フォーカスしながら新規事業開発を進める

『フォーカス戦略』と『新規事業』は矛盾すると思っている人が多いが、実はそうではない。しかし単純に本業集中だけやっていればよいと考えるのは『フォーカス戦略』ではないし、漫然と新規事業の企画・開発を進めていると事業のフォーカスが失われるのは間違いない。


年末に古い知人と久しぶりに会った時、彼は小生の名刺の裏にある「新規事業に関する戦略コンサルティング」という当社の売り文句を見つけて、「これは日沖さん得意の『フォーカス』と矛盾しないの?」と聞いてきた。20年ほど前に小生が『フォーカス喪失の罠』という本を出版したことやフォーカス戦略を中心にコンサルティングしてきたことを、彼はよく覚えていた。

つまり彼の頭の中では『フォーカス』と『新規事業』は矛盾する概念だったのだ。世間一般でもこうした捉え方は少なくないだろう。新規事業を開発すればするほど事業は拡散しフォーカスは失われる、と。

しかしそれは、確固とした戦略なしに漫然と新規事業を企画・開発していく場合の話である。当社のクライアントが展開する新規事業は逆に、フォーカス戦略を強化する方向で開発されている。どういうことか。

自社が業界一となれる領域を見定め、そこに資源を集中投入し(手段としてはM&Aを含む)、競争優位性を構築し、確固とした地位を築くのがフォーカス戦略である。失われた20年を経てようやく日本企業にも浸透してきた戦略概念だが、まだまだ誤解が多い。本業への集中と単純に理解している人が随分多いのだ。その理解だと、本業以外の新規事業は全て『非フォーカス』ということになってしまう。

しかしフォーカス戦略の肝心な部分は、本業周辺への戦略的な投資と事業展開により「フォーカス領域」を形成し、そこでの競争優位性を固めるところにある。それによってフォーカス領域においては絶対的な第一人者になり、圧倒的優位を確保するのだ。

この戦略を忠実に守っている例が「世界No.1の総合モーターメーカー」日本電産だ。色々な買収を行っているため無軌道に戦線が拡大してきたように誤解している向きがあるが、精密小型モーターの開発・製造に役立つかどうかで事業展開も買収の可否もずっと判断されてきた経緯がある。フォーカス戦略に沿ってがむしゃらに働けば世界一にもなれるという見事な例だ。

つまり『フォーカス戦略』と『新規事業』は矛盾しない。それどころか『フォーカス戦略』を強化するためには、フォーカス領域における果敢な「新規事業」投資も必要になってくるのだ。いわばフォーカス領域におけるドミナント状態を作るのだ。

戦略性のない漫然とした新規事業開発だと横方向に戦線が広がっていくだけだが、『フォーカス戦略』に沿った新規事業開発だと縦方向に深掘りしていくイメージだ。

こうした『フォーカス戦略』と『新規事業』の関係は大企業に限った話ではない。いや、むしろ中小企業こそよく考える必要がある。なぜなら中小企業にとって、どの領域でどうやって業界一のポジションを築き、そこでどうやってドミナント状態を作るのかを考えることが結局は事業発展の鍵だからだ。

このときに最もクリティカルなのが、「フォーカス領域」の範囲だ。単純に従来の本業をそのままフォーカス領域としては発展もしないし、大手を含む競合に周りを取り囲まれかねない。かといって無闇に広く捉えてしまうとただでさえ乏しい資源が分散してしまうので、競争優位性を築けずに終わってしまいかねない。むしろ当面のフォーカス領域、その先10年のフォーカス領域、といった具合に段々広げていけばよい。

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顧客接点にこそボトルネックが生じやすい

企業は激しさを増す競争環境の中で自社の競争優位性や差別化点を精一杯アピールし、何とか顧客の関心をつなぎとめようと工夫している。そのための致命的に重要なポイントになるのが顧客接点だ。しかしそこにこそボトルネックが生じやすい。


私事で恐縮だが、師走に入ってしばらくしたある日の昼過ぎ、何の前兆もなく、我が家でビデオを見られなくなった。何度も接続ケーブルを差し直したが効果はない。テレビ単独では見られるし、テレビ側では「信号が来ていない」と表示される。しかもビデオデッキの小さな液晶画面の表示変遷には特に違和感がない。この時点でどうやら接続ケーブルが故障したんだろうと小生なりに見当をつけていた。

