デジタル化とモジュール化の進展が向かい風になった状況があり、垂直統合ビジネスモデルの陳腐化があり、グローバル市場の軽視とマーケティング力の弱さといった経営者の劣化があり、日本の人件費の高額さと長期にわたった超円高がありと、幾つもの複合的要因が組み合わされてしまったことはほぼ間違いない。

そんな中、ちょっと違った角度から面白い指摘をしている複数の記事に最近出遭った。それは新規の取り組みを部下にさせようとしない管理職が横行したからだというのだ。ニッポンの家電業界が世界市場に拡張していた時期には、新奇な発想を積極採用して新商品や新事業にしていたのが、ある時期以降はすっかり保守化したという指摘なのだ。

家電メーカーの企画部署や開発部門でそうした経験をした人たちの嘆き節がいくつも採り上げられていた。いわく「まったく新しい分野なので、いくら市場調査しても本当のところはやってみないと分からない。しかし上司は『さらに市場調査せよ、事業計画書を練り直せ』と繰り返すばかり。結局、他社に先行されてしまったことが何度もあった。でも彼らは出遅れの責任を取るどころか出世していった」といったものだ。

これは実は新規事業に関する典型的な問題で、家電業界に限る話ではない。そもそもなぜそれで出世できるのか、不思議な感じはするだろうが、本当だろう。既存ビジネスで収益を着実に上げている上に不確実な投資をしないのだから、短期的な収益は間違いなく上がる。保守的な管理職が出世できる訳は意外とシンプルだ。

本来、企業(enterprise)というものは不確定要素の大きい事業に大胆に取り組むための仕組みであるはずだが、近年の日本企業では、ROI(投資対効果)を錦の御旗にして「より確実な収益機会」をモノにする管理職が高く評価される傾向にある。その背景には、短期的利益を重視する株主資本主義の浸透がある。

そして「成果主義」という人事評価制度が減点主義的に運用されている企業では、部下にリスクのある新しい取り組みをさせない「保守化した管理職」を増殖させてしまうのだ。

そうした保守化した管理職は、従来からある製品ラインの延長上にあるモデルチェンジは必要以上に矢継ぎ早にさせようとするのに、まったく斬新なコンセプトに基づく新しいカテゴリーの製品や、ビジネスモデルごと入れ替えてしまうような新サービスを提案してもなかなか了承してくれない。前者はROIが計算できるが、後2者は計算できないからだ。

しかしこうした保守的な経営管理が横行すると、各企業が提供する製品・サービスは似たようなものになってコモディティ化しやすい。そしてイノベーティブな新規事業が生まれる余地はどんどん狭くなってしまう。畢竟、同じような領域での価格のたたき合いになりがちで、業界全体がレッドオーシャン化しやすい。これはまさにニッポンの家電業界が嵌ってしまった陥穽だ。

例えばルンバのようなロボット掃除機は、日本メーカーのほうが開発は先行していたと聞く。日本の家電メーカーが本当の意味で復活するためには、担当者はもちろん、管理職クラスにも真の企業家精神を復活させることが欠かせない。
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