メーカーS社の問い合わせ窓口に連絡したが電話予約には時間が掛かるので、LINEでのチャットでカミさんが症状を伝えた。すると先方からは「症状から判断するとビデオデッキ本体に問題がある可能性が高いので、修理窓口宛に本体を送ってください」との回答が来た。

多分接続ケーブルの故障だと見当をつけていた小生は意外に思い、LINEでのやり取りを確かめたが、メーカーの修理窓口がそう言うのだから仕方ないとビデオデッキを外し、送付準備を始めた。しかし思いついて系列の家電店を探し、連絡した。接続ケーブルの故障だったら系列店にあるケーブルで接続して問題なく映るはずなのですぐ判明して、ケーブルを買えば済むと考えたのだ。

実際にその系列店(あまり近所ではなかった)にビデオデッキを持ち込むと、なぜか(多分、素人が運んだせいでハードディスク=HDを揺らしたせいだろう)電源を入れてもビデオデッキがなかなか立ち上がらない。系列店の店主はすぐに「あぁこれはダメだね。本体がやられてる」と断言して、メーカーに送る手はずを始めようとした。

小生はHDが揺らされた影響とケーブル故障の可能性が高いことを主張して、店にある接続ケーブルをつないでもらったが、さらに1~2分ほど待ってもビデオデッキは立ち上がらない。他の客はいなかったが、店主が「こんな状態になったらまともに機能したことがない」と言い張るのでメーカーに送ることに同意し手続きした。

それから1週間余り、(それまでタイムシフト視聴に慣れ切った我が家の混乱や戸惑いは置いといて)まったく音沙汰がないのでしびれを切らした小生が店に連絡した。メーカーに問い合わせしてもらうと、その夕方に「メーカーのほうでずっと見ていても再現されないそうです」と返事があった。そこで「ケーブルに故障は?」と確かめると、あれこれFAX書類をめくる様子があり、やがて「あー、ケーブル不良とあるね」と一言。要はケーブルが悪かったことが判明したのだ。

さらに3日ほど時間がかかってようやく店からデッキを回収でき、買ってきた接続ケーブルで接続したところ、全く問題なく、録画してあったビデオを観ることができた。くれぐれも残念なのは、この一週間のロスで、家族が楽しみにしていた連続ドラマの最終回一つ前の回を多く見逃したことだ(リアルタイム視聴は我が家には難しすぎた)。

長々と我が家の「痛い」エピソードを伝えたのは、これが家電メーカーの戦略のボトルネックに関係するからである。

御周知のとおり、日本および世界では小売りの世界の主役が小規模店から大型量販店に、そして最近ではネット優位にシフトしている。そうした比較的新しい販売チャネルでは故障やトラブル対応に十分な対応ができないため、メーカー独自に問合せ窓口のコールセンターを拡充している。そこでは電話応答の待ち時間が延びる傾向にあるため、チャット問い合わせの採用も急速に拡がりつつある。

もう一方で、高齢化が進む日本市場では、修理や細々とした消耗品などを提供する身近な相談窓口として、地域に根差した系列ショップを既存家電メーカーは再び武器にできる可能性が強くなっている。件のS社の系列店はそういう戦略的な位置づけにある店の一つなのだ。

しかしこの記事で指摘したように、こうしたメーカーの戦略意図とはまったく異なる状況が現出している可能性がある。

S社のLINEによるチャット問い合わせの件は、「問診」技術が低レベルのためか症状の判断が適切でなく、「怪しかったらとりあえずメーカーにモノを送らせて、修理工場で対応すればいい」と安易に考えている節がある(今回判明したようにメーカーの修理工場もあまり賢明な対応をできないようだが)。これはメーカーとしてもコスト高になるし消費者の満足度を下げる方向に働きやすい。

今回のS社系列店の対応は地域のハブとして機能するにはあまりに知識や辛抱が足らず、「ややこしいのは取りあえずメーカーの修理工場に送ってしまえ」という姿勢があからさまだ。これもまたメーカーにはコスト高になるし、消費者の満足度を下げる「ダメ対応」の典型だ。

つまりメーカーS社の意図する「量販・オンライン販売の不備を補足するコールセンター(のチャット部隊)」も、「地域のハブとして身近で親切な中核ショップ」のいずれも機能しておらず、むしろメーカーの負担を増しながら消費者の不満を掻き立てるボトルネックとなっているかも知れないということだ。

こうした致命的なボトルネックの問題が大きくなる前に摘み取る方策としては、(昔ながらのやり方だが)専門企業に覆面リサーチを依頼するのが有効だろう。つまりメーカーに雇われている身分を隠しながら、機器故障で問い合わせするふりをして、自社の対応チャネル毎に定期的に巡回チェックするのだ。自社の顧客接点上での弱点を適時把握し、改善の手を素早く打つためには必要なコストだと思う。

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ブログ中断の宣言

思い立って調べてみると、このブログ場所に移ったのが12/06/16つまり2012年6月なので5年半近く。その前の「BPMを考える」から通算すると優に8年を越す。

何やかやと続けてきたが、近頃はとみに書き込む時間が物理的に確保できないので、そろそろブログを中断(終了?)する時が来たようだ。これも優先順位の問題だし、ちょうど人生の節目を迎えるにあたってよい機会でもある。

拙い文章をたまに覗いて下さった読者諸兄には厚く感謝申し上げます。なお、コラム記事のほうは月に1~2度程度ではあっても続ける所存なので、そちらを楽しみにしていただければ幸いであります。

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営業改革を考える (14) むやみに風呂敷を広げない

会社にとって重要な改革であればあるほど狙い・範囲を欲張らないことが肝要だ。絞った狙いを達成するため、絞ったレバレッジポイントを集中的に攻める。そうすれば改革に参加する人たちが改革ストーリーを理解しやすくなり、賛同・協力はもちろん、実行時に迷わなくなる。中核的な部門をしっかりと改革して、そのノウハウをもって他の部門に成功を広げていくことができる。


往々にして営業プロセス改革プロジェクトでは「遠心力」が働く(いや、大概の業務改革プロジェクトでも似たようなものと云えそうだ)。

どういうことかというと、社内関係者、特に経営者から「あの部門も含めて欲しい」「この製品ラインにも初めから参加してもらったほうが」「こちらの課題もついでに解決できないだろうか」等々といった要望が途中から(大体は全体構想策定が終わって「さてこれから本格化するぞ」という段階になって)もぞもぞと出てくるのだ。

そうした狙いや範囲(プロジェクトの「スコープ」と呼ぶ)の途中追加・拡大はかなり厄介な問題を引き起こすことが多い。せっかく整理した全体構想の焦点がぼやけ、歪み、悪い場合には一部矛盾する。すっきりした改革ストーリーに仕上げたはずなのに、妙に複雑になってしまい、初めて聞いた人の頭にストンと入らなくなってしまう。当然、肚落ちもしにくい。

さらに先に進むにつれて問題は深刻化する。制度や新方式の狙いがぼやけ、業務のつながりが悪くなり、余計な手間が増える。システムが複雑怪奇になり、工数と費用が膨大に増える一方で、操作を面倒に思う人が多くなり、せっかく導入したシステムが宝の持ち腐れになる、云々。

要望を出してくる経営者の気持ちは分からないでもない。最初は比較的シンプルに考えてプロジェクトを始めた(そして外部コンサルまで依頼した)のだが、自分なりに色々と考えているうちに、気になる点が増えてくるのだ。「あの部門を外すと拗ねるかも」「業務的に関連しているのだから、一気通貫で改革したほうが」「この課題も一緒に考えてもらったほうがいいんじゃないか」…等々と。

しかし狙いの途中追加や「スコープ」の途中拡大はよほどの場合でない限り、改革プロジェクトの迷走をもたらしかねないので、原則として当社では断っている(もちろん、その要望が妥当至極で、最初から仕切り直しすることを覚悟してくれるならばこちらも腹を括って見直すケースはある)。

当社が担当するのは超上流なので、ここでいい加減な妥協をすると、下流工程の人たちは悲惨な事態に陥りかねないのだ。その分、プロジェクトを始める前の企画相談の段階で色々な論点を挙げて議論することで、こうした「途中の迷い」の可能性を事前に極力排除している。

しかし世の中にはそこまで最初に仕切りを行わず、お客の思い付き的な追加要望を簡単に受け入れてしまって、後々難渋するプロジェクトがゴマンと存在するようだ。

「構想段階に主たる原因を発する」とされる比較的最近の例(営業改革の例ではないが)を思いつくままに挙げても、電力業界の「広域基幹システム」、クレディセゾンの共同機関システム、ウェスチングハウスの原発施設建設、三菱重工の豪華客船建造、等々と出てくる。ここまで有名ではなくとも、「痛い目を見た」という話は大概のお客さんや知り合いのコンサルタントからもよく聞く。

経営者の皆さん、くれぐれも安易な「狙いの追加」「範囲の拡大」に走る誘惑に負けてはいけませんぞ。

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営業改革を考える (13) KPIツリーは本質から考えよ

他社事例をそのまま真似ること、典型的BSC構造に無理矢理押し込むこと、KGI/KPIからブレイクダウンすること。KPIツリー図一つとっても、本質的でないやり方に走ることになりがちだ。形から入るのではなく、まずは「そもそも何のため」から考えよう。


以下は最近の営業プロセス改革プロジェクト(以下、PJTと称する)での出来事だ。

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改革後にモニタリングすべきKPIを考えようとなった際に、PJTメンバーの一人が「たたき台」と称して、あるKPIツリー図を作ってきた。それがいわゆる典型的BSCの構造になっており(下から「学習と成長視点」「プロセス視点」「顧客視点」「財務視点」に区分)、いかにもすっきりとしており、しかも営業プロセス改革向けに尤もらしく見えた。

しかし所々今回のPJTでは使っていない用語や概念が入っていたので幾つか突っ込むと、「これはツールベンダーの事例集から戴いてきました」という。

その時にはそれはそれで参考として見る分には構わないと思ったのだが、そうでもなかった。その後、実際にKPIの素案を考える担当に指名されたメンバーは何度か具体案を出してくれるのだが(この会社はレベルが高いので、幾つかのパートでは各メンバーに素案を考えてもらっている)、えらく小手先の手直ししか出ず、皆がピンと来ない。よほど最初に目にしたKPIツリー図のインパクトが強かったのだろう。

そこで一旦、頭の中をリセットしてもらうため、そもそも何のためにKPIを設定するのかから説く資料を作って議論をやり直した。そうした多少の回り道はあれど、最終的には改革ビジョンを整理し、それに基づき議論し、モニタリングすべきKPIのツリー構造も出来上がった。ツールベンダーの挙げた例とは似ても似つかないが、このクライアント独自のKPIツリーが出来上がったのだ。
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大きな改革プロジェクトになればなるほど、少なくない数のKPIを構造的に設定することは必然となると小生は考えているので、ツリー構造を採ること自体に問題がある訳ではない。また、各KPIがいろいろな側面をカバーし全体としてバランスを執るというBSCの基本的考え方も正しいと考えている。

しかしKPIツリーに関連し、多くの営業改革/業務改革プロジェクトで問題だと思えることを三つほど挙げたい。

第一に、上述のプロジェクトのように関連の薄い他社プロジェクトのKPI例を鵜呑みにして似せてしまうのは馬鹿げている。他社は他社、自社は自社だ。

第二に、典型的BSC構造を盲信するのも危険だ。「学習と成長視点」「プロセス視点」「顧客視点」「財務視点」の4区分はかなり汎用的なことは認めるが、必ずしも大半のプロジェクトで通用する訳ではない。

特に営業プロセス改革分野だと、財務視点では「受注/売上拡大」などを謳いたいところだが、それは製品・サービス面での強化充実が同時にないと難しい。つまりプロジェクトのコントロール範囲外なのでKGI/KPIには相応しくないケースが多い。また「学習と成長」の視点というより「学習と定着」の視点といったほうがピンとくることが普通だ。

最後に、他社のプロジェクト事例アウトプットを拝見したとき、KPIツリーの構造とその策定過程に疑問を抱かざるを得ないケースが少なくない。KPIツリーが綺麗過ぎるのだ。

そもそもKGI(最終的なゴール達成の指標)をブレイクダウンすると綺麗に主要KPIになる、などということが実際の業務改革/営業プロセス改革で当てはまることは滅多にない。最終的なゴール達成を示すKGIと、それを達成するためのレバレッジポイントに関するKPIの一部が直接的につながらないことがむしろ普通なのだ。

むしろ最終的なゴールを達成するための改革レバレッジポイントは何で、そのための施策は何で、それがうまくいった状態を表す指標は何、という順でKPIが決まるのが真っ当な考え方だと小生は考えている。それより下のレベルも同様だ。

つまり改革のロジックが先にあり、それぞれの出来不出来を表す指標が後でついていく、ということだ。KGI/KPIのブレイクダウンが先にあるという話ではない。

